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高分子を用いた神経模倣素子の応答速度制御に成功 - 「神経のような動き」をする電子部品の実用化に向けて -

2020/06/24

【発表のポイント】

  • 神経の動作を模倣した電子素子(以下、「神経模倣素子」と呼ぶ)の応答速度を自在に制御する方法を見出した
  • 作製した神経模倣素子は従来と比較して約5倍の高速動作を実現した
  • この成果は脳型コンピュータへの応用などへの波及効果が期待される

【概要】

脳の神経回路網に似た動作を示す神経模倣素子の研究は盛んに行われています。東北大学の山本俊介助教(研究当時:多元物質科学研究所、現所属:工学研究科バイオ工学専攻)と英国ケンブリッジ大学のGeorge G. Malliaras教授は、導電性高分子を用いた神経模倣素子の高性能化と動作原理解明を目指して研究を行いました。その結果、導電性高分子にイオン伝導性高分子を混合した活性層を用いることで神経模倣素子の応答速度を自在に制御できることが分かりました。これは神経模倣素子の設計方針の構築に寄与するだけでなく、今なお不明な点が多い動作原理の解明にも役立つ成果です。本研究の成果は、脳の動作を模倣した新型コンピュータの応用研究につながることが期待されます。

本研究は本学が推進する「若手リーダー研究者海外派遣プログラム」を活用した在外研究(2018~2019年度)による成果です。

本成果は2020年6月15日(米国時間)に米国化学会発行の科学誌「ACS Applied Electronic Materials」でオンライン公開されました。

【詳細な説明】

脳の持つすぐれた情報処理能力を人工的に実現することを目的とした、「ニューロコンピューティング」の研究は、ソフトウエア、ハードウエアの両面から盛んに行われています。その中で脳の神経回路を構成するシナプスの動作を模倣した、「神経模倣素子注1」の研究は、ハードウエアの立場から注目を集めています。

我々は中でも導電性高分子を用いた電気化学トランジスタ注2という電子素子に注目し、これを神経模倣素子として駆動させることを目指しました。この素子は電子とイオンの二種類の電気伝導を巧みに組み合わせて動作させる素子であり、①水中で動作する、②プラスチック基板上へも作製可能、③伸縮性を有することから、身に着けて用いるウエアラブル機器への応用が期待されています。以上のように優れた特長を有する電気化学トランジスタ型の神経模倣素子ですが、その動作原理は必ずしも明らかではありません。特に電気化学トランジスタにとって重要な、「素子中でのイオンの動きやすさと神経模倣動作の関係」が明確ではなく、応用にとって重要な設計指針が立てられない状況にありました。

そこで本研究グループは、この分野で広く使われる導電性高分子注3PEDOT:PSSに、イオンのみを伝導するイオン伝導性高分子PSS-Naを混合した素子群を作製し、電気物性評価によって神経模倣動作の指標である「情報保持時間」を測定しました。その結果、イオン伝導性高分子の添加に伴って素子の情報保持時間は短くなり、無添加の素子に比べて最大で約5倍の変化があることを明らかにしました。このことは素子内での情報保持がイオン拡散によって決定づけられていることを意味します。このように本研究では、神経模倣素子の応答速度を自在に制御するための設計指針の確立に成功しました。今後は動作原理のさらなる解明に向けた基礎研究と、素子を複数組み合わせた回路網の構築に向けた応用研究の両面から研究展開が期待されます。

【用語解説】

注1 神経模倣素子

神経細胞に類似した動作をする電子素子。入力側への信号入力頻度や数によって出力側への信号伝達効率が変化する特徴を持ちます。特定の素子構造、方式にとらわれずに神経模倣動作するものはこのカテゴリに入るため、本研究の方式の他にも、例えばスピントロニクスを用いた実現を目指す研究も行われています。

注2 電気化学トランジスタ

電子とイオンの両方を輸送する「混合伝導体」を活性層(チャネル)とし、この層へイオンの注入・抜き出しによって活性層の電気伝導率を変調する電子素子。今回のような神経模倣素子の他にも生体計測センサへの応用も盛んに行われています。

注3 導電性高分子

電気を流す高分子。PETやポリスチレン、ポリエチレンなどのいわゆる「プラスチック」として用いられる高分子は電気を流さない絶縁体であるが、導電性高分子は電気を流す半導体や導体としての性質を持ちます。1970年代に白川英樹(筑波大学)らによって見いだされ、2000年のノーベル化学賞の受賞対象となったことでも有名です。

【図】


図1 今回の研究で用いた電気化学トランジスタ素子の写真。1枚の基板上に16個の電気化学トランジスタが集積されています。

図2 電気化学トランジスタ(左上)と今回用いた入力信号(左下)の模式図、およびこの入力を用いて保持時間を測定した際のデータ(右)。この実験では2本の電圧パルス(入力1と入力2)を様々な時間間隔で素子のゲート電極に入力しながらドレイン電極からの出力信号を観測しました。その結果、入力間隔が短い場合には入力2が到達した時点まで入力1の情報が「記憶」されていましたが、入力間隔が長くなると徐々に入力1のイベントが「忘れられて」行く様子が分かります。この、忘れられるまでの時間(=情報保持時間)はイオン伝導性高分子の添加に伴って短くなることが明らかになりました。

【付記】

本研究は、東北大学若手リーダー研究者海外派遣プログラム、東北大学多元物質科学研究所プロジェクト、科研費若手研究18K14294の支援を受けました。

論文情報

タイトル: Controlling Neuromorphic Behavior of Organic Electrochemical Transistors by Blending Mixed and Ion Conductors
雑誌名: ACS Applied Electronic Materials
著者: Shunsuke Yamamoto, George G. Malliaras
DOI: 10.1021/acsaelm.0c00203
URL: https://doi.org/10.1021/acsaelm.0c00203

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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