世界初!光で加速するコレラ菌
―新しい細菌のエネルギー制御経路―
2026/04/14
発表のポイント
概要
コレラは、細菌の一種であるコレラ菌に汚染された水や食品の摂取の後、小腸に定着・増殖したコレラ菌がコレラ毒素を産生し大量の水様性下痢を引き起こす急性の感染症です。現在も世界各地で公衆衛生上の問題となっています。(図1-A)。
この細菌が感染を成立するためには、細菌自身の「動く力」が重要です。コレラ菌は、細長い「べん毛」という器官を回転させることで水の中を泳ぎます。これまで、細菌は温度、栄養、化学物質などの環境変化に応じて行動を変えることが知られていました。一方で、コレラ菌は河川や沿岸域など光の届く水環境に生息しているにもかかわらず、光にどのように応答するのかはほとんど分かっていませんでした(図1-B)。
琉球大学大学院医学研究科の許 駿 助教、山城 哲 教授、東北大学大学院工学研究科の中村 修一 准教授、東京大学大学院工学研究科の冨岡 倫太郎 研究員らの研究グループは、コレラ菌が光を感じて動きを変えるのか、またそのしくみは何かを詳しく調べ、その成果が米国科学アカデミーが発行する学術雑誌「PNAS」誌に掲載されました。

図1. コレラ菌の感染サイクルと環境応答
A:コレラ菌の感染サイクル。コレラ菌に汚染された飲料水や食品の摂取によりヒトに感染し、下痢症を引き起こす。排泄された糞便中のコレラ菌は環境水源(河川など)に流入し、自然環境中で生存して再びヒトへの感染源となる。
B:コレラ菌の環境センシングと運動性。コレラ菌は一本の極べん毛を用いて遊泳し、粘度、温度、pH、塩濃度、降水など様々な環境要因を感知しながら行動を調節する。本研究では、これらの要因に加えて光がコレラ菌の運動制御に影響する可能性に着目した。
用語説明
(注1)コレラ菌
入江や河口などに存在する細菌 Vibrio cholerae のうち、特定の血清群(O1およびO139)に属し、コレラ毒素を産生するものをコレラ菌と呼び、ヒトに感染すると激しい下痢を引き起こします。単極のべん毛を使って水中を泳ぐことができます。
(注2)cAMP(cyclic AMP)
細胞の中で情報を伝える小さな分子の一つで、さまざまな生理機能を調節します。本研究では、光刺激を受けた後に増加し、コレラ菌の運動性を高める役割を果たします。
(注3)べん毛 (Flagellum)
細菌の体についている鞭のような構造です。根本の部分にモーターの役割を果たすタンパク質があり、これが回転することで推進力が生まれ細菌は水中を泳ぐことができます。
論文情報
著者:Jun Xu*, Shuichi Nakamura, Suzuna Tomoyose, Reika Shimabuku, Rintaro Tomioka, Tetsu Yamashiro*
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)
DOI:10.1073/pnas.2530860123