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世界初 浮いたグラフェンナノリボンの大規模集積化合成に成功~グラフェンデバイスの実用化に大きく前進~

2016/06/03

東北大学大学院工学研究科電子工学専攻の加藤俊顕准教授、鈴木弘朗(同大学院生、日本学術振興会特別研究員)、金子俊郎教授らのグループは、東京大学大学院工学系研究科の澁田靖准教授、北海道大学大学院工学研究院の大野宗一准教授らとの共同研究により、次世代の超高性能電子デバイスに大きな貢献が期待されているグラフェンナノリボン注1)のウェハースケールでの集積化合成手法の開発に成功しました。

グラフェンナノリボンは優れた電気輸送特性を持つことが知られていますが、実用デバイスに利用するための大規模集積化に大きな課題が残されていました。本研究では、独自に開発した手法によりセンチメーターオーダーの基板全面に1,000,000本以上のグラフェンナノリボンを90%以上の高効率で集積化合成することに世界で初めて成功しました。また、本手法で合成したグラフェンナノリボンは基板に接触しない架橋(浮いた)構造をとるため、優れた電気輸送特性に加え、ナノスケールの機械振動が可能であることから、これらを活用した新概念デバイスの実現にも大きな貢献が期待されます。

本研究成果は、2016年6月2日に英国科学雑誌Nature Communications(電子版)に掲載されました。

1.背景

グラフェンシート注2)は優れた電気伝導特性(キャリア移動度:200,000 cm2V-1s-1)、柔軟な機械的構造、高い光透過性を合わせ持つ次世代の炭素ナノ材料として大きな注目を集めている新規ナノ材料です。一般にグラフェンシートは2次元シート構造をとっており、バンドギャップを持たない金属的振る舞いをします。これに対してグラフェンシートがナノメートルオーダー幅の1次元リボン構造(グラフェンナノリボン)をとることで、グラフェンシートに有限のバンドギャップを発現させ得ることが近年明らかになりました。これにより、グラフェンナノリボンは主に半導体デバイス応用分野において、世界中から大きな注目を集めている材料となっています。しかしながら、このグラフェンナノリボンの構造(リボン幅、長さ等)を制御して合成する手法、及び基板上の狙った位置と方向に合成する技術は開発されておらず、グラフェンナノリボンを集積化する際の大きな課題となっていました。これまで本研究グループは、この課題を解決可能な画期的な合成法を開発してきました(T. Kato & R. Hatakeyama, Nature Nanotechnology 7(2012)651)。本手法を用いることで、グラフェンナノリボンを基板上の任意の場所に任意の方向で合成することが可能です。しかしながら、この従来手法では合成効率が低いため、実用化に向けた大きな課題となっていました。

2. 研究成果概要及び本成果の意義

これまで本研究グループが開発した従来手法は、独自に開発した急速加熱拡散プラズマ化学気相堆積法注3)とニッケルナノバーを反応触媒として利用するという独創的な手法です(図1)。このため、ニッケルナノバーという特殊な触媒から架橋した構造のグラフェンナノリボンが合成される機構が全く解明されておらず、このことが合成効率を向上できない一つの要因となっていました。

そこで本研究では、さまざまな合成条件を系統的に変化させて実験を行い、さらにこれらの結果をニッケル液滴の安定性に関する分子動力学シミュレーション、及びニッケル-炭素2元系合金に関する相図を用いた理論解析と組み合わせることで、実験と理論の両側面からの合成機構解明に向けた研究を行いました。その結果、ニッケルナノバーから架橋グラフェンナノリボンが合成される反応が、ニッケルナノバーの構造安定性に大きく関連していることが分かりました。具体的には、グラフェンナノリボンの合成に必要な900度近い高温状態ではニッケルナノバーが液体状態で存在すること、液体状ニッケルナノバーの安定性がSiO2基板との界面で決まる濡れ性(親水性、疎水性)により決定すること、さらにその濡れ性がニッケルナノバー中に溶け込んでいる炭素濃度に依存していることが明らかとなりました。これらの結果から、本手法における架橋グラフェンナノリボン合成が次の合成モデルにより説明可能であることを実証しました(図2)。①急速加熱によるニッケルナノバーの液体化、②プラズマからニッケルナノバーへの高効率炭素供給によるニッケルナノバー液体の安定(親水性)化、③冷却初期におけるニッケルナノバー液体からのグラフェンナノリボンの析出、④グラフェンナノリボン析出に伴うニッケルナノバー液体の不安定(疎水性)化、⑤プラトー‐レイリー不安定性によるニッケルナノバー液体の構造破壊、⑥界面張力によるニッケルナノバー液滴のグラフェンナノリボン両端への移動。これらの反応により最終的にグラフェンナノリボンが基板から浮いた(架橋)構造で合成されることが判明しました。

さらにこれらの合成機構をもとに合成条件の最適化を行った結果、センチメーターオーダーの基板上に1,000,000本以上の架橋グラフェンナノリボンを90%以上の高効率で集積化合成することに成功しました(図3)。また、偏光ラマン分光測定の結果から本手法で合成したグラフェンナノリボンのエッジ構造注4)は、ジグザグ型注5)に近い構造を支配的にとることも明らかになりました。このような架橋グラフェンナノリボンをウェハースケールで合成した結果は、世界で初めてです。

3.今後の展望

多くの優れた基礎物性が予測されているグラフェンナノリボンに関して、実用レベルのウェハースケールで大面積高効率合成に成功した本成果は、これまで基礎研究に限定されてきたグラフェンナノリボンの研究を、実際のデバイス応用へと展開する非常に大きな貢献が期待されます。また、今回合成したグラフェンナノリボンが基板から浮いた構造をとっているため、ナノスケールでの機械的振動が可能であることから、今後グラフェンナノリボンの電気、光、及び機械的特性を合わせた新概念デバイスの実現に向けた研究の進展が期待されます。さらに、本研究で合成されたグラフェンナノリボンがジグザグ型に近いエッジ構造を持つことから、ジグザグエッジに局在することが理論的に予測されている特殊なスピン状態を利用したデバイス開発への貢献も期待できます。

【参考図】
【論文】

Hiroo Suzuki, Toshiro Kaneko, Yasushi Shibuta, Munekazu Ohno, Yuki Maekawa & Toshiaki Kato, “Wafer-scale fabrication and growth dynamics of suspended graphene nanoribbon arrays (架橋グラフェンナノリボンアレーのウェハースケール合成と成長ダイナミクス)”, Nature Communications, 2016. DOI: 10.1038/NCOMMS11797.

本研究の一部は、科学研究費補助金 若手研究(A)『先進プラズマ活用グラフェンナノリボンの革新的応用開発』(代表者:加藤俊顕)、新学術領域研究「原子層科学」(公募研究)『超高品質半導体原子層物質の革新的合成・機能化法の開発』(代表者:加藤俊顕)、東北大学電気通信研究所共同プロジェクト研究(若手研究者対象型)『2次元半導体薄膜の構造制御合成と物性解明』(代表者:加藤俊顕)の支援を得て行われました。

【用語解説】

注1)グラフェンナノリボン
炭素六員環2次元シート構造であるグラフェンシートがリボン(短冊)状に疑似1次元化した物質。グラフェンシートはバンドギャップがゼロである金属材料であるのに対し、グラフェンナノリボンは有限のバンドギャップを持つ半導体として振る舞う。

注2)グラフェンシート
炭素原子1層の厚みから構成される炭素六員環2次元シート構造物質。バンドギャップを持たないため主に金属的振る舞いを示す。

注3)急速加熱拡散プラズマ化学気相堆積法
試料を短時間で1000 ℃近い高温状態まで加熱する急速加熱法と、原料ガスを静電エネルギーにより分解し高密度化学活性種を生成すると共に、それを成長中のグラフェンに損傷を与えずに供給する拡散プラズマ化学気相堆積法を組み合わせた新しい合成方法。

注4)エッジ構造
グラフェンナノリボン幅方向の両端に存在する炭素原子の構造。炭素原子の配列によりジグザグ型とアームチェア型に大別され、それぞれ物性が大きく異なることが知られている。

注5)ジグザグ型
グラフェンナノリボンのエッジにおいて、炭素原子がジグザグ状に配列したエッジ構造の一種。この構造をとるグラフェンナノリボンには、エッジ付近に特殊なスピン状態が発現することが理論的に予測されている。

【お問い合わせ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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