種子島で地域密着型バイオ燃料生産システムの実証を開始へ ―小規模分散型燃料製造装置と集中型樹脂再生設備を開発―

2016/10/31

 東北大学は、NEDOプロジェクトにおいて、(株)エプシロンと共同で種子島の西之表市で小規模分散型燃料製造装置と集中型樹脂再生設備を開発し、地産地消に適したバイオディーゼル製造システムを確立しました。
 今後は、この地域密着型バイオ燃料生産システムの本格的な実証を開始します。

1. 概要

 現行の多くのアルカリ触媒※1を用いたバイオディーゼル製造現場では、1)回収した廃食用油の半分弱が低品質(酸価3以上)で燃料の原料として利用できない、2)製品燃料品質が不安定、3)副生石鹸除去のための水洗浄(4、5回)で生じる排水の処理が必要、4)残留アルカリ混入グリセリン※2の処理、などの課題を抱えています。国立大学法人東北大学で開発されたイオン交換樹脂触媒法※3はこれらの問題を一挙に解決できるものの、定期的な樹脂再生※4が必要なため装置導入コストが高く、実用化のボトルネックとなっていました。
 そこで、NEDOプロジェクト※5において、国立大学法人東北大学、株式会社エプシロン、特定非営利活動法人こすもは、小規模な分散型燃料製造装置※6と集中型樹脂再生設備※7を開発し、地産地消に適した新たなバイオディーゼル燃料生産システムを確立しました(図1)。

 当該プロジェクトにおいて、国立大学法人東北大学、株式会社エプシロンは、廃熱利用可能、かつカラムの軽量化を進めた改良型の燃料製造装置を新たに1台製作し、西之表市内に設置することで、離島モデルとして島内2ヵ所の分散型燃料製造装置と1ヵ所の集中型樹脂再生設備からなる地域密着型バイオ燃料生産システム(図2)の試験を行っていく予定です。

2. 今回の成果

 図3に示すように、イオン交換樹脂法を用いたバイオディーゼル燃料製造装置は、酸触媒の機能を持つ陽イオン交換樹脂※8を充填したカラム※9と、アルカリ触媒の機能を持つ陰イオン交換樹脂※10を充填した2塔のカラムを直列に連結した構成となっています。
 従来のアルカリ触媒法では、遊離脂肪酸※11を含む酸価が高い油を原料利用すると石鹸が副生し、精製工程の負荷や燃料品質が著しく低下することが問題でした。イオン交換樹脂触媒法では、まず1つ目の陽イオン交換樹脂を充填したカラムで、石鹸のもととなる遊離脂肪酸が目的の燃料に転化率ほぼ100%で変換され、副生する水はイオン交換樹脂内に吸着、溶液中から除去されます。続いて、2つ目の陰イオン交換樹脂を充填したカラムで、主成分の油脂が燃料に転化率ほぼ100%で変換され、副生するグリセリンはイオン交換樹脂内に吸着、溶液中から除去されます。その結果、従来法で変換率を高めるために必要だった転化率をメタノールの過剰添加なしに遊離脂肪酸と油脂がいずれも燃料に完全に変換され、副生物全てが完全に除去されるため、カラムから流出する溶液はバイオディーゼルとなる脂肪酸エステル※12と微量のメタノールとなります。つまり、樹脂充填カラムに原料を通過させるだけの簡便な操作で、製品となる高純度脂肪酸エステルを製造することができるため、1回の製造に必要となる原料をタンクに投入し、ポンプのスイッチを入れるだけで、製品タンクから取り出した燃料をそのまま車輌で利用することができます。

3. 今後の予定

 今後、装置製造や樹脂再生ビジネスの事業化スキームを確立することで、「地産地消に適したバイオディーゼル燃料生産事業の新たな分散型システムの確立」を目指しています。そして、この離島型バイオ燃料生産システムの経済性を検証し、燃料製造装置と樹脂再生装置の事業化に向けて他島へのシステム導入を図ります。

【用語説明】
  • ※1 アルカリ触媒
     バイオディーゼル燃料の製造において反応を触媒する苛性カリ、苛性ソーダ等のアルカリ性物質です。
  • ※2 残留アルカリ混入グリセリン
     現行法で用いるアルカリ触媒が混入した副生グリセリンです。
  • ※3 イオン交換樹脂触媒法
     アルカリ触媒の代わりにイオン交換樹脂を触媒として用いたバイオディーゼル燃料の製造方法です。
  • ※4 樹脂再生
     触媒活性が低下したイオン交換樹脂を繰り返し利用できるように再生することです。
  • ※5 NEDOプロジェクト
    (フェーズB)
      名称:新エネルギーベンチャー技術革新事業/新エネルギーベンチャー技術革新事業(バイオマス)/イオン交換樹脂法による地域密着型バイオ燃料生産のための分散型燃料製造装置と集中型樹脂触媒再生設 備の開発
      期間:2015~2016年度
      参加機関:株式会社エプシロン、国立大学法人東北大学、特定非営利活動法人こすも
    (フェーズC)
      名称:新エネルギーベンチャー技術革新事業/新エネルギーベンチャー技術革新事業(バイオマス)/イオン交換樹脂法による地域密着型バイオ燃料生産装置の実用化研究開発
      期間:2016~2017年度
      参加機関:株式会社エプシロン(共同研究先:国立大学法人東北大学)
  • ※6 分散型燃料製造装置
     複数の現場に分散して設置するイオン交換樹脂触媒を用いたバイオディーゼル燃料の製造装置のことです。
  • ※7 集中型樹脂再生設備
     複数に分散して設置したバイオディーゼル燃料の製造装置から回収したイオン交換樹脂触媒を再生する設備で一ヵ所設置するものです。
  • ※8 陽イオン交換樹脂
     合成樹脂の一種で、陽イオンを交換することができる樹脂のことで、遊離脂肪酸の燃料化(エステル化)を触媒する樹脂です。
  • ※9 カラム
     イオン交換樹脂を充填した容器です。
  • ※10 陰イオン交換樹脂
     合成樹脂の一種で、陰イオンを交換することができる樹脂のことで、油脂の燃料化(エステル交換)を触媒する樹脂です。
  • ※11 遊離脂肪酸
     食用油の揚げ物等の使用により、水との加水分解が起こり生成する脂質成分であり、単に脂肪酸ともいいます。
  • ※12 脂肪酸エステル
     脂肪酸メチルエステルのことであり、バイオディーゼル燃料の主成分です。
 
【お問い合わせ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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