もみ殻と鉱山副産物から高耐久性燃料電池触媒を開発

- 農業・鉱山副産物の再資源化で持続可能な電池技術へ -

2025/07/03

【工学研究科研究者情報】
学際科学フロンティア研究所 助教 中安 祐太(大学院工学研究科 兼務)
研究者ウェブサイト

発表のポイント

  • 農業廃棄物のもみ殻と鉱山副産物のパイライト(黄鉄鉱:FeS2)から、白金(Pt)に代わる高耐久な電池用触媒を開発しました。
  • これまで活性炭や電極材料では除去対象だったもみ殻中の非晶質シリカ(アモルファスSiO2(注1)が、触媒として機能するパイライト内の鉄と結合し、安定性を高める可能性が示されました。
  • 廃棄物を活用して高性能と長寿命を両立するこの技術は、再生可能エネルギーの貯蔵や白金など希少な非鉄金属であるレアメタル依存の低減に貢献します。

概要

世界で年間約1億トン以上が発生するもみ殻は、分解されにくく用途が限られるため、多くが焼却処分されてきました。一方、銅鉱石である「チャルコパイライト(黄銅鉱:CuFeS2)」の副産物であるパイライトも活用が進んでおらず、環境負荷が問題となっています。

東北大学学際科学フロンティア研究所の中安祐太助教と同阿部博弥准教授、同大学院工学研究科のEdwin Nyangau Osebe大学院生と渡邉賢教授らの研究グループは、こうした未利用資源に着目し、秋田大学、北海道大学、物質・材料研究機構などとの共同研究により、もみ殻とパイライトを原料とした燃料電池用触媒の開発に成功しました。この触媒は、特に白金が劣化しやすい酸性環境でも高い安定性を示し、従来は高価な白金にしかできなかった電池内の酸素反応を担うことが期待されます。さらに、電極材料化の際に導電性向上のため除去されてきたもみ殻由来の非晶質シリカが、鉄との相互作用により触媒の耐久性を高める可能性が示されました。本研究は、廃棄物の価値を見直すと同時に、希少金属の低減や低コスト化に貢献する、新たな電池材料技術として注目されます。

本成果は7月1日、電力に関する分野の専門誌Journal of Power Sources に掲載されました。

研究の背景

金属空気電池や燃料電池などのエネルギーデバイスでは、酸素を取り込む「酸素還元反応(ORR)(注2)」を担う触媒材料が重要な役割を果たしています。これまで主に使われてきた白金は高価で希少な資源であり、供給リスクやコスト面から、代替となる安価で持続可能な材料の開発が世界的な課題となっています。

一方、農業や鉱業の現場では、大量の未利用資源が排出され続けています。たとえば「もみ殻」は、世界中で年間1億トン以上が発生し、分解されにくく、焼却処分による環境負荷が問題となっています。

また、電気自動車や再生可能エネルギーの普及に伴って銅(Cu)の需要が急増しており、その主な供給源である銅鉱石「チャルコパイライト(黄銅鉱:CuFeS2)」の採掘が進む中で、副産物として大量のパイライト(黄鉄鉱:FeS2)が発生しています。パイライトは多くの場合使い道がなく廃棄され、雨水などとの化学反応で酸性水を発生させ、土壌や水質への悪影響が懸念されています。

こうした未利用資源を再評価し、環境負荷の低減と機能性材料の創出を両立することは、資源循環とカーボンニュートラル社会の実現に向けた重要な取り組みです。

今回の取り組み

本研究では、東北大学を中心とする研究グループが、農業廃棄物である「もみ殻」と、鉱山副産物の「パイライト(黄鉄鉱)」を活用し、白金に代わる電池用の酸素還元触媒を開発しました。貴金属を使わず、未利用資源から高性能な機能性材料を生み出す、持続可能な材料開発の新たな取り組みです。(図1)

鉄(Fe)と窒素(N)からなるFe–N₄構造は、酸素還元反応(ORR)に対して高い活性を示す一方、特に酸性条件では構造が不安定になりやすく、長時間の使用に耐えにくいという課題がありました。本研究では、この課題を解決するために、合成プロセスと構造設計の両面に工夫を加えました。

まず、パイライトからの鉄イオンを含む水溶液にもみ殻を一晩浸漬し、その後に水熱炭化(注3)することで、鉄を内部に分散させました。この工程により、触媒前駆体の均一性が高まり、大量生産にも適した構造が得られます。続く第二段階では、窒素雰囲気下での高温炭化時に、安価で広く流通する尿素を添加することで、Fe–N構造の形成を促す窒素ドープを行いました。

この二段階プロセスにより、鉄と窒素を効果的に導入し、反応性の高い構造が形成されたと考えられます。また、もみ殻に含まれる非晶質シリカが構造の安定化に寄与することで、全体として高い耐久性が実現されました。

得られた触媒は、酸性・中性・アルカリ性のすべての条件下で白金触媒に匹敵する起電力(オンセットポテンシャル)を示しました(図2)。さらに、酸性条件下における14時間の連続運転試験では、白金触媒(40wt% Pt/C)を上回る電流保持率を記録し、優れた耐久性が確認されました(図3)。

特筆すべきは、従来は除去対象とされてきたもみ殻中のシリカが、鉄との相互作用を通じて構造の安定化に寄与している可能性が示唆されたことです。このシリカは外部から添加したものではなく、もみ殻に最初から含まれていた成分がそのまま機能しており、自然に役立つかたちで働いているのが特徴です。未利用資源に含まれる成分を無駄なく活かす、新たな触媒設計のアプローチとしても注目されています。


図1. 本取り組みの概要図

図2. 各溶液条件による起電力の比較図

図3. 各溶液条件における14時間の低電位測定における耐久性の比較図

今後の展開

本触媒は、環境負荷が少なく、安価な原料と簡便な工程で製造できるため、将来的な量産・実用化に向けた展開が期待されています。現在、製造プロセスの連続化や大面積化に向けたスケールアップの研究も検討しており、産業利用に適した製造基盤の確立を目指しています。

また、本材料を用いた空気電極は、論文内で示された亜鉛(Zn)–空気電池にとどまらず、燃料電池、微生物燃料電池、その他金属空気電池、有機空気電池など、さまざまな次世代エネルギーデバイスへの応用が可能です。こうした応用により、レアメタルへの依存を抑えながら、再生可能エネルギーの効率的な蓄電や利用を実現することが期待されます。

さらに今後は、地域の自治体や企業と連携し、未利用資源の地産地消型の活用モデルや、地域エネルギーインフラへの応用も視野に入れています。農業廃棄物や産業副産物を地元で循環させ、蓄電材料や環境調和型エネルギー技術として地域に還元する取り組みは、脱炭素社会の実現と地域循環共生圏の構築にも貢献すると考えられます。

謝辞

本研究は、科学研究費助成事業(課題番号JP22K14533)、環境省環境研究総合推進費(JPMEERF20223C04およびJPMEERF20223R02)、文部科学省若手研究者キャリア自立支援事業「学際科学フロンティア研究所(TI-FRIS)」の支援を受けて実施されました。また、東北大学学際科学フロンティア研究所の共同研究支援プログラム(FRIS CoRE)により、一部の分析機器を使用しました。ここに深く感謝申し上げます。

用語説明

(注1)非晶質シリカ(アモルファスSiO2

結晶構造を持たないシリカ(酸化ケイ素)のこと。もみ殻には多く含まれ、従来は除去対象とされてきたが、本研究では触媒の構造安定化に貢献している可能性がある。

(注2)酸素還元反応(ORR)

空気中の酸素分子(O2)を水または水酸化物イオンなどに変換する反応。電池や燃料電池の正極(空気極)で用いられる。

(注3)水熱炭化

植物などのバイオマスを水とともに高温高圧の状態で加熱し、炭素を多く含む固体(炭化物)に変える技術です。およそ180~250℃の比較的低い温度で処理でき、乾燥の工程が不要なため、含水率の高い生ごみにも適用可能です。燃料や土壌改良材のほか、電池材料など高機能な炭素材料への応用も期待されています。

論文情報

タイトル: Highly Active and Stable Fe–N₄ Catalyst from Unused Natural Resources for Oxygen Reduction Reaction in Acidic to Alkaline Medium
著者: Edwin Osebe Nyangau, Hiroya Abe, Kazutoshi Haga, Chie Ooka, Kenji Hayashida, Naoka Nagamura, Kotaro Takeyasu, Masaru Watanabe, Yuta Nakayasu*
*責任著者: 東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教 中安 祐太
掲載誌: Journal of Power Sources
DOI: 10.1016/j.jpowsour.2025.237784

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学学際科学フロンティア研究所 助教 中安 祐太
TEL:022-795-5872
E-mail:nakayasu@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学学際科学フロンティア研究所 企画部
藤原 英明
TEL:022-795-5259
E-mail:hideaki@fris.tohoku.ac.jp
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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