インプラント周囲炎を引き起こすバイオフィルムの洗浄に成功

- インプラントのμmオーダの凹凸部を流れ場による泡で洗浄 -

2017/12/27

【発表のポイント】
  • インプラント周囲炎注1の原因となるインプラントフィクスチャー表面に付着するバイオフィルムをキャビテーション注2という泡を使って洗浄できることを実証しました。
  • 超音波ではなく、ベンチュリ管注3を使ってキャビテーションを発生させるので、効率よくキャビテーションを発生できます。
  • インプラントフィクスチャーのネジ谷部やミクロな粗面の凹凸部といった歯ブラシなど清掃器具の到達困難な部位の洗浄を安全かつ効果的に行うことができます。
【発表概要】

歯を失った場合の対応の一つとして、歯科用インプラントがありますが、口腔内環境や習慣により歯周病と類似した症状を示すインプラント周囲炎が大きな問題になっています。特に、生体適合性を高めるためにμmオーダの凹凸が付与されたインプラントフィクスチャーには、歯ブラシの毛先が届かずバイオフィルムを除去することが困難です。

昭和大学歯学部歯周病学講座の山田純輝 助教、同 滝口尚 講師、同 山本松男 教授と東北大学大学院工学研究科ファインメカニクス専攻の祖山均 教授などからなる研究チームは、μmオーダの凹凸が付与されたインプラントのフィクスチャーに付着したバイオフィルムをキャビテーションという泡を使って洗浄できることを実証しました。

本研究成果は、歯科用インプラントの専門誌「Implant Dentistry」誌に平成29年12月1日に掲載されました。なお、本研究の一部は、科学技術振興機構の助成を受けて行われました。

【発表内容】

[研究の背景]
近年、歯の欠損に対する治療としてインプラント治療が広く用いられています。チタンの加工技術の進歩により、インプラントフィクスチャーと骨組織との結合面積拡大を目的としてインプラント表面に凹凸を付与する粗面加工が多くなっています。一方で、インプラント周囲炎が進行しフィクスチャーが口腔内に露出すると、粗面加工されたフィクスチャー表面には細菌が付着しやすくなるという問題があります。インプラント表面の清掃には歯ブラシや歯石を取るスケーラーなどの様々な方法が試みられていますが、十分に除去できるとはいえないのが現状です。

一方で、キャビテーションは材料の表面性状の改質や洗浄等様々な分野への応用が期待されています。そこで我々は、このキャビテーションをインプラントの洗浄に応用することを目的に、研究を行いました。

[研究内容]
本研究では、ヒト口腔内にてインプラントフィクスチャー上に形成したバイオフィルムを対象に、キャビテーション噴流による除去効果を評価しました。その結果、180秒間の噴射によって約87%のバイオフィルムの除去に成功しました(図1)。さらに、フィクスチャーのネジ山部とネジ谷部に区分して解析した結果、従来の機械的清掃方法では到達が困難なネジ谷部において、約95%のバイオフィルムの除去が確認されました。また、キャビテーション噴流による洗浄後のフィクスチャーを走査型電子顕微鏡で観察したところ、損傷は観察されませんでした(図2)。

[社会的意義・今後の予定]
本研究の結果より、キャビテーション噴流はインプラント表面の新たな洗浄方法への応用が可能であると考えられます。本技術は薬剤を用いることなく水だけを使用する点で安全性が高く、歯科医療の現場だけでなく患者さんが用いるセルフケア製品への応用も期待できます。

【発表雑誌】
雑誌名:「Implant Dentistry」(2017年12月1日掲載)
論文タイトル:Removal of Oral Biofilm on an Implant Fixture by a Cavitating Jet
著者:山田純輝、滝口尚、斉藤彰大、小田中響、祖山均、山本松男
DOI番号:doi:10.1097/ID.0000000000000681
アブストラクト
【発表者】

山田 純輝(昭和大学 歯学部 歯周病学講座 助教)
滝口 尚(昭和大学 歯学部 歯周病学講座 講師)
斉藤 彰大(昭和大学 歯学部 歯周病学講座 兼任講師)
小田中 響(昭和大学 歯学部 歯周病学講座 大学院生)
祖山 均(東北大学 大学院工学研究科 ファインメカニクス専攻 教授)
山本 松男(昭和大学 歯学部 歯周病学講座 教授)

【用語解説】

注1 インプラント周囲炎
インプラント周囲の炎症性病変のうち、インプラント周囲支持骨の吸収が生じ歯冠側より骨との結合が徐々に失われ進行した状態をいう。

注2 キャビテーション
液体が高速で流れる際に、圧力が低下して気体(泡)に相変化する現象。流速の低下により気体から液体に戻る気泡の圧潰時に衝撃力を発生。

注3 ベンチュリ管
縮小および拡大部を有する管で、縮小部の高速・低圧領域でキャビテーションが発生し、拡大部でキャビテーションが圧潰して衝撃力を発生。


図1 キャビテーション噴流によるバイオフィルム除去効果
バイオフィルム除去効果を検討した結果、180秒間の噴射によってバイオフィルム残存率は術前を100%としたとき、約87%の減少が認められた。

図2 キャビテーション噴流による洗浄後のフィクスチャー表面
キャビテーション噴流の噴射により、歯ブラシなどでは到達が困難であるフィクスチャーネジ谷部やミクロな粗面のバイオフィルムが除去されていることが確認できる。
【お問い合せ】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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