バイオマス炭素材料を使った高耐久な全有機電池を開発
-大面積パウチ電池直列モジュールの実証:全有機電池実用化へ向けて-
2026/04/21
発表のポイント
概要
全有機電池の性能は、材料そのものの性質だけでなく、有機分子と炭素材料がどれだけ適合するかによって大きく左右されます。
東北大学学際科学フロンティア研究所(FRIS)の中安祐太准教授らの研究グループは、植物由来バイオマス炭素のミクロ孔(注3)を有機分子の大きさに合わせて精密に調整することで、水系全有機電池の高性能化と長寿命化を実現しました。
本研究では、キノン系有機分子と炭素材料の相互作用に着目し、分子サイズに適合するミクロ孔を設計する「分子適合型ミクロ孔設計(注4)」という新たな材料設計指針を提案しました。複数の植物由来バイオマス炭素を比較した結果、同じ原料でもミクロ孔構造が異なる場合があり、「有機分子と相性の良い大きさ」のミクロ孔体積が電池性能向上の鍵であることを突き止めました。これは、原料の種類よりも、分子サイズに適合するミクロ孔を再現性高く形成できるかどうかが、電池性能を左右する決定的要因であることを示しています。
この設計指針に基づいて作製した炭素材料を用いた大面積パウチ電池では、3000回の充放電後も99.75%の容量を維持し、複数電池を直列接続したモジュール動作も確認されました。さらに、3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(注5)を活用した電子密度相関解析により、ミクロ構造と電池特性の関係が詳細に可視化され、分子と孔構造の適合が性能を左右する仕組みが明確になりました。
本成果は2026年4月20日、材料化学に関する分野の専門誌Journal of Materials Chemistry A に掲載されました。
研究の背景
現在広く利用されているリチウムイオン電池は、高いエネルギー密度を実現する一方で、リチウムやコバルト、ニッケルといった鉱物資源に大きく依存しています。これらの資源採掘は、森林破壊や水資源の枯渇、土壌汚染などを通じて生態系への影響が指摘されており、自然を再生し、より良い環境を取り戻すことを目指すネイチャーポジティブ(自然再興)の観点からも、その持続可能性が問われています。
こうした背景のもと、金属資源への依存を大幅に低減できる次世代蓄電技術として注目されているのが、電子の受け渡しを得意とする特別な有機分子を用いた全有機電池です。不燃性の水系電解液と組み合わせることで安全性や環境適合性の向上できると期待されています。
しかし、多くの有機分子は水への溶解性が高く、充放電の過程で電解液中に溶け出して容量が急速に低下することや、電極内部での電子・イオン輸送が十分でなく、分子が凝集することにより、活物質(注6)利用効率が100%に到達しにくいことが課題とされてきました。これらの問題を解決することは、鉱物資源に依存した従来の材料・エネルギー技術から脱却し、持続可能な資源循環を志向した新たな技術の実現に向けて不可欠です。
今回の取り組み
本研究グループは、植物由来の活性炭(多孔質炭素)の細孔サイズを制御し、相性の良いサイズの細孔に有機分子を導入して閉じ込めることで、充放電過程での分子の溶出を抑制することに成功しました(図1)。また、有機分子の分散状態や界面電子構造の制御により、活物質利用率の向上を図る新たな材料設計戦略を提案しました。本戦略は、単なる経験的な改良ではなく、分子閉じ込めによって生じる電子状態変化や反応場の形成の理解に基づくものであり、最終的には実用形態であるパウチ電池での動作実証にも成功しました。全有機電池に関連する研究で実用レベルに近いパウチ電池を報告した例は限られています。
本研究で作製したパウチ電池(図2左)では、厚膜電極で単位面積当たりの活物質量が約28 mg cm⁻²の条件において、エネルギー密度が約1 mWh cm⁻²という全有機電池として極めて高い性能を有することがわかりました。
また、実用的な負荷に耐えられるかを評価する繰り返し充放電試験において、3000サイクル後の容量保持率は99.75%と、劣化率は0.25%にとどまり、高い耐久性を有することが実証されました(図2右)。さらに、9個のパウチ電池を直列接続したモジュールでは、表示電圧約5 Vの出力が確認されました。このモジュールを用いたスマートフォンやタブレット端末の充電デモンストレーションにより、実負荷条件下でも問題なく動作し、外部デバイスへの給電が可能であることが示されました(図3)。
今後の展開
本成果は、資源依存型の蓄電技術から、生態系と共存できる材料循環型エネルギー技術への転換へ向けた重要な知見を提供するものです。水系全有機電池は、環境負荷が小さいだけでなく低い電圧の電気でも充電できるという特徴があり、微生物燃料電池(注7)のように発電電圧が低い電源からでも、直接充電できる可能性があります。こうした性質は、地域分散型エネルギーシステムやマイクログリッド(注8)への応用に向けた重要な基盤となります。
研究グループは今後、株式会社里山エンジニアリングの実証パートナーと協力し、地域資源を活かした安全なエネルギー技術の実用化を図るとともに、軽量・安全・リサイクル性に優れた次世代電池の開発を加速させ、持続可能な社会の実現へとつなげる見込みです。既報(参考文献1)の有機分子含浸技術を組み合わせることで、全有機電池のさらなる性能向上が期待できると中安准教授は話しています。
また本成果は、特定の分子に限らず、さまざまな分子電極や分子触媒とカーボン材料の組み合わせにも応用できる可能性があり、体系的な研究によって炭素材料の応用に向けた多様な知見が得られると期待されます。
なお、本成果は、東北大学学際科学フロンティア研究所の学部学生研究ワーク体験(FRIS URO)制度のもとで実施され、筆頭著者を含む計3名の本学学部生が中心となって研究を遂行しました。学部段階から最先端研究に参画した学生が主導的役割を担い、材料設計から電池実証、放射光解析に至るまで一貫して取り組みました。
謝辞
本研究の一部は、株式会社里山エンジニアリングからの共同研究資金の支援を受けて実施されました。また、本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI Grant Number JP24K01243)、環境省 環境研究総合推進費(JPMEERF20223C04)、文部科学省 若手研究者キャリア自立支援事業「学際融合グローバル研究者育成東北イニシアティブ(TI-FRIS)」、および東北大学 3GeV 高輝度放射光施設 NanoTerasu 戦略的活用推進支援制度の支援を受けて行われました。研究設備利用に関し、東北大学学際科学フロンティア研究所の共同研究支援プログラム(FRIS CoRE)による支援を受けました。また、本研究で使用した試料の提供にあたり、株式会社クラレより支援を受けました。
用語説明
(注1)全有機電池
正極・負極の活物質に金属ではなく有機分子を用いる電池の総称。資源制約が小さい材料設計が可能である一方、低分子材料では充放電に伴う性能劣化が課題とされている。
(注2)パウチ電池
アルミラミネート等の袋状外装で密閉する電池形式。電解液量・内部構造を実用に近い形で設計することができるため、実用化前段階の性能試験に用いられる。
(注3)ミクロ孔
多孔質材料の孔の分類で、ミクロ孔は概ね2 nm未満の孔のこと。
(注4)分子適合型ミクロ孔設計
扱う分子の幾何学的サイズや拡散特性に合わせて、孔径分布・孔体積・アクセス性(入口やメソ孔ネットワーク)を設計するという本研究を基に提唱された設計手法。
(注5)NanoTerasu(ナノテラス)
東北大学青葉山新キャンパス内にある国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)と一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)を代表機関とする放射光施設。世界最高水準の高輝度X線を使って物質の構造や電子状態を原子レベルで解析することが可能。
(注6)活物質
実際に電子を受け渡ししてエネルギーを蓄える機能を有する物質のこと。本研究では電子の受け渡しを得意とする有機分子が活物質として機能している。
(注7)微生物燃料電池
微生物が有機物を分解する際に生じる電子を利用して発電する電池。廃水中の有機物などをエネルギー源として利用できるため、廃水処理と発電を同時に行える環境調和型の技術として注目されている。
(注8)マイクログリッド
地域や施設単位で電力を自給・制御する小規模な電力ネットワークのこと。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーと、蓄電池などの電力貯蔵装置を組み合わせ、発電・蓄電・消費を一体的に管理するシステム。
参考文献
1. 学際科学フロンティア研究所ウェブサイト
『安全で環境にやさしい電池』を作る新技術を開発
論文情報
著者:Keisho Ri, Nagihiro Haba, Ryotaro Kumashiro, Ayaka Kido, Tomoya Yamada, Yuto Katsuyama, Masaru Watanabe, Kayoko Kobayashi, and Yuta Nakayasu*
*責任著者:東北大学 学際科学フロンティア研究所 准教授 中安 祐太
掲載誌:Journal of Materials Chemistry A
DOI: 10.1039/D5TA10161A


