土壌中の休眠微生物・ウイルスが表出するメカニズム解明に期待
- 微生物の発酵によるブラジルナッツ効果の発見 -
2021/11/18
発表のポイント
- 微生物の発酵時の発泡によるブラジルナッツ効果を発見
- 水環境において沈殿した粒子が表面上に再浮上するメカニズムを力学的に解明し、可視化に成功
- 休眠した微生物やウイルスの再興、未知の病原体が表出するメカニズム解明に期待
概要
“ブラジルナッツ効果”とは、ミックスナッツの中に入っている大きなブラジルナッツが小さなピーナツよりも上にくることから、大きさが異なる粉粒体の混合物に振動を与えると、大きな粒子が浮上し、小さい粒子が沈降する物理現象に名付けられた名称です。隕石の衝突での微粒子飛散や地震後の土壌液状化現象など非平衡散逸系物理現象として注目されている現象ですが、そのメカニズムについてはまだ明らかになっておりません。
東北大学のAtul Srivastava博士(研究当時、大学院医工学研究科に在学)、菊地謙次准教授(大学院工学研究科)、石川拓司教授(大学院医工学研究科)らの研究グループは、微粒子内に沈降したプラスチックごみなどの物体が水中において酵母の発酵時の炭酸ガスの発泡によって重力に逆らって浮上することを発見しました。これは、微生物由来のブラジルナッツ効果と呼べる注目すべき現象です。本研究では、湖底や河底、海底などの土壌が堆積した環境下で、土壌を流動化し、「粒子の潜り込み」によって埋没した物体が水面へと浮上する物理現象の可視化計測に成功しました。この成果は、土壌中に休眠した微生物やウイルスの再興、未知の病原体が表出するメカニズムの解明に貢献すると考えられます。
本研究成果は、2021年10月6日に、Soft Matter誌の電子版に掲載されました。
研究の背景
微生物には鞭毛や繊毛を用いて水中を遊泳するものがおり、呼吸や栄養吸収、危険回避や化学的物理的誘因によって様々な振る舞いを示すことが知られています。食品産業などで広く使用される酵母は,鞭毛や繊毛などの遊泳器官を有しませんが、発酵過程で自身が産生する気泡に付着することで、驚くべきことに秒速数cm程度の速度で底部から水面にまで上昇します(1)。
研究グループは、発酵容器内に生分解されにくい人工物(シリコンゴム)を混入させることで、環境問題となっているプラスチックごみなどが、自然界の生態系にどのような影響を及ぼすのかを検討するために、実環境を模擬した「ジオラマ環境」での実験を行いました。発酵容器内に混入した人工物は、発酵気泡が付着することで容器の底面から水面に上昇し、その後、下降するという上下運動を繰り返し、容器内部が攪拌されます。その結果、栄養素が全体に行き渡り、酵母の増殖を促進させることが分かっています(2)。一見、酵母にとって邪魔な存在と思われる人工物ですが、実は酵母の増殖を助ける役割をすることが明らかになっています。
本研究では、人工物が周囲の微粒子に埋没した状況下で、微生物の発酵による発泡が微生物自身の10億倍の大きさの物体を移動させる物理現象を発見し(図1)、X線を用いたイメージング法と確率微分方程式に基づく理論解析により現象解明を試みました。
(1) A. Srivastava, K. Kikuchi, T. Ishikawa, The bubble induced population dynamics of fermenting yeasts, Journal of the Royal Society Interface, 17, 20200735, 2020
(2) A. Srivastava, K. Kikuchi, T. Ishikawa, Non-biodegradable objects can boost microbial growth in water bodies by harnessing bubbles, Royal Society Open Science, 8: 210646, 2021
研究成果
今回、東北大学の研究グループのAtul Srivastava博士(研究当時、大学院医工学研究科に在学)、菊地謙次准教授(大学院工学研究科)、石川拓司教授(大学院医工学研究科)らは、水中において酵母の発酵による発泡によって微粒子内に埋没した物体が重力に逆らって浮上する微生物由来のブラジルナッツ効果を発見しました(図1)。
本研究は、湖底や河底、海底などの土壌が堆積した環境下で、微生物の発酵に伴う発泡による揺さぶり効果によって土壌を流動化し、「粒子の潜り込み」によって埋没した物体が水面へと浮上する物理現象のX線を用いた可視化計測に成功し(図2)、確率微分方程式に基づく理論解析を行うことで、泡の移動によって生じた空洞と周囲粒子の潜り込みによる微生物の発酵によって生じる新たなブラジルナッツ効果を発見しました。
今後の展望
本研究は、海洋など自然界に流出し沈降したプラスチックごみなどが原因で生じる、土壌中に休眠した微生物やウイルスの再興や未知の病原体の放出など、生態環境における輸送メカニズムの解明に貢献すると考えられます。
付記
本研究は、科研費(19H02059, 17H00853, 21H04999, 21H05306, 21H05308)および創発的研究支援事業(JPMJFR2024)の支援を受けて行われました。
論文情報
著者: Atul Srivastava, Kenji Kikuchi and Takuji Ishikawa
掲載誌: Soft Matter, 2021
DOI: 10.1039/D1SM01327K
URL: https://doi.org/10.1039/D1SM01327K
お問合せ先
東北大学大学院工学研究科 准教授 菊地 謙次(東北大学ディスティングイッシュトリサーチャー)
TEL:022-795-5029
E-mail:k.kikuchi@tohoku.ac.jp