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産学連携のチームによる陸・海観測超小型衛星プロジェクト - 食料問題解決に貢献する宇宙ビジネスの実証を目指す -

2020/06/25

【発表のポイント】

  • 産学連携チームによる、マルチスペクトルカメラを搭載した陸・海観測超小型衛星計画を提案。
  • JAXAの革新的衛星技術実証3号機の実証テーマとして採択され、2022年度に打ち上げ予定。
  • 漁業・農業分野でのデータ利用や環境モニタリングを通じ、世界の食料問題解決に貢献する宇宙ビジネスの実証を目指す。

【概要】

東京工業大学、株式会社アイネット、ウミトロン株式会社、株式会社ジェネシア、株式会社ディーウェイスペース、東京大学、東北大学、名古屋大学からなる産学連携の実証チーム(※1)は、50 kg級の陸・海観測超小型衛星計画を提案し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)革新的衛星技術実証3号機の実証テーマとして採択されました。(※2)

本プロジェクトでは、学術利用を含む様々な観測対象に使える革新的マルチスペクトルカメラを、安価な超小型大学衛星に搭載して打ち上げます。さらに、この衛星の運用およびデータ利用サービスの提供体制を大学・民間企業の協力によって構築し、宇宙ビジネスにつながる宇宙システムの実証を行います。このシステムの応用例として、水産養殖業分野や、農業分野での利用などを検討しており、食料問題や環境問題などの持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献します。今後は衛星データビジネスにおいて協働できるパートナーを広く募集する予定です。

※1 プロジェクトメンバー
東京工業大学 理学院 物理学系 谷津陽一准教授、工学院 機械系 松永三郎教授、工学院 機械系中条俊大助教、株式会社アイネット 坂井満代表取締役、ウミトロン株式会社 藤原謙代表取締役、株式会社ジェネシア 武山芸英代表取締役、株式会社ディーウェイスペース 森惣平代表取締役、東京大学 情報基盤センター 下川辺隆史准教授、東北大学 大学院工学研究科 坂本祐二特任准教授、名古屋大学 宇宙地球環境研究所 石坂丞二教授

※2
テーマ名称:「超低コスト高精度姿勢制御バスによるマルチスペクトル海洋観測技術の実証」 提案代表者:東京工業大学 谷津陽一准教授
(参考)JAXAウェブサイト「革新的衛星技術実証3号機のテーマ公募」選定結果について

【プロジェクトの内容】

国内には世界最先端の優れた宇宙技術を持つ企業が数多く存在しているものの、物量に優る欧米企業に隠れてしまっています。東工大は、これらの実力ある企業と大学を繋ぎ、それぞれがうまくかみ合うように機能させることで、宇宙ビジネスに関する革新的な産学連携ビジネスモデルを構築し、実証実験を行うプロジェクトを構想しました。このビジネスモデルでは、人類共通の課題である持続可能な開発目標(SDGs)のなかでも特に、「世界の食料問題」の解決という目標を、人工衛星というグローバルな視点から達成することを目指します。

このプロジェクトのために、大学と民間企業からなる実証チームを組織し、プロジェクトの核となるマルチスペクトルカメラを搭載した陸・海観測超小型衛星計画を提案したところ、JAXAの革新的衛星技術実証3号機の実証テーマとして採択されました。

実証チームは、東京工業大学のほか、株式会社アイネット、ウミトロン株式会社、株式会社ジェネシア、株式会社ディーウェイスペース、東京大学、東北大学、名古屋大学からなります。このチーム構成の意図は「宇宙と人の暮らしを繋ぐ」という点にあり、それぞれの強みを活かすことで、このチーム内で観測からサービスまでの一連の流れを実現できます(図1)。本プロジェクトでは、2022年度に予定しているJAXA革新的衛星技術実証3号機の打ち上げに向けて、革新的なマルチスペクトルカメラを搭載した超小型衛星を開発し、運用体制構築、データ解析技術の開発を行い、漁業・農業におけるデータ利用や環境モニタリングなどを通じて世界の食料問題解決への貢献を目指します。


図1 本プロジェクトのチーム構成。参画機関のサービス領域を有機的に繋ぐことで、宇宙から人の暮らしまでを繋いだデータの流れを創る。

【本プロジェクトの参画機関の貢献と専門領域】

東京工業大学(代表機関) 衛星開発、データ管理、学術利用(天文学)
(専門領域:宇宙システム、天文学、放射線物理学)
株式会社アイネット 衛星運用
(衛星システム設計・試験・運用、ITサービス)
ウミトロン株式会社 データ解析・養殖業へのサービス実証実験
(IoT機器、人工知能、衛星データ解析、ハイテク養殖)
株式会社ジェネシア 衛星搭載装置、マルチスペクトルカメラ
(光学設計、機構設計、センサシステム)
株式会社ディーウェイスペース 衛星搭載装置、マルチスペクトルカメラ
(エレクトロニクス、センサシステム)
東京大学 学術分野に向けたデータ配信、学術利用(ビッグデータ)
(スーパーコンピュータ、ビッグデータ)
東北大学 衛星通信、学術利用(宇宙システム工学)
(宇宙システム、通信・地上局)
名古屋大学 衛星データ解析・学術利用(海洋学)
(海洋学、リモートセンシングデータ解析)

【今後の展開】

本衛星は2022年度にJAXA内之浦宇宙空間観測所からイプシロンロケットによって打ち上げられる予定です。ミッション運用は2年間を予定しています。

本プロジェクトは、単独の衛星打ち上げで終わるものではなく、今後事業を立ち上げて継続的に発展させていきます。また、世界的な問題を扱う衛星ビジネスは日本国内にとどまるものではなく、海外の企業と協働することも必要になります。そのために、本実証チームでは協働できるパートナーを、海外も含めて広く求めていく方針です。

【プロジェクトの詳細】

本プロジェクトでは、“世界の食料問題解決”を実現できるキーテクノロジーとして、株式会社ジェネシア・株式会社ディーウェイスペース社のLCTF(用語1)、TDI(用語2)、マルチスペクトルカメラ(用語3)を使用します。通常のカメラが赤・緑・青の3色しか撮れないのに対して、マルチスペクトルカメラはさまざまな色を撮り分けられます。この撮像分光データからは、地表や海面の物質や植生など、通常のカメラとは別次元の利用価値の高い情報を抽出することができます。さらに、LCTFは観測する波長を電気的に自在に調整できるため、目的の異なる幅広いユーザーに柔軟に対応可能です。一方、TDI撮像装置は、従来のマルチスペクトルカメラより感度が数十倍高いため、明るい陸地と暗い海を同一のセンサで観測できます。つまり、一つのセンサで農業と漁業、すなわち食料問題全体を解決できる可能性を秘めています。こうしたアジャイルな観測装置は、食料問題はもちろん、土壌・森林等の環境モニタリングから、貨物船など船舶の識別、さらに衛星の姿勢制御と組み合わせれば、衛星軌道上を浮遊する物体識別にも適用することが可能であり、さまざまなリモートセンシングの潜在的市場を新たに切り開く「ビジネスを生むセンサ」といえます。しかも、これらの要素技術は既に衛星軌道上での機能実証が完了しており、本事業では応用実証を行うこととなります。

本格的なデータ利用を考えた場合、打ち上げた衛星の継続的かつ密な観測運用を行う必要があります。しかし衛星の運用は、人手やアンテナなどのリソースが必要なため、大学単独では実現が難しいです。そこで本プロジェクトでは、国内外に地上局ネットワークを持つ東北大学と、人工衛星のシステム設計・開発や運用の実績を持つ株式会社アイネットと協力して、ミッションとサービスの運用を実現します。

一方、マルチスペクトルデータの解析には膨大な較正情報とともに専門的な解析技術・科学的知見が必要であり、これが衛星データユーザーにとって大きな参入障壁になっています。そのため、較正データベースの構築と、解析技術の確立こそが、さまざまな分野への衛星データ利用の鍵となります。本プロジェクトでは、名古屋大学とウミトロン株式会社が協力して、観測データからプランクトンや赤潮の分布など情報を抽出する観測・解析手法を確立し、養殖漁業などのエンドユーザーへ配信するサービスの構築・実証を行います。また、陸域の観測情報利用については、農業国であるハンガリーの衛星ベンチャーC3S社と協力して、植生情報の農業利用を検討しています。これにより、海域漁場からのタンパク質の供給に貢献するとともに、陸域の農業アプリケーション(糖質等)と連携することで、陸と海の両面から食料問題全体の解決に取り組んでいきます。

実際に、この衛星システムで取得したデータには、ビジネス以外にも、環境学、鉱物学、都市計画学を含む社会科学など、さまざまな研究分野からの需要が想定されています。本実証チームは、新しいユースケースを創出するためにも、学術目的での無償のデータ公開を予定しています。このデータ公開は東京大学と協力して実現します。東京工業大学は、この枠組みの立ち上げと、衛星システムの設計・開発を担当するとともに、夜間時間を有効活用したライドシェアによる天文観測を行い、日本の将来を担う優れた人材の育成・宇宙科学を推進します。本実証チームは、ホステッドペイロード(用語4)の搭載、余剰マシンタイムの提供など、経済的対価では測れない、学術研究へ利益を還元する仕組みの構築も希求します。

なお、本プロジェクトの枠組みの構築は、平成30年度文部科学省 宇宙科学技術推進委託費 宇宙連携拠点形成プログラムの「新宇宙産業を創出するスマート宇宙機器・システムの研究開発拠点」(代表 松永三郎教授)における東工大・企業間の連携から生まれた成果です。

【産学連携の必要性】

衛星のデータを解析し、顧客に必要な物理量を推定することは極めて難しく、学術研究の領域ともいえます。宇宙ビジネスを創出するためには、この参入障壁を乗り越えなければならず、ここに産学連携の必要性があります。本プロジェクトでは、「リファレンスデータベースの構築」と「解析パイプライン開発」を目標に実施体制を検討し、データから価値を生み出すための基盤を構築することでビジネス創出を目指す新しい試みです。つまり、本プロジェクトにおいて衛星は要ではあるが、地上でのデータ解析環境の構築を通して、経済的利益だけでなく社会問題の解決に貢献していけることこそが真のゴールです。

本実証チームは、この挑戦的な課題を、大学などに蓄積されている個別の知見と、産業界のプレーヤーが有する固有ノウハウとを融合・連動させることで解決します。アカデミックな研究は単独では社会との接点が少ないが、本プロジェクトでは、個別の研究成果を、ビジネスゾーンの各接点に明確に位置づけることで、ひとつの輪を形成し、人々の生活に還元します(図 2)。社会的価値を生み出すことにより、この「輪」から着実に利益を獲得し、その一部を適切に教育・研究に還元する持続可能な産学連携の仕組みづくりを目指します。


図2 「個別の知」と「固有ノウハウ」を繋いだ本実証チームでつくる「輪」。

【プロジェクトの背景】

本プロジェクトの発想の原点は超小型天文観測衛星です。しかし、小さくとも「マイ衛星」を打ち上げるには大変なリソースが必要であり、そこで、複数のユーザーがペイロードをシェアする「衛星のライドシェア」という形であれば、ユーザーのコストを削減できると着想しました。さらに検討した結果、夜間観測する天文学と相性が良いのは、昼間観測する地球観測であることに思い至りました。従来の衛星では例のないこの組み合わせは、観測時間が全く競合しないため、昼・夜それぞれのユーザーは、まるで自分の専用機のように衛星を自由に使えるというメリットがあります。さらに、本プロジェクトで使用するマルチスペクトルカメラでは、LCTFによる波長自由度とTDIによる広いダイナミックレンジにより、観測対象エリア(海、陸など)や業種(漁業、農業、林業など)が異なる、多様なユーザーのニーズにも柔軟に対応できます。これにより、陸上でも海上でも価値のあるデータを供給する、生産性の高い観測衛星を実現することができます。

小型宇宙ビジネスはこれまで宇宙工学が主役に発展してきたが、衛星データを研究に使う理学とリファレンスデータがきちんと整備された衛星を実現する工学の密な連携がこのプロジェクトの基盤になっています。本実証チームはこの理工学連携から生じた「観測データのユーザビリティ向上」という新たな評価軸を導入することにより宇宙ビジネスを促進します。

【用語説明】

用語1 LCTF (Liquid Crystal Tunable Filter(液晶波長可変フィルタ)

液晶素子を組み合わせた透過波長を電気的に調整可能なフィルタ。グレーティング方式などに比べ、構造が単純であり、分光撮像を実現することができる。(下図参照)

用語2 TDI(Time Delay Integration、時間遅延積分)

人工衛星は衛星軌道上をおよそ秒速8 kmで周回しているため、1/1000秒という短い露光であっても撮影された画像はおよそ8 m分ぶれてしまう。したがって、観測対象が暗い場合に積分時間を長くする場合、空間分解能を犠牲にせざるをえなかった。これに対し、TDI撮影は衛星の進行に同期してCCDの垂直電荷転送を行うことで、ぶれることなく露光時間を稼ぐことができる。この技術により、超小型衛星に搭載できる鏡筒サイズでも、数メートルという高い空間解能を維持しつつ、通常撮影の数十倍のSN比を実現することができる。

用語3 マルチスペクトルカメラ

RGBだけでなく光の波長成分をさらに細かく分析できるカメラ。形状情報とスペクトル情報から、物質の識別や植物の状態診断などに応用できる。

用語4 ホステッドペイロード

有償あるいは無償で、衛星の余剰スペース・電力・通信リソース等を、他のアプリケーションユーザーに提供するサービスである。

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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