青色グアイアズレン色素の水溶性と酸安定性向上に成功
- 青色着色料として食品など幅広い展開に期待 -
2025/06/04
発表のポイント
概要
化粧品の着色剤などに用いられる環式炭化水素のグアイアズレンは、従来の天然由来の青色色素よりも彩度の高い青色を示し、医薬品にも採用されるなど高い安全性も確認されているため、青色色素としての食品の着色料への応用が期待されています。しかし、疎水性および酸性条件下での不安定性といった特徴が、水溶性の低下や劣化による青色の消失につながるため、食品の着色料への展開における障壁となっています。これまで、高い水溶性、酸性条件における高い安定性を併せもつ青色のグアイアズレン化合物の合成は成功していませんでした。
東北大学大学院工学研究科の木下耀大学院生および多元物質科学研究所の岡弘樹准教授らと日東紡績株式会社の五十嵐和彦上席技術統括SVらの共同研究チームは、親水性の高いポリアリルアミンとの縮合反応(注3)により、グアイアズレンへの高い水溶性の付与と、酸性条件における安定性の向上を同時に達成しました。本手法は、これまで困難であった疎水性でかつ酸に弱い機能性分子の水環境での機能開拓に繋がることが期待されます。
本成果は、2025年5月20日付けで英国王立化学会による学術誌New Journal of Chemistryにオンライン掲載されました。
研究の背景
グアイアズレンは、従来の天然由来の青色色素よりも彩度の高い青色を示すため、青色色素としての食品の着色料への応用が期待されています。しかし、疎水性および酸性条件下での低い安定性といったグアイアズレンの特徴は、水溶性の低下および劣化により青色の消失につながるため、同分子の食品の着色料への展開における障壁となっています。これまで、高い水溶性、酸性条件における高い安定性を併せもつ青色のグアイアズレン化合物の合成は未達成でした。
今回の取り組み
アミンと簡便に縮合可能なグアイアズレン骨格をもつカルボン酸(注4)を調製し、それと親水性の高いポリアリルアミンとの縮合剤(DMT-MM)を用いた反応により、側鎖(注5)にグアイアズレン骨格が導入された青色のポリマー(注6)を合成しました(図1)。グアイアズレンの導入率は、グアイアズレン骨格を持つカルボン酸の当量(注7)を変えることで容易に調整できます。導入率3.2 %のポリマーはグアイアズレン単体よりも10,000倍以上水溶性が向上しました。
グアイアズレンとグアイアズレン置換ポリアリルアミンについて酸性溶液中での吸収スペクトルを測定した結果、グアイアズレンの吸収スペクトル(図2a)は1か月後に形状や最大波長が大きく変化した一方で、グアイアズレン置換ポリアリルアミンの吸収スペクトル(図2b)は大きな変化が見られませんでした。このことから、ポリアリルアミンへの導入により、グアイアズレンの酸性条件下における安定性が向上することが示されました。
今後の展開
本研究にて、親水性であるポリアリルアミンに導入することで、高い水溶性、酸性条件における高い安定性を併せもつ青色のグアイアズレン化合物の合成に成功しました。本研究成果は、酸性条件下における青色着色料の展開に繋がることが期待できます。また、本研究の手法は、これまで困難であった疎水性でかつ酸に弱い機能性分子の水環境での機能開拓に繋がります。
謝辞
本研究は、新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO) 官民による若手研究者発掘支援事業(共同研究フェーズ)(JPNP20004)の支援を受けた東北大学と日東紡績株式会社との共同研究体制により行われました。
用語説明
(注1)グアイアズレン
青色で疎水性の化合物。
(注2)誘導体
有機化合物の母体となる化合物の一部を変化させた物質。
(注3)縮合反応
官能基をもつ化合物から低分子がとれて新しい結合が生成する反応。
(注4)カルボン酸
カルボキシル(COOH)基を有する化合物の総称。
(注5)側鎖
ポリマーの中心部分から伸びる部分。
(注6)ポリマー
多数の繰り返し単位からなる分子量の大きい物質。
(注7)当量
化学反応における物質の量的関係に基づいて割り当てられた一定量。
論文情報
著者: 木下耀、丸岡清隆、照内洋子、竹内実、五十嵐和彦、笠井均、岡弘樹*
*責任著者: 東北大学 多元物質科学研究所 准教授 岡弘樹
掲載誌: New Journal of Chemistry
DOI: 10.1039/D5NJ01214G