ダイヤモンド光デバイスの共鳴波長制御に成功
―MEMS技術により量子フォトニクスデバイスの高機能化へ―
2026/06/17
発表のポイント
概要
ダイヤモンドは、カラーセンター(注4)を有し、量子情報処理を支える有力材料として注目されています。一方、フォトニック結晶は光を閉じ込めたり制御したりできる構造であり、光と量子状態の相互作用を高める役割を担います。この両者を組み合わせたダイヤモンドフォトニック結晶は、量子フォトニクス(注5)デバイスを実現するための重要な要素技術として研究されていますが、加工誤差によって共鳴波長が変化しやすく、製造後に光学特性を調整する技術が求められていました。
東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻の金森義明教授らの研究グループは、UNCD製フォトニック結晶とMEMSアクチュエータを集積し、共鳴波長を機械的に制御する技術を開発しました。作製したデバイスでは、印加電圧75 Vにより共鳴波長を最大23 nmシフトさせることに成功しました。
本成果は、ダイヤモンド光デバイスの高機能化につながる新たな波長制御技術を提供するものであり、量子通信、量子コンピューティング、高感度センサなどへの応用が期待されます。本研究成果は2026年6月5日に科学誌Diamond and Related Materialsに掲載されました。
研究の背景
ダイヤモンドは、広いバンドギャップ、高い熱伝導率、高耐圧特性などを有することから次世代パワー半導体材料として期待されています。また、量子情報処理に利用できるカラーセンターを有することから、量子コンピューティングや量子通信を実現する量子フォトニクス材料としても注目されています。
フォトニック結晶は、光の波長程度の周期構造を利用して光を閉じ込めたり制御したりする人工光学構造です。ダイヤモンドフォトニック結晶は、カラーセンターからの発光を強めたり、光と量子状態の相互作用を高めたりするための重要なデバイスとして研究されています。特に量子フォトニクス応用では、カラーセンターの発光波長とフォトニック結晶の共鳴波長を高精度に一致させることが重要であり、そのため共鳴波長を精密に制御する技術が求められています。
しかし、フォトニック結晶の光学共鳴は構造寸法に極めて敏感であり、数十ナノメートル程度の加工誤差によって設計した共鳴波長から大きくずれてしまいます。そのため、製造後に光学特性を調整できるチューニング技術が求められていました。
従来は酸化処理や温度変化、希ガス凝縮などの手法が検討されてきましたが、操作が煩雑であったり極低温環境が必要であったりするなどの課題がありました。
今回の取り組み
東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻の金森義明教授、池田太郎大学院生らの研究グループは、UNCDを用いた一次元フォトニック結晶とMEMSアクチュエータを一体化し、光学特性を機械的に制御できる新しい光デバイスを開発しました。
本研究では、MEMSアクチュエータによってフォトニック結晶の周期構造を伸縮させることで、内部を伝搬する光の共鳴状態を制御する手法を提案しました。
図1に開発したデバイスの概念図を示します。フォトニック結晶の両側に配置した静電駆動型MEMSアクチュエータによって周期構造を機械的に変化させることで、光の共鳴波長を制御します。
図2に作製したデバイスの電子顕微鏡(SEM)写真を示します。UNCDからなるフォトニック結晶、ばね構造、櫛歯型アクチュエータが一体形成されており、高精度なナノ加工によって作製されています。
図3に印加電圧に対するフォトニック結晶周期の変化を示します。印加電圧75 Vにおいて、フォトニック結晶の周期は1004 nmから1076 nmまで変化し、印加電圧の増加に伴い、フォトニック結晶の周期が増加することを確認しました。
図4にフォトニック結晶周期と共鳴波長の関係を示します。フォトニック結晶周期の変化に伴い、共鳴波長が最大23 nmシフトし、提案手法による波長制御の有効性が実証されました。
本研究は、ダイヤモンドフォトニック結晶の共鳴モードをMEMS技術によって制御する新たな波長チューニング手法を示したものであり、量子フォトニクスデバイスへの応用に向けた重要な成果です。
今後の展開
本研究で実証した技術は、ダイヤモンド光デバイスに新たな波長制御手法を提供するものです。
量子フォトニクス分野では、カラーセンターの発光波長と光共振器の共鳴波長を高精度に一致させることが重要ですが、本技術により製造後でも最適な波長調整が可能になります。
また、本研究で提案したチューニング原理はUNCDに限定されるものではなく、将来的に単結晶ダイヤモンド薄膜技術が発展した場合にも適用可能です。
今後は量子光源、量子通信デバイス、量子コンピューティング用光回路への展開に加え、高感度センサや波長可変光フィルタなどへの応用も期待されます。
謝辞
本研究の一部は、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)」事業(JPMXP1225TU0038)の支援を受けて実施されました。また、本研究の一部は東北大学大学院工学研究科附属スマートシステム超集積化研究開発センターの設備を用いて行われたものです。また、本研究に関する論文は『東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受けました。
用語説明
(注1)超ナノ微結晶ダイヤモンド(UNCD)
数ナノメートルサイズの結晶粒からなるダイヤモンド薄膜材料。機械的強度や耐久性に優れ、MEMSとの高い親和性を有する。
(注2)フォトニック結晶
光の波長程度の周期構造を持つ人工光学材料。光の伝搬や共鳴を制御できる。
(注3)MEMS
Micro Electro Mechanical Systems(微小電気機械システム)の略。微細加工技術により、機械構造と電気回路を一体的に集積したデバイス。
(注4)カラーセンター
ダイヤモンド結晶中の欠陥に起因する発光中心。代表的なものに窒素空孔中心(NVセンター)があり、量子状態を制御できることから、量子通信や量子コンピューティングへの応用が期待されている。
(注5)量子フォトニクス
光を利用して量子情報の生成・伝送・制御を行う技術分野。量子通信や量子コンピューティングの基盤技術として期待されている。
論文情報
著者:Taro Ikeda* and Yoshiaki Kanamori
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 池田太郎
掲載誌:Diamond and Related Materials
DOI:10.1016/j.diamond.2026.113810



