MEMS一体型の単結晶ダイヤモンド量子センサー実現

―振動中の曲げ応力を直接検出―

2026/09/03

【工学研究科研究者情報】
大学院工学研究科機械機能創成専攻 准教授 戸田 雅也
研究室ウェブサイト

発表のポイント

  • 単結晶ダイヤモンド(SCD)(注1)で作製したMEMSカンチレバー(注2)内部のNVセンター(窒素-空孔センター)(注3)領域を、応力検出に直接利用しました。
  • 引張・圧縮の曲げ応力に応じて光検出磁気共鳴(ODMR)(注4)共鳴周波数が変化し、19.8 MHz/GPaの感度での応答を確認しました。
  • 振動位相に同期した周期的なODMR周波数シフトを捉え、動的な曲げ応力の計測を実証しました。
  • 量子センシング機能とMEMS機械構造を一体化した小型・集積型センシング技術への展開が期待されます。

概要

機械や微小構造の内部応力を直接計測する技術は、MEMSデバイスの状態監視や高機能化において重要です。東北大学大学院工学研究科の戸田雅也准教授らの研究グループは、物質・材料研究機構(NIMS)の研究者らと共同で、SCDから作製したMEMSカンチレバー内部のNVセンターを、そのまま応力センサーとして利用する手法を実証しました。

本研究では、カンチレバーの振動に伴う引張・圧縮の曲げ応力に応じて、ODMRの周波数が変化することを確認しました。さらに、振動周期に合わせた動的な応力変化の計測にも成功しました。本成果は、機械構造と量子センシング領域を単一デバイス内に一体化できることを示しており、今後の小型・集積型センシング技術への展開が期待されます。

本研究成果は、2026年8月28日に、学術誌Functional Diamondにオンライン掲載されました。

研究の背景

NVセンターは、ダイヤモンド結晶中で炭素原子の一つが窒素原子に置き換わり、その隣に空孔が存在する格子欠陥です。NVセンターの電子スピンは緑色レーザー照射によって赤色蛍光を発し、その蛍光強度はマイクロ波によるスピン共鳴条件で変化します。このODMRの共鳴周波数は磁場、温度、応力などに応答するため、NVセンターは微小領域を計測する量子センサーとして盛んに研究されています。

一方、従来の機械応力センシングにおいては、ナノダイヤモンドなどのセンサー材料を別の機械構造へ配置・固定する方式が一般的でした。そのため、デバイスのさらなる小型化や高感度化を実現する手段として、センサーと構造体をいかに一体化(集積化)するかが、製造技術における重要な課題となっていました。

今回の取り組み

本研究では、単結晶ダイヤモンド基板から自立した微小なカンチレバーを作製し、その内部にセンサーとして機能するNVセンター領域を直接形成することに成功しました。

具体的な作製プロセスとして、基板へ炭素イオンを注入して内部にグラファイト層と欠陥層を形成し、熱処理後にグラファイト層を犠牲層(注5)として除去することで、長さ約140 µm、幅約10 µm、厚さ約450 nmのダイヤモンドカンチレバーを作製しました。この熱処理の過程で、イオン注入で生じた空孔とダイヤモンド中の窒素不純物が結合し、欠陥層の近傍に応力検出部となるNVセンターを含む領域が形成されます。

実験では、カンチレバーを28.3 kHzで振動させ、静磁場を4つあるNVセンター結晶軸の一つにほぼ一致させてODMRを測定しました。なお、カンチレバー先端の変位はレーザードップラー振動計で測定し、有限要素解析によって表面の曲げ応力へ換算しています。その結果、引張曲げでは共鳴周波数が高周波側へ、圧縮曲げでは低周波側へシフトしました。0.2 Vppおよび0.4 Vppの駆動条件で、それぞれ約2.0±0.5 MHzおよび4.0±0.5 MHzの周波数シフトを観測し、曲げ応力に対して19.8 MHz/GPaの感度で直線的に応答することを確認しました。さらに、光子計数のタイミングを1振動周期内でずらす位相分解パルスODMR計測により、ODMR周波数シフトがカンチレバーの振動位相に同期して周期的に変化するという、動的な応力変化の観測にも成功しました。

今後の展開

本成果により、機械構造と量子センシング領域を単一のダイヤモンドMEMS内に一体化できることが示され、今後の高度な応力センシングへの応用が期待されます。


図1. 作製した単結晶ダイヤモンドMEMSカンチレバー。上部の模式図は、単結晶ダイヤモンド層(SCD-CVD layer)、イオン注入による欠陥層(Detective layer)、グラファイト犠牲層(Graphite layer)からなる断面構造を示す。

図2. 動的曲げ応力のODMR検出結果。(a) 引張 (b) 圧縮状態で観測された共鳴周波数シフト、(c) 曲げ応力とODMR周波数シフトの関係、(d) 振動位相に同期した周期的な周波数シフト。

謝辞

本研究は、JSPS科研費(課題番号JP24H00287、JP24K00828)の支援を受け、東北大学スマートシステム超集積化研究開発センター(SIRC)および東北大学マイクロシステム融合研究開発センター(μSIC)の設備を利用して実施されました。

用語説明

(注1)単結晶ダイヤモンド(SCD)

Single-Crystal Diamondの略。結晶方位が連続した単一結晶からなるダイヤモンド。高いヤング率、耐熱性、化学的安定性などを有し、MEMS(微小電気機械システム)や高感度センサー材料として利用される。

(注2)MEMSカンチレバー

半導体微細加工技術で作製する微小な片持ち梁。外力や質量、応力などによって生じる変形や振動特性の変化を利用して各種センシングを行う。

(注3)NVセンター(窒素-空孔センター)

ダイヤモンド結晶中で炭素原子の一つが窒素原子に置き換わり、その隣に炭素原子の欠損(空孔)が存在する格子欠陥。電子スピン状態を光学的に読み出せるため、磁場、温度、応力などを検出する量子センサーとして研究されている。

(注4)光検出磁気共鳴(ODMR)

Optically Detected Magnetic Resonanceの略。NVセンターへ光を照射しながらマイクロ波の周波数を掃引し、スピン共鳴に伴う蛍光強度の変化を測定する手法。共鳴周波数の変化から磁場や応力などの情報を読み出すことができる。

(注5)グラファイト犠牲層

単結晶ダイヤモンド内部へイオン注入を行い、熱処理によってグラファイト化した層を形成した後、その層を選択的に除去して微小な自立構造を作製する加工法。本研究では、このプロセスに伴って形成される欠陥層近傍のNVセンター領域を応力センシングに利用した。

論文情報

タイトル:Dynamic Bending Stress Sensing Using NV Centers in a Single-Crystal Diamond MEMS Cantilever
著者:Yuta Ochiai, Vu Xuan Tung Duong, Zilong Zhang, Takahito Ono, Meiyong Liao, Masaya Toda*
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 准教授 戸田 雅也
掲載誌:Functional Diamond
DOI:10.1080/26941112.2026.2721758

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学大学院工学研究科 機械機能創成専攻 准教授 戸田 雅也
TEL:022-795-5810
Email:toda@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
Email:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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