膨張と収縮を繰り返す磁気ドメイン状態を発見
- 磁界周波数コンバータや磁気周波数逓倍器など新しい磁気デバイス応用を発想 -
2026/03/10
発表のポイント
- 迷路のような磁気ドメイン(磁区)(注1)をした磁性材料に、強いパルス磁場を1つ加えると、磁気ドメインが膨張と収縮を、複数回繰り返すことが分かりました。
- 膨張と収縮の繰り返し周波数は、加える磁界の大きさやパルスの幅によって変化することも分かりました。
- 本発見により、電子回路で実現されているデバイスを、磁気で実現可能な新しい磁気デバイスの提案が行われました。
概要
迷路のような磁気ドメインをもつ磁性材料に、強い磁場パルスを加えると、磁性材料全体の磁化が振動する現象が観測されていましたが、そのメカニズムが分かっていませんでした。
東北大学、豊橋技術科学大学、信越化学工業株式会社、トルコ・コチ大学による国際共同研究グループは、大規模3次元マイクロ磁気シミュレーション(注2)によって、迷路のような磁気ドメインをもつ磁性材料の磁場パルスに対する動的応答を計算しました。この結果、磁気ドメインが膨張と収縮を繰り返していることが分かりました。さらに、その繰り返し周波数は、入力した磁気パルスの強さや幅によって、制御できることも分かりました。この理解を発展させ、磁気パルスの強さを周波数に変換する「磁界周波数コンバータ」や、入力した磁界パルスの周波数の整数倍に出力磁場を変換する「磁気周波数逓倍器」といった新しい磁気デバイスを発想し、基本動作をシミュレーションで確認しました。
本成果は2月23日、応用物理分野の国際専門誌Japanese Journal of Applied Physicsに掲載されました。
研究の背景
鉄系ガーネット(注3)は、高周波磁気特性に優れた磁性材料であり、アイソレータや磁気メモリ、スピン波デバイスなど、通信・情報処理分野で広く活用されています。この材料は、ある条件の時、迷路のような複雑な「迷路磁区」と呼ばれる磁気ドメイン構造を自発的に形成します。こうした磁気ドメインを持つ材料に強い磁場パルスを加えると、磁化が振動する現象が生じることが知られていましたが、どのようなメカニズムで振動が生じているのかは明らかになっていませんでした。
今回の取り組み
本研究では、東北大学、豊橋技術科学大学、信越化学工業、コチ大学(トルコ)の国際共同研究グループが、大規模な3次元マイクロ磁気シミュレーションを用いて、迷路磁区を持つ鉄ガーネット膜の動的応答を解析しました。計算にはスーパーコンピューター「富岳」(理化学研究所)および「AOBA-B」(東北大学)を活用し、20 µm × 20 µm × 2 µmの磁性薄膜モデルに対し、0.1 T(テスラ)から1.25 Tに及ぶ強磁場パルスを印加した際の磁化ダイナミクスを詳細に計算しました(図1)。
主要な発見
シミュレーションの結果、強い磁場パルスを1回加えるだけで、磁気ドメインが膨張と収縮を繰り返しながら、最大6.5 GHzというギガヘルツ領域の高周波振動が生じることが明らかになりました(図2、図3)。
この振動は磁壁(注1)の非線形ダイナミクスに起因しており、パルス磁場の強さや幅を変えることで振動周波数を制御できます。さらに、連続磁気パルス列を印加することで、入力磁気パルス周波数の約10倍に相当する周波数の持続的な発振動作も実証しました。これは「磁気周波数逓倍器」としての基本動作に対応します。

図2. 強磁場パルス印加時の磁気ドメインの各地点の動き。(a)入力した三角波磁場パルス波形。(b)〜(d)は(e)における磁壁の中心(b)点と(d)点およびドメインの中心(c)点における磁化の時間変化。磁壁中心ではドメイン中心に比べて大きな振動が確認でき、ドメインの膨張・収縮が6.5 GHzで繰り返されていることが分かった。(e)と(f)はそれぞれ振動の山(0.62 ns)と谷(0.69 ns)における磁区パターンを表す。(g)は(e)と(f)の差分画像を表す。磁壁付近のみに顕著な変化が現れており、磁壁が非線形応答の起源であることが分かる。
動画
膨張と収縮を繰り返す磁気ドメインのシミュレーション動画
今後の展開
本成果は、電子回路で広く使われている電圧周波数コンバータや周波数逓倍器に相当する機能を、電気を介さず磁気のみで実現できる可能性を示すものです。磁場の強さに応じて発振周波数が変化する「磁界周波数コンバータ」、および入力周波数を整数倍に変換する「磁気周波数逓倍器」といった新しい磁気デバイスを発想し、基本動作をシミュレーションによって確認できています。これらは、電気を介さず磁気のみで動作する次世代の高周波磁気デバイスへの応用が期待されます。
謝辞
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科研費(課題番号:23K26133、23K17758)、JSPS二国間共同研究事業(JPJSBP120249401)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業、公益財団法人天田財団、文部科学省世界で活躍できる研究者戦略育成事業「学際融合グローバル研究者育成東北イニシアティブ(TI-FRIS)」、東北大学サイバーサイエンスセンター、理化学研究所計算科学研究センターHPCI(課題番号:hp240340)の支援を受けて行われました。
用語説明
(注1)磁気ドメイン・磁区・磁壁
磁性材料において磁化の向きが同じ方向に揃った領域を磁気ドメイン(磁区)と呼び、異なる磁区同士の境界部分が磁壁となる。
(注2)マイクロ磁気シミュレーション
磁性体内の磁化分布とその時間発展を数値計算で予測する手法。
(注3)鉄系ガーネット
鉄を含んだガーネット構造をもつ材料の総称。イットリウム鉄ガーネットや、セリウム置換イットリウム鉄ガーネットなど。
論文情報
著者:Takumi Koguchi, Hibiki Miyashita, Toshiaki Watanabe, Eri Negishi, Yuichi Nakamura, Mitsuteru Inoue, Kazushi Ishiyama, Mehmet C. Onbasli and Taichi Goto*
*責任著者: 東北大学電気通信研究所 准教授 後藤太一
掲載誌: Japanese Journal of Applied Physics
DOI: 10.35848/1347-4065/ae41fa

