CO2と廃棄物から生まれる次世代SiC
- 東北大学×住友商事がカーボンリサイクル型SiC合成技術を共同開発 -
2025/05/14
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発表のポイント
概要
自動車や半導体分野の省エネルギー化を背景に、炭化ケイ素(SiC)は次世代パワー半導体材料(注5)として注目されており、需要が急速に拡大しています。特に電気自動車(EV)や再生可能エネルギー機器の高効率化に貢献する素材として期待されています。
一方で、従来のSiC製造プロセスでは、高温での加熱に伴う大量のエネルギー消費やCO2排出が課題です。また、シリコンウエハ製造過程で排出されるシリコンスラッジ(注1)の再利用も課題となっています。
こうした背景のもと、2050年のカーボンニュートラル(注5)実現に向けて、CO2の排出量削減のみならず、排出されたCO2を資源として有効活用する「カーボンリサイクル」の取り組みが重要視されています。
東北大学大学院工学研究科応用化学専攻の福島潤助教らの研究チームと住友商事株式会社は、この課題に対する新たな解決策として、CO2とシリコンスラッジを原料に用いる「カーボンリサイクル型SiC合成技術」の共同開発に取り組みます。本技術により、CO2排出の削減と産業廃棄物の再資源化を同時に実現し、SiCの高純度用途への展開を可能にする、先進的なソリューションの提案を目指します。
研究の背景
2050年のカーボンニュートラルの実現を目指す世界各国の取り組みにおいては、CO2の排出削減のみならず、CO2を資源として再利用するカーボンリサイクルが重要視されています。日本でもNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主導する事業を通じて、カーボンリサイクル技術の社会実装が進められています。また、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の重要性が高まる中、シリコンスラッジなどの産業廃棄物を有効活用する取り組みが求められています。とりわけ電気自動車(EV)の普及や省エネルギー要求の強化に伴い、次世代パワー半導体として期待されるSiCの需要が急速に拡大しており、カーボンリサイクルとシリコンスラッジ活用の両立が望まれています。
今回の取り組み
本プロジェクトは、東北大学大学院工学研究科応用化学専攻の福島潤助教の研究チームと住友商事株式会社が共同で進める取り組みです。東北大学は、カーボンリサイクルに関する先進的な技術・特許および学術的知見を活かし、反応条件の最適化や高純度化プロセスの検証を行います。一方、住友商事は、原料となるシリコンスラッジやCO2の安定調達ルートの調査研究、国内外の市場開発・販路構築をリードする役割を担います。
両者の強みを持ち寄ることで、迅速かつ効率的な実用化・事業化を目指し、CO2とシリコン系産業廃棄物を活用した低消費エネルギー型SiC合成プロセス(図1)の確立を目指します。本技術は、CO2の資源化と産業廃棄物の有効活用の両立を図り、環境負荷の少ない新しい材料製造モデルを提示するものです。
本プロジェクトはNEDO「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2有効利用拠点における技術開発/研究拠点におけるCO2有効利用技術開発・実証事業」(基礎研究エリア)で委託事業として採択され、中国電力株式会社 大崎発電所内にNEDOが整備したカーボンリサイクル実証研究拠点にて、実証試験が進められる予定です。
このプロジェクトを通じて得られる成果(高純度化手法、スケールアップ技術など)は、カーボンリサイクル型SiC粉末(図2)の品質・コスト競争力・環境貢献度の向上に寄与するとともに、住友商事の強固な流通ネットワークを活かした市場展開を加速させるものです。これにより、環境配慮型新素材産業の創出や、採用企業のグリーン調達、Si資源の有効活用、およびSiCの国内製造による半導体資源の戦略的確保に貢献します。また、カーボンニュートラル社会の実現に向けた高度なサーキュラーエコノミーの構築にも寄与することが期待されます。
今後の展開
本プロジェクトは、2025年4月から2028年3月までの約3年間を予定しています。CO2削減・産業廃棄物の有効利用・低コスト化という3つの目標を同時に達成し得る本技術は、国内外における導入ニーズが高く、半導体業界のみにとどまらず幅広い産業への波及効果が見込まれます。また、SiCの一部国産化を通じて国内サプライチェーンの強化が図られ、地政学的リスクの低減にも貢献できると考えられます。今後は、両者の連携をさらに深め、共同研究やスケールアップ試験を通じた早期の実用化と市場投入を目指します。
謝辞
本プロジェクトにつながる研究成果は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務の結果得られたものです。
用語説明
(注1)シリコン系産業廃棄物、シリコンスラッジ
シリコンインゴットを加工する過程で生じる微細な粉末や切削くずなどを指します。従来は廃棄物として扱われるケースが多く、再利用が課題とされてきました。
(注2)炭化ケイ素(SiC)
シリコン(Si)と炭素(C)からなる化合物で、高耐圧・高温特性に優れた次世代パワー半導体の素材となります。炭化ケイ素からなるパワー半導体はEVなどの省エネルギー化に寄与し、需要が急速に拡大しています。
(注3)カーボンニュートラル
二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を、森林吸収や吸収技術などを含めて差し引きゼロにする概念です。地球温暖化対策として国際的に推進されています。
(注4)サーキュラーエコノミー
資源をできる限り循環させ、廃棄物を最小限に抑えつつ新たな付加価値を生み出す経済モデルです。再利用やリサイクルに重きを置き、持続可能な社会を実現する考え方です。
(注5)次世代パワー半導体材料
電気を効率よく制御する「パワー半導体」に用いられる新しい材料を指します。従来のシリコン(Si)に比べて、高温・高電圧への耐性や電力損失の低さに優れ、電気自動車や再生可能エネルギー機器などでの活用が期待されています。代表的な材料には、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などがあり、SiCは高耐圧・高温動作に適しており、電力インフラやEV向けに広く注目されています。