息を吹き込むだけで体脂肪の燃焼をモニタリング

- 運動機能から糖尿病・肥満診断などへの応用に期待 -

2021/01/25

発表のポイント

  • 脂肪が燃焼する際に発生する呼気中のアセトンガスを、紫外光を用いて高感度で検出することに成功
  • 紫外ランプと分光器からなる簡易な装置でリアルタイムでの測定が可能、かつ半導体センサーとは異なり、定期的な較正が不要
  • 呼気中アセトンの測定により、糖尿病や肥満を無侵襲で診断可能になることが期待される

研究概要

体脂肪が燃焼・分解されると、脂肪の代謝反応によって血中にアセトンが生成され、それが呼気中に現れることが知られています。この呼気中のアセトンガス濃度を精密に測定することにより、脂肪代謝の能力を判定したり、効率よく脂肪を燃焼させる運動法を見出したりすることが可能です。東北大学大学院医工学研究科・工学研究科 松浦祐司(まつうら ゆうじ)教授の研究グループは、紫外ランプを用いた簡易な装置を用いて、呼気中のアセトンガスを精密に測定し、運動後の脂肪燃焼の様子をモニタリングすることに成功しました(図1)。今回の研究で、同グループは真空紫外光という極端に波長の短い光にアセトンガスが強力に吸収されることに着目し、健常者の呼気中では濃度1 ppm程度のアセトンを0.03 ppmという高精度に測定することに成功しました。

研究成果は、2021年1月12日にSensors誌に掲載されました。


図1 測定装置の外観

研究内容

生体でエネルギー源として糖質より脂質が使用されるようになると、脂質代謝の副産物としてアセトンが生成され、血中アセトン濃度が増加することが知られています。この血中アセトンは、揮発性のアセトンガスとして呼吸に伴い体外に放出されます。そのため、呼気中のアセトンガス濃度をモニタリングすることにより、脂肪燃焼の様子を知ることができ、代謝能力の評価や、脂質燃焼に効果的な運動法の開発へとつながると期待されます。ただし、脂質代謝で生じるアセトンガスはごくわずかなため、脂肪代謝をモニタリングするためには高い測定精度が必要とされます。これまではガスクロマトグラフィー注1を用いた質量分析装置注2が主に用いられてきましたが、これらの装置は大型かつ高価であるとともに、測定に時間がかかり、リアルタイムでの測定ができないという難点があり、小型・低コストで、かつリアルタイムでの測定が可能な装置の開発が望まれていました。

本研究では、アセトンガスが極端に波長の短い真空紫外光に強力に吸収されることに新たに着目しました。中空光ファイバと呼ばれる細い管状の光ファイバの中に呼気を閉じ込め、そこへ真空紫外光をあてて、アセトンガスに光が吸収されて弱くなる度合いを測定します。この方法により、一般的な健常者の呼気中アセトン濃度である1 ppm(0.0001%)に対して、0.03 ppmというきわめて高い精度での測定が可能になりました。測定装置を構成する機器は、真空紫外光を発生する重水素ランプ、中空光ファイバ、そして小型分光器注3の3つだけというシンプルな構成のため、小型かつ低コストな装置となります。また測定に要する時間は6秒程度で、ほぼリアルタイムでのモニタリングが可能です。

この装置を使って実際に脂肪燃焼のモニタリング実験を行った結果、実験では30分の運動を15分の休憩をはさんで3回行った後、休息をとり、その間の呼気中アセトン濃度を測定したところ、運動中はほぼ一定であったのに対して、運動後に徐々に増加することがわかりました(図2)。これは主に運動後に脂肪燃焼が生じていることの現れと言えます。またこの装置は、アセトンと同様に脂質代謝の指標となるイソプレンも同時に測定することができ、2つのガスを同時にモニタリングすることにより、脂質代謝の詳細なメカニズムの解明に貢献することも期待されます。さらに、インスリン欠乏により糖質を取り込めず、先に脂質を消費してしまう糖尿病患者の呼気中にアセトンガスが高い濃度で含まれていることから、本研究の手法を無侵襲の糖尿病診断へ応用することも期待されます。

用語説明

注1ガスクロマトグラフィー

さまざまな成分が混ざったガスを成分ごとに分離するための手法。まず混合ガスをカラムと呼ばれる細い管の中に注入する。カラムの内壁にはポリマーなどの液体層が塗られており、ガスはその層に吸着されたり、再び気化したりを繰り返す。この吸着・気化に要する時間は成分により異なるため、カラムの出口にそれぞれの成分が時間的にずれて到達するため、分離を行うことができる。

注2 質量分析装置

化合物の質量を正確に測定し、その重さからその化合物が何で、どれ位あるのかを調べる装置。物質を電気を帯びたイオンの状態とし、加速して磁場の中を通過させると、電場と磁場の相互作用によってその軌道が曲げられるが、その曲がり具合はイオンの重さにより異なるため、質量を正確に測ることができる。ガスクロマトグラフィーと組み合わせれば、成分ごとに分離したものの質量を測定することにより、それらの化合物がそれぞれ何でどれくらい含まれているのかを知ることができる。

注3 分光器

さまざまな波長(色)が混ざった光を波長ごとに分解してその強さを調べる装置。ガラスでできたプリズムに光をあてると、光は屈折して出てくるが、波長によってその曲がる度合いが異なるため、波長ごとに分解することができる。一般的な分光器には、回折格子と呼ばれる細かい溝が切られた板が用いられるが、その表面で光が反射する際に、光の干渉が生じ、波長ごとに干渉で強めあう方向が異なるので、プリズムと同様に波長ごとに分解することができる。


図2 運動後の呼気中アセトン濃度変化

論文情報

Title: Vacuum ultraviolet absorption spectroscopy analysis of breath acetone using a hollow optical fiber gas cell
Authors: Yudai Kudo, Saiko Kino, Yuji Matsuura
タイトル: 中空光ファイバガスセルを用いた真空紫外吸収分光法による呼気中アセトン分析
著者: 工藤祐大,木野彩子,松浦祐司
掲載誌: Sensors
DOI: 10.3390/s21020478

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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