高アスペクト比エッチングホールの非破壊三次元観察を実現

―次世代3D NANDフラッシュメモリ開発に貢献する構造評価技術―

2026/07/09

発表のポイント

  • テンダーX線タイコグラフィCTにより、次世代3D NANDフラッシュメモリ(注1)開発に向けた深さ約10 µmの高アスペクト比エッチングホール(注2)構造を非破壊で三次元可視化しました。
  • 約67 nmの三次元空間分解能を達成し、ホール間距離やエッチング深さのばらつきを定量的に評価することに成功しました。
  • 半導体デバイスの製造プロセス評価や次世代メモリ開発に向けた新しい非破壊三次元計測技術として期待されます。

概要

近年、生成AIやクラウドサービスの普及に伴い、大容量データを保存するための3D NANDフラッシュメモリの高性能化が進んでいます。3D NANDでは、数百層に積層された薄膜構造に高アスペクト比エッチングホールを形成する必要がありますが、その内部構造を非破壊で三次元評価することは容易ではありません。

東北大学大学院工学研究科の大川成大学院生、国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)の高橋幸生教授らの研究グループは、3 GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu」(注3)のビームラインBL10Uで得られる高輝度テンダーX線(注4)を用い、X線タイコグラフィ(注5)計算機断層撮影(CT)(注6)を組み合わせることで、高アスペクト比エッチングホールの三次元構造を非破壊で可視化することに成功しました。

得られた試料像から、ホール径が深さ方向に変化している様子や、エッチングプロセスに由来すると考えられる形状変化を定量的に評価しました。本研究成果は、半導体製造プロセスの高度化に貢献する新しい三次元構造評価技術として期待されます。

本研究成果は、米国物理学協会誌Applied Physics Lettersに、7月8日付で、オンライン掲載されました。

研究の背景

生成AIやデータセンターの発展に伴い、3D NANDフラッシュメモリの高集積化が急速に進んでいます。現在では数百層規模の積層構造が実用化されており、さらなる大容量化に向けて、より深く、より細い高アスペクト比エッチングホールの形成が求められています。このような高アスペクト比構造の内部形状を評価するためには、電子顕微鏡による断面観察や、光散乱計測を用いた形状評価が広く用いられています。しかし、電子顕微鏡では試料の切断や薄片化が必要であり、光散乱計測では平均的な構造情報しか得られないため、同一試料内部における個々のホールの三次元構造を非破壊で評価することは容易ではありません。そのため、半導体製造プロセスの高度化に向けて、内部構造を非破壊で三次元観察できる新たな評価技術が求められていました。

今回の取り組み

研究チームは、3 GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu」のコヒーレントX線イメージングビームライン(BL10U)を利用し、次世代3D NANDフラッシュメモリ開発に向けた高アスペクト比エッチングホール試料の観察を行いました(図1)。テンダーX線は、シリコン酸化膜(SiO2)や窒化シリコン(Si3N4)などから構成される半導体デバイス構造に対して高い感度を有しており、試料内部の電子密度分布を高い空間分解能で可視化できます。本研究では、X線タイコグラフィと計算機断層撮影(CT)を組み合わせることで、直径約100 nm、深さ約10 µmの高アスペクト比エッチングホールの三次元構造を約67 nmの三次元空間分解能で非破壊観察することに成功しました。また、ホール径の深さ方向変化や内部形状のばらつきに加え、ホール間距離やエッチング深さの分布を定量的に解析し、エッチングプロセスに起因すると考えられる三次元的な構造変化を評価することに成功しました(図2)。

今後の展開

本研究では、テンダーX線タイコグラフィCTを3D NANDフラッシュメモリの高アスペクト比構造へ適用し、従来の電子顕微鏡観察や光散乱計測では困難であった個々のエッチングホールを対象とした非破壊三次元評価技術としての有用性を示しました。今後は、さらなる高分解能化や測定効率の向上を進めることで、次世代3D NANDフラッシュメモリ開発への応用に加え、先端ロジックデバイス、半導体パッケージ、MEMSデバイスなどの複雑な三次元構造評価への展開が期待されます。また、製造工程の最適化や歩留まり向上に貢献する評価技術としての活用も期待されます。


図1. テンダーX線タイコグラフィCT測定系の模式図と再構成像
(a)テンダーX線タイコグラフィCT測定光学系の概要。
(b)再構成した二次元投影位相像(左)と試料構造の模式図(右)。

図2. 三次元再構成画像の断面とエッチングホールのばらつき評価の結果
(a)三次元再構成画像。内部構造を見やすくするため一部を透過表示している。
(b)再構成像のyz断面(左)と、異なる位置(z)におけるxy断面(右)。
(c)ホール間距離の評価。赤点で示したホールの隣接距離は、深い位置ほどばらつきが大きくなる。
(d)ホールの深さの分布。ばらつき(3 σ )は1 μm 未満であり均一性が高い。

謝辞

本研究における放射光実験は、一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)のコアリション制度の下、NanoTerasu BL10Uにて実施されました。また、試料の作製にご協力いただいた東京エレクトロン宮城株式会社の関係者の皆様に感謝いたします。本研究は、JSPS科研費特別推進研究(JP23H05403研究代表者:高橋幸生)、JSPS科研費特別研究員奨励費(JP25KJ0550研究代表者:大川成)の助成を受けて行われました。また、本成果に関する論文は『東北大学 2026年度オープンアクセス推進のための APC 支援事業』の支援を受けました。

用語説明

(注1)3D NANDフラッシュメモリ

データを記録するメモリセルを三次元方向に積み重ねることで大容量化を実現した不揮発性メモリ。スマートフォン、パソコン、SSD、データセンターなどに広く利用されている。近年は生成AIやクラウドサービスの普及に伴い、より大容量・高性能な3D NANDフラッシュメモリの開発が進められている。

(注2)高アスペクト比エッチングホール

次世代3D NANDフラッシュメモリの製造において形成される微細な穴構造。深さが直径よりもはるかに大きいため高アスペクト比(HAR: High Aspect Ratio)構造と呼ばれる。このような構造は加工や内部評価が難しく、半導体製造技術における重要な課題の一つとなっている。

(注3)NanoTerasu

宮城県仙台市 東北大学青葉山新キャンパス内にて整備が進められ、2024年4月に稼働を開始した中型放射光施設。国の主体機関である国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)と一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)を代表機関とする宮城県、仙台市、国立大学法人東北大学、一般社団法人東北経済連合会からなる地域パートナーで構成され、費用負担も含めた役割分担の元で整備が進められている。

(注4)テンダーX線

軟X線(Soft X-ray)と硬X線(Hard X-ray)の中間に位置する波長域(おおよそエネルギーで2~5 keV程度)のX線を指す。

(注5)X線タイコグラフィ

コヒーレントX線回折イメージングの手法のうちの一つ。試料にコヒーレントX線を照射する際、試料面上でX線照射領域が一部重複するように試料を二次元走査し、各走査点において回折強度パターンを取得する。得られた複数の回折強度パターンに対して位相回復計算を実行することで、一枚の試料像を取得する。

(注6)計算機断層撮影(CT)

試料をさまざまな角度から透過して得られた投影画像を、計算機によって再構成することで三次元構造を可視化する手法。試料内部の密度分布や構造情報を非破壊的に取得できる。

論文情報

タイトル:Nondestructive Structural Evaluation of High-Aspect-Ratio-Etched Holes by Tender X-ray Ptychography with Computed Tomography
著者:Naru Okawa*, Nozomu Ishiguro, Yuhei Sasaki, Masaki Abe, Shuntaro Takazawa, Mihiro Ikenaga, and Yukio Takahashi*
*責任著者:東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター 大学院生 大川成、教授 高橋幸生
掲載誌:Applied Physics Letters
DOI:10.1063/5.0339243

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター 教授 高橋 幸生
TEL:022-217-5166
Email:ytakahashi@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
Email:press.tagen@grp.tohoku.ac.jp
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
Email:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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