次世代半導体「ヤヌス型 2次元シート」における新たな合成メカニズムを発見
―高品質な材料創出への道を拓き、量子デバイスや水素エネルギー製造など幅広い分野への応用に期待―
2026/05/01
研究室ウェブサイト
発表のポイント
- 次世代のナノ半導体材料であるヤヌス型2次元シート(注1)において、室温で原子が入れ替わる新たなメカニズム(電子蓄積モデル)を発見しました。
- 独自開発した「その場(in-situ)光学・電気観測システム」により、プラズマ由来の電子が2次元シートに蓄積することで原子間の結合を弱め、室温での反応を助けていることを突き止めました。
- 電子蓄積を光で制御することで反応を加速させることにも成功し、次世代2次元半導体の高度な制御に向けた重要な指針を構築しました。
概要
ヤヌス型2次元シート(以下、ヤヌス型2Dシート)は、表裏で異なる種類の元素を持つ特殊な構造から新機能が期待されていますが、なぜ室温で2Dシートの表側の原子のみが別の原子に置換されるのかについては明らかにされていませんでした(図1)。
東北大学大学院工学研究科の畢定坤大学院生、同大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の加藤俊顕教授、筑波大学数理物質系/ホウ化水素研究センターの高燕林助教、丸山実那准教授らの研究グループは、ヤヌス型2Dシートにおける原子置換反応メカニズムを解明しました。独自開発の「その場(in-situ)光学・電気観測システム(図2)」により、プラズマから供給される電子が2Dシート界面に蓄積し、本来は強固な原子間の結合が弱まることで、室温という低エネルギー状態でも原子置換反応が選択的に進行することを明らかにしました。本成果は、次世代2次元半導体の原子置換制御に向けた重要な設計指針となるものであり、半導体、量子デバイス、太陽電池、水素発生触媒、燃料電池等様々な分野での応用が期待される成果です。
本成果は2026年4月20日(現地時間)、米国科学誌ACS Materials Letters(電子版)に掲載されました。
研究の背景
ヤヌス型 2Dシートは、原子3個分の厚さの2Dシートから構成され、表と裏で異なる種類の元素を持つため、内部に強力な電場が生じ、光センサー、エネルギー変換素子、水素発生触媒、太陽光発電等の効率を劇的に向上させる性質を持つことが期待されている新材料です(図1)。表と裏に同じ種類の元素を持つ通常の2Dシートに対して、室温でプラズマを用いた手法で表側の元素のみを置換して合成されることは報告されていましたが、本来高いエネルギーを必要とする原子置換が、なぜ室温で進行するのかについては解明されていませんでした。このメカニズムを理解することは、材料の品質向上や新しい機能性材料の設計において極めて重要な課題とされてきました。
今回の取り組み
研究グループは、真空中でプラズマを照射しながら材料の構造と電気特性の変化をリアルタイムで同時に直接観察できる、世界で唯一の「その場(in-situ)光学・電気観測システム(図2)」を開発しました。このシステムを用いた実験により、プラズマ照射中に材料表面や基板との界面に電子が蓄積する現象を発見しました。また、第一原理計算(注2)による検証とあわせた結果、この蓄積された電子が金属原子とカルコゲン原子間の結合エネルギーを低下させ、これにより室温でも原子の入れ替えが容易に進むことを明らかにしました(図3)。さらに、紫外線を照射して意図的に電子蓄積を増強させることで、原子置換反応速度を2倍以上に高めることにも成功しました。これにより、「蓄積電荷」の状態を制御することが、ヤヌス型2Dシート合成の鍵となるという新たな反応モデルの提唱に至りました。
今後の展開
今回の知見により、従来は経験則に頼っていたヤヌス型2Dシートの合成を、電子蓄積状態によって制御するという新たなプロセス設計が可能になります。今後は、このメカニズムをさらに詳細に検証することで、様々な種類のヤヌス2D材料を自在に組み合わせた革新的なナノデバイスの創出が期待されます。また、今回明らかにした熱を必要としない原子置換反応は、ヤヌス型2Dシートに限らず、様々な材料への応用が期待でき、プラスチック基板などの柔軟な材料を用いた次世代のウェアラブルデバイスや、高効率な太陽電池の開発など幅広い分野への展開が期待されます。
謝辞
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP22H05441, JP23H00097, JP23K17756, JP24H01165, JP21H05232, JP21H05233, JP25H00417, JP25K08414)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR23A2, JPMJCR23A4, JPMJCR24A2, JPMJCR24A4)、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2114)、および東北大学電気通信研究所 共同プロジェクト研究の支援を受けて実施されました。
用語説明
(注1)ヤヌス型2次元シート(ヤヌス型2Dシート)
2次元状に並んだ原子シートの表側と裏側で、異なる種類の原子が配置された構造を持つ半導体。ローマ神話の双面神「ヤヌス」にちなんで名付けられた。
(注2)第一原理計算
量子力学の基本法則に基づき、実験データを使わずにコンピュータ上で物質の性質や反応を予測する計算手法。
論文情報
著者:Dingkun Bi, Tianyishan Sun, Weizi Lu, Hiroto Ogura, Yanlin Gao, Mina Maruyama, Susumu Okada, Toshiaki Kato*
*責任著者:東北大学大学院工学研究科/材料科学高等研究所 教授 加藤俊顕
掲載誌:ACS Matterials Letters
DOI:10.1021/acsmaterialslett.6c00018
お問合せ先
東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)/大学院工学研究科電子工学専攻 教授 加藤 俊顕
TEL:022-217-6165
Email:kato12@tohoku.ac.jp


