糖鎖均一化抗HER2ヒト化モノクローナル抗体<sup>※1</sup>の創製に成功

2015/11/25

【概要】
東北大学大学院工学研究科と公益財団法人野口研究所、株式会社免疫生物研究所は、糖鎖リモデリング法※2により、糖鎖を均一化した抗HER2ヒト化モノクローナル抗体(以下、「トラスツズマブ」という)を創製することに世界で初めて成功しました。東北大学で開発した水溶液中、無保護糖から1段階でオキサゾリン体を合成する手法を用いて、まず数種類の均一糖鎖オキサゾリン体を調製し、次いでカイコから調製したトラスツズマブから均一なアクセプターを作製し(株式会社免疫生物研究所)、そしてこの両者を糖鎖合成酵素にて反応させる事により、糖鎖均一化トラスツズマブを創製する事に成功しました((公財)野口研究所)。本合成法を用いると、トラスツズマブ以外の抗体医薬品の糖鎖均一化への応用も期待できます。本成果は、12月1日から米国サンフランシスコ市で開催される米国糖鎖生物学会において発表されます。
【背景】
タンパク質に付加されている糖鎖の構造は不均一であることが知られていますが、抗体医薬品などのバイオ医薬品(糖タンパク質)ではタンパク質に付加される様々な糖鎖構造の違いが薬効や安全性に大きく影響する事が明らかとなりつつあります。特に抗体ではFc領域※3に結合している糖鎖がADCC活性※4、CDC活性等の薬理活性を制御している事が分かり、抗体の糖鎖機能が注目を浴びています。
【本技術の開発により解決しようとする課題】
タンパク質に付加されている糖鎖と生理機能の相関関係を研究する為には、糖鎖構造が均一である糖タンパク質を作製する必要があります。抗体医薬品のような大きな糖タンパク質では、有機合成手法だけでは調製が難しく、糖鎖リモデリング法(化学酵素合成法)の製法確立が望まれていました。
【課題を解決するための手段】
塩化2-クロロー1,3ジメチルイミダゾリニウム試薬(DMC)を用いることにより、無保護のN-結合型糖鎖から、水中において一段階で、本合成の鍵となる糖供与体(オキサゾリン体)を調製しました(東北大学大学院工学研究科)。さらに遺伝子組換えカイコによりトラスツズマブを調製し((株)免疫生物研究所)、不均一な糖鎖を複数の糖鎖分解酵素で処理する事により、均一なアクセプターを調製しました。次いで得られた糖供与体(オキサゾリン体)及びアクセプターを糖鎖合成酵素にて反応させ、糖鎖均一化トラスツズマブの創製に世界で初めて成功しました((公財)野口研究所)。本合成法を用いると、トラスツズマブ以外の抗体医薬品の糖鎖均一化への応用も期待できます。

(図1)オキサゾリン体を用いる糖鎖均一化トラスツズマブの合成
【発明の効果】
抗体のFc領域に結合している糖鎖にコアフコースが欠落しているとADCC活性が高まる事が知られています。糖鎖均一化トラスツズマブでは6種のコアフコースのない糖鎖均一化トラスツズマブを作製し、ADCC活性を測定したところ、糖鎖により、それぞれ活性に差がある事が判明しました。今後更に糖鎖分解酵素のライブラリーを充実させ、種々の糖タンパク質で同様の糖鎖リモデリング研究を積み重ねる事により任意の均一な評価用糖タンパク質を作る有用な手段を提供していきます。糖タンパク質における糖鎖の役割を明確にする研究の進展に大きく資するものと期待しています。
〔成果発表〕
2015年12月1日から、米国サンフランシスコ市で開催される米国糖鎖生物学会で発表を予定しています。
【用語説明】
(※1)抗HER2ヒト化モノクローナル抗体(トラスツズマブ)
HER2は、ヒト上皮増殖因子受容体ファミリーに属する増殖因子受容体であり、ヒト乳癌細胞等において高発現が認められます。HER2に対するヒト化抗体である「抗HER2ヒト化モノクローナル抗体(トラスツズマブ)」は、抗腫瘍作用をもつ抗体医薬品(ハーセプチン)として、乳癌や胃癌の治療に用いられています。トラスツズマブの主な抗腫瘍メカニズムは、ADCC活性であると考えられています。

(※2)糖鎖リモデリング法
糖鎖リモデリング法とはまず糖鎖分解酵素を利用して、タンパク質に付加されている不均一な糖鎖を末端のGlcNAcのみ残して切除し、GlcNAcが付加した均一なタンパク質部分を調製する(これをアクセプターと呼ぶ)。一方、別途人為的に調製した任意の糖鎖を用意し(これをドナーと呼ぶ)、このアクセプターとドナーを糖鎖合成酵素を用いて人為的に連結する。これにより、任意の糖鎖構造を持った均一な糖タンパク質を自由自在に合成できる。

(※3)Fc領域
すべての抗体は"Y"字型の4本鎖構造をもっている。"Y"字の下半分の縦棒部分にあたる場所をFc領域 (Fragment, crystallizable) と呼ぶ。

(※4)抗体依存性細胞障害(ADCC)活性
抗体が抗原となる細胞や病原体に結合すると、その抗体がマクロファージやNK細胞等のエフェクター細胞を呼び寄せ、細胞や病原体を殺傷します。これを、抗体依存性細胞障害(ADCC)活性といいます。ADCC活性は、抗体医薬品の抗腫瘍作用において、大変重要なメカニズムと考えられています。抗体に付加されている糖鎖にコアフコースが含まれないと、ADCC活性は飛躍的に上昇します。
【お問合わせ先】
東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻
生体分子化学講座 機能高分子化学分野
教授 正田晋一郎
〒980-8579  仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-11-514
Tel: 090-7666-3654 (or 022-795-7230)
Fax: 022-795-7293
E-mail: shoda*poly.che.tohoku.ac.jp(*を@に変えてください。)
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