高効率CO2電解プロセス設計の新指針
-圧力で生成物を制御する新原理を解明-
2026/05/18
発表のポイント
- 高圧条件でCO2を電気分解すると、CO2が高密度に電極表面を覆うことで電子状態が変化し、反応経路そのものを変化させられることが分かりました。
- CO2を再資源化して燃料や化学品を製造するプロセスを圧力によって制御する新しい指針を明らかにしました。
- 高圧電解を利用した高効率カーボンリサイクル技術の開発や、再生可能エネルギーを利用した化学品製造プロセスの実用化への貢献が期待されます。
概要
二酸化炭素(CO2)を電気分解し、資源化する「電気化学的CO2還元反応(CO2RR)プロセス(注1)」は、抜本的なCO2削減法として注目されていますが、CO2の水中溶解度が低いために反応速度や選択性の制御が大きな課題でした。
東北大学学際科学フロンティア研究所の笘居高明教授、大学院工学研究科のZhang Xishuo大学院生、多元物質科学研究所の岩瀬和至准教授らの研究グループは、高圧条件下でのCO2電解反応において、圧力で反応性を変化させる新しい反応メカニズムを明らかにしました。本研究では、最大20 メガパスカル(MPa)の高圧条件での電気化学実験に第一原理計算を組み合わせることで、CO2還元反応の圧力依存性を体系的に解析しました。その結果、CO2圧力を5~15 MPaまで上げると、溶解度増加により反応活性が向上する一方、さらに高圧になると電極表面でのCO2被覆率が高まり、電子移動特性が変化することで反応経路が変わることが明らかになりました。
本研究は、高圧CO2電解において単なる濃度増加効果だけでなく、表面被覆による電子状態変化が反応選択性を決定する重要な要因であることを初めて示したものです。この知見は、CO2から燃料や化学品を製造する電解プロセスの設計に新たな指針を与えるとともに、将来的には高圧電解を利用した高効率カーボンリサイクル技術の開発や、再生可能エネルギーを利用した化学品製造プロセスの実用化に貢献することが期待されます。
本研究成果は、米国化学会が発行する学術誌ACS Catalysisに2026年5月15日(米国時間)付で掲載されました。
研究の背景
地球温暖化対策の観点から、二酸化炭素(CO2)を排出するだけでなく資源として再利用する「カーボンリサイクル技術」が強く求められています。その中でも、再生可能エネルギー由来の電力を用いてCO2を化学品へと変換する電気化学的二酸化炭素(CO2)還元反応(CO2RR)は、持続可能な社会の実現に向けた有望な技術として注目されています。CO2RRにより、一酸化炭素(CO)やギ酸(HCOOH)などの基礎化学品を製造することが可能であり、これらは燃料や化学産業の原料として幅広く利用できます。
しかしながら、CO2は水中への溶解度が低いため、反応に供給されるCO2量が制限されやすく、反応速度や生成物の選択性を高めることが大きな課題となっていました。この問題を解決するために、これまでガス拡散電極の利用や電解セル構造の工夫など、さまざまなアプローチが検討されてきました。
その中で、高圧条件を利用してCO2の溶解度を高める手法は、反応物供給の制約を根本的に改善できる有効な方法として注目されています。実際に、CO2圧力を上げることで反応活性が向上することは知られていましたが、その一方で、圧力と生成物選択性との関係については体系的な理解が十分に進んでいませんでした。特に、高圧領域において反応がどのような原理で変化するのかについては、明確な指針が存在しないのが現状でした。
今回の取り組み
本研究では、最大20 MPa(約200気圧)という高圧条件下でCO2電解反応を行うことができる独自の電気化学実験系を構築し、金(Au)およびスズ(Sn)触媒を用いて反応機構を詳細に解析しました。さらに、実験結果を第一原理計算(密度汎関数理論(DFT)(注2))と組み合わせることで、圧力変化に伴う反応メカニズムの変化を分子レベルで解明しました。
その結果、CO2圧力の増加に伴い、反応の支配因子が大きく変化することが明らかになりました。具体的には、CO2圧力を5~15 MPa程度まで高めると、水中へのCO2溶解度が増加し、電極へのCO2供給が促進されることで反応活性が向上します。この領域では、濃度効果によって反応が支配されており、従来の理解とも整合する結果となりました。
一方で、さらに圧力を高めた領域では、電極表面に吸着するCO2の量が大幅に増加し、高密度に表面を覆う状態となります。この状態では、単なる供給量の増加にとどまらず、電極表面における電子の分布や中間生成物の電子状態が変化し、反応経路そのものが変わることが新たに分かりました(図1)。
このメカニズムの違いは、生成物選択性にも顕著に現れます。スズ触媒では、圧力の増加に伴いギ酸生成がCO2溶解度のみでは説明できないほど急激に進みます。一方、金触媒では、高圧条件においてCO生成の選択性がいったん向上した後、さらに高圧になると低下する非線形な挙動が観測されました(図2)。これらの結果は、触媒の種類と圧力条件の組み合わせによって生成物を制御できる可能性を示しています。
本研究は、高圧CO2電解において、従来重視されてきた濃度効果に加え、表面被覆による電子状態の変化が反応選択性を決定する重要な要因となることを初めて体系的に示したものです。これにより、圧力を積極的に活用した新しい反応設計指針が提示されました。
今後の展開
本研究で得られた知見は、CO2電解プロセスの設計において、圧力を単なる反応促進のための操作条件としてではなく、反応選択性を制御する主要なパラメータとして活用できることを示しています。今後は、触媒材料の選択や電解条件の最適化と組み合わせることで、CO2を原料として目的とする化学品を高効率かつ選択的に製造する、持続可能な化学品製造プロセスの実現に貢献することが期待されます。
本研究をリードした笘居教授は「今回示された『表面高密度被覆による電子状態変化』という概念は、CO2電解に限らず、他の電気化学反応や触媒反応にも適用可能な普遍的な知見であり、エネルギー変換や資源循環に関わる幅広い分野への波及効果が見込まれます。今後は、より多様な触媒材料への展開や、連続運転可能な高圧電解システムの開発を進めることで、実用化に向けた研究を加速させていく予定です」と今後の展望を語っています。

図1. 金(Au(110))およびスズ(Sn(100))触媒上におけるCO2還元反応経路の自由エネルギー(1/9MLは9つのCO2吸着サイトにCO2分子が1つ吸着していることを示します)。
(a) 金触媒:CO2がCOOHなどの中間体を経て一酸化炭素(CO)へ変換されます。
(b) スズ触媒:CO2がHCOO中間体を経てギ酸(HCOOH)へ変換されます。
縦軸の「Gibbs自由エネルギー」は反応の進みやすさを表す指標で、値が低いほどエネルギー的に安定であり、反応が進みやすいことを意味します。

図2. 50 ℃における各圧力条件下(5~20 MPa)でのCO2電解の生成物選択性。
(a) 金触媒における一酸化炭素(CO)および水素(H2)の生成割合。
(b) スズ触媒におけるギ酸(HCOOH)および水素の生成割合。
縦軸「ファラデー効率」は、投入した電気エネルギーのうち、目的の生成物の生成に使われた割合(電気の利用効率)を表します。
謝辞
本研究は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「水熱電解法による炭素・熱循環の新スキーム」(JPMJFR206W)からの支援を受けて実施しました。またZhang Xishuo大学院生は、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)「東北大学高等大学院博士後期課程学生挑戦的研究支援プロジェクト」(JPMJSP2114)、および東北大学高等大学院LEAPプログラムの支援を受けました。本論文の出版にあたっては、東北大学「オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」からの支援を受けました。
用語説明
(注1)電気化学的二酸化炭素(CO2)還元反応(CO2RR)
電気分解反応によりCO2を分解し、酸化物から酸素を減らすことで、化学的に有用な物質に変換する反応。
(注2)密度汎関数理論(DFT)
化学分野で広く用いられる理論計算手法。電子密度に基づいて分子の構造や反応性を予測する方法。
論文情報
著者:Zhang Xishuo(東北大学大学院工学研究科)、岩瀬和至(東北大学多元物質科学研究所)、高柳龍生(東北大学大学院工学研究科)、橋本祐介(東北大学学際科学フロンティア研究所)、笘居高明*(東北大学学際科学フロンティア研究所)
*責任著者:東北大学学際科学フロンティア研究所 教授 笘居高明
掲載誌:ACS Catalysis
DOI: 10.1021/acscatal.6c00443
お問合せ先
東北大学学際科学フロンティア研究所 教授 笘居 高明(とまい たかあき)
TEL:022-217-5630
Email:takaaki.tomai.e6@tohoku.ac.jp