明るく素早く応答するX線検出用新規ガーネット型シンチレータの開発に成功
2026/10/14
発表のポイント
概要
医療画像診断や工業製品の検査に使われるX線画像技術では、X線を光に変換するシンチレータ(注3)の性能が重要です。高い発光量と高速応答、照射後に残る光(残光)の低減が求められますが、応答を速めると発光量が低下するなど、これらの両立が課題でした。
東北大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)の鎌田圭教授、同大学金属材料研究所(IMR)の吉川彰教授(NICHe兼務)、同大学大学院工学研究科の末積尚人大学院生らは、株式会社C&A、チェコ科学アカデミー物理学研究所(FZU)、ドイツ電子シンクロトロン(DESY)、ラトビア大学固体物理学研究所などとの国際共同研究により、セリウムとマグネシウムを添加したYAGG結晶の発光特性を大幅に改善して発光性能を高め、小魚や電子部品の内部構造をX線撮影で可視化に成功しました。本成果は、材料開発から発光機構の検証、画像実証までを国際連携で進めたもので、次世代X線イメージングや高エネルギー物理学用ガンマ線検出器を支える検出材料への応用が期待されます。
本研究成果は、2026年10月3日に国際学術誌Laser & Photonics Reviewsに掲載されました。
研究の背景
次世代X線イメージング技術である光子計数型X線CT(PCCT)(注4)は、光子を一つずつ検出してエネルギーを識別し、物体内部の形状や物質の違いに関する情報を取得します。この用途に向けたシンチレータには、エネルギー識別に必要な高い発光量と、多数の光子を区別するための高速応答・低い残光が求められます。
実用シンチレータであるGAGG(注1)はガドリニウム(Gd)を含み、Gdの特性X線が検出器の外へ逃げることで生じるエスケープピーク(注5)が、エネルギー識別精度に影響します。そこで研究グループは、Gdをイットリウム(Y)に置換したYAGGを選択し、Gd由来のエスケープピークを回避する材料設計を進めました。
また応答の高速化には、マグネシウムなどのアクセプター元素を共添加し、電荷補償によって4価のセリウム(Ce4+)を安定化する手法が有効です。しかし、GAGGでは高速化に伴って発光量が低下するため、明るさと高速応答の両立が課題でした。
今回の取り組み
日本・チェコ・ドイツ・ラトビアの共同研究チームは、アルミニウムとガリウムの比率が異なる2種類のYAGGについて、マグネシウム共添加の効果を比較しました。DESYでのX線吸収分光により、安定化するCe4+の割合が母材組成に強く依存することを確認しました(図1)。真空紫外分光と熱刺激発光測定は、Ce4+が電子を捕獲し、欠陥や微量不純物を経由する遅い発光過程を抑える機構を支持しています。母材組成と添加元素を組み合わせることでセリウムの価数制御による性能向上し、発光量は最大7.1倍に増加し、残光強度は100分の1未満に低減しました。速い発光成分の減衰時定数は約30~50ナノ秒となりました。
本材料はPCCTへの応用を目指して設計したものです。今回の研究では、X線イメージング用途での性能評価と内部構造の可視化の概念実証を目的に、放射光X線による撮影を行いました。あいちシンクロトロン光センターで、結晶をレンズ・カメラと組み合わせ、小魚の歯や鰓に関わる微細構造、microSDカードの内部回路を可視化し、市販のLuAG:Ce(注1)シンチレータに近い空間分解能を確認しました(図2)。
今後の展開
産業応用に向け、チョクラルスキー法(注6)による結晶の大型化にも取り組んでいます。関連研究では直径1インチの育成を報告し、現在の開発では直径2インチの単結晶育成に成功しています(図3)。
今後は結晶品質と特性の均一性を高め、光センサや読み出し回路と組み合わせた光子計数型検出器としての評価を進めます。国際共同研究で得た設計指針を基盤に、PCCTをはじめ、医療画像診断や工業製品の非破壊検査への展開が期待されます。

図1. Y3(Al,Ga)5O12ガーネット構造にCeのみ、Ce,Mgを共添加した結晶の外観(左図)と、各試料の X線吸収分光スペクトル(右図)。Mgを共添加したサンプルでは、Ce3+に加えてCe4+の存在が確認できる。
謝辞
本研究は、JSPS科研費(22H04961)、JST CREST(JPMJCR2331)、JAEA英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業(23813521)、経済産業省Go-Tech事業(2411030070)、EUのPhysics for Future、チェコのLASCIMAT、ラトビアの研究助成等の支援を受けて実施しました。末積尚人大学院生は東北大学材料科学国際共同大学院プログラム(GP-MS)の支援を受けました。放射光実験はDESYおよびあいちシンクロトロン光センターで実施しました。
用語説明
(注1)YAGG・GAGG・LuAG:Ce
ガーネット構造の酸化物。YAGGはY3(Al,Ga)5O12、GAGGはGd3(Al,Ga)5O12、LuAGはLu3Al5O12を表す。「:Ce」はセリウムの添加を示す。
(注2)価数制御
イオンの電荷状態を調整すること。本研究ではMg2+を共添加し、結晶の電気的中性を保つ電荷補償によってCe4+を安定化する。
(注3)シンチレータ
放射線を吸収し、そのエネルギーを可視光などに変換する材料。光センサやカメラと組み合わせて放射線を検出する。
(注4)光子計数型X線CT(PCCT)
X線光子を一つずつ検出し、その数とエネルギーを記録して断層画像を得る技術。エネルギーに応じた画像から物質の違いを調べられる。
(注5)エスケープピーク
入射X線の吸収に伴って生じた元素固有の特性X線が検出器の外へ逃げ、入射エネルギーより低い位置に現れるピーク。
(注6)チョクラルスキー法
融かした原料から種結晶を回転させながら引き上げ、単結晶を育成する方法。大型結晶の製造に用いられる。詳細は以下文献を参照:
Scientific Reports 2026, 16, 6780.
https://doi.org/10.1038/s41598-025-31659-x
論文情報
著者:Hisato Suezumi, Kei Kamada*, Karol Bartosiewicz*, Masao Yoshino, Liudmila Gushchina, Vladimir Babin, Yevheniia Smortsova, Nadiya Zhutova, Vladimir Pankratov, Alena Beitlerova, Martin Nikl, Kohei Nakanishi, Rikito Murakami, Satoshi Ishizawa, Yuui Yokota, Akira Yoshikawa
*責任著者:東北大学未来科学技術共同研究センター 教授 鎌田圭、チェコ科学アカデミー物理学研究所 Karol Bartosiewicz
掲載誌:Laser & Photonics Reviews(e71959)
DOI:10.1002/lpor.71959
