CFRP接着構造の強度を数値解析で予測するマルチスケール解析モデルを構築

―航空機構造の軽量化に向けた接着剤設計の効率化へ―

2026/06/29

【工学研究科研究者情報】
〇大学院工学研究科航空宇宙工学専攻 教授 岡部 朋永
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発表のポイント

  • 航空機構造の軽量化に向けて、CFRP(注1)などの複合材料をボルトではなく接着剤で接合する接着構造(注2)への期待が高まっています。
  • 接着剤に添加される改質剤(ゴム粒子)が、接着剤内部の損傷や変形に与える影響を考慮し、CFRP接着構造の強度を予測するマルチスケール解析(注3)モデルを構築しました。
  • 従来は実験的な試行錯誤に頼ることが多かった改質剤(注4)の添加量設計を、数値解析に基づいて行うための指針になると期待されます。

概要

航空機をはじめとする輸送機器では、燃費向上や二酸化炭素排出量削減に向けて、機体構造のさらなる軽量化が求められています。特に次世代航空機では、構造部材を固定するボルトなどの機械的締結(注5)を減らし、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を接着剤で接合する接着構造への期待が高まっています。

航空機用接着剤には、耐熱性や力学特性に優れるエポキシ樹脂(注6)が広く用いられています。しかし、エポキシ樹脂は割れやすいため、じん性(注7)向上を目的にゴム粒子などの改質剤が添加されます。一方で、改質剤の添加量によって接着剤の特性や接着構造の強度がどう変化するかを事前に予測することは難しく、従来は実験を繰り返しながら最適条件を探索する必要がありました。

東北大学グリーン未来創造機構グリーンクロステック研究センターの干川大和助教らの研究グループは、改質剤周辺で生じる微視的な損傷を表すモデルと、接着剤とCFRPからなる接着構造全体の破壊を表すモデルを連携させたマルチスケール解析モデルを構築しました。さらに、接着剤の強度だけでなく、破壊の進みにくさを示すじん性にも着目し、改質剤添加による接着強度向上メカニズムを実験と数値解析の両面から明らかにしました。今回得られた知見により、接着剤開発における試行錯誤の削減や、高信頼性な接着構造設計への貢献が期待されます。

本研究成果は、2026年6月20日、学術誌 International Journal of Solids and Structures(IJSS)に掲載されました。

研究の背景

CFRPは、軽くて強い材料として航空機構造への適用が進んでいます。従来、航空機の構造部材はボルトなどによって固定されてきましたが、ボルトを用いると部材に穴を開ける必要があり、重量増加や応力集中の原因となる場合があります。そのため、次世代航空機では、機械的締結を減らし、接着剤によって部材を接合する接着構造への期待が高まっています。

航空機の接着構造に用いられる接着剤には、高い耐熱性と力学特性を持つエポキシ樹脂が広く用いられます。しかし、エポキシ樹脂は一般に硬く、もろい性質を持つため、破壊に対する抵抗性を高める必要があります。そのため、エポキシ樹脂には、ゴム粒子などの改質剤を添加し、じん性を向上させる工夫が行われてきました。

一方で、改質剤をどの程度添加すれば接着剤の特性や接着構造の強度が最適になるかを、事前に予測することは容易ではありませんでした。従来は、接着剤そのものの力学特性や接着構造の強度を実験で測定し、その結果に基づいて改質剤の添加量を調整する必要がありました。このような試行錯誤型の開発は、材料開発の時間やコストを増大させる要因となっていました。

今回の取り組み

本研究では、エポキシ樹脂にコアシェルゴム(CSR)粒子(注8)を添加した接着剤を対象に、接着剤単体の力学特性評価と、CFRPを被着体(注9)とするSingle lap shear(SLS)試験(注10)による接着強度評価を実施しました。まず、接着剤単体について引張試験および圧縮試験を行い、CSR粒子の添加量が弾性率や強度に与える影響を調査しました。さらに、実際の接着構造を模擬したSLS試験を実施し、接着剤の改質が接着構造全体の強度にどのような影響を及ぼすかを評価しました。

その結果、CSR粒子を添加すると、接着剤単体の弾性率や強度は低下する傾向を示した一方で、SLS強度は向上することが確認されました。特に、CSR粒子を5 wt%(注11)添加した場合に最も高い接着強度が得られました。この結果は、接着剤単体の強度だけでは接着構造全体の性能を評価できないことを示しており、接着構造の強度発現メカニズムを理解するためには、材料内部で生じる変形や損傷の過程を考慮する必要があることを示しています。

そこで研究グループは、材料内部で生じる微視的な現象と、接着構造全体の破壊挙動を結び付けるマルチスケール解析モデルを構築しました。具体的には、CSR粒子周辺のエポキシ樹脂に生じる塑性変形や損傷を表現する微視的構造モデルと、接着剤層およびCFRP被着体からなる接着構造全体の破壊を評価する構造モデルを連成しました。

微視的構造モデルでは、CSR粒子が分散したエポキシ樹脂内部を再現し、粒子周辺で発生する応力集中や塑性変形、微小損傷の進展を解析しました。その結果、CSR粒子の添加によって粒子周辺に局所的な塑性変形領域が形成され、外部から加えられたエネルギーが効率的に吸収されることが分かりました。また、粒子周辺で発生する微小な損傷が破壊エネルギーの増加に寄与し、材料全体としてのじん性向上につながることが示されました。

一方、構造モデルでは、微視的構造モデルから得られた材料特性を用いて、SLS試験における応力分布や損傷進展を解析しました。接着層内で発生する損傷の蓄積やき裂進展を考慮することで、接着構造としての最終的な破壊強度を予測しました。従来の研究では、接着剤の強度や弾性率といった材料特性に着目した評価が中心でしたが、本研究では、破壊の進みにくさを示す「じん性」を定量的に評価し、それを構造強度予測へ反映した点に特徴があります。

構築したマルチスケール解析モデルを用いてCSR粒子添加量の影響を評価したところ、接着剤単体の力学特性だけでなく、SLS強度の変化についても実験結果を良好に再現できることが確認されました。特に、CSR粒子添加によって接着剤の強度は低下するにもかかわらず、じん性の向上によってSLS強度が増加するという実験結果を適切に説明することができました。

さらに、本モデルを用いることで、改質剤の添加量と接着構造強度との関係を数値的に評価できることが示されました。従来は、接着剤の配合を変更するたびに材料試験や接着強度試験を繰り返し実施する必要がありましたが、本研究で開発した手法を活用することで、設計段階において改質剤の添加量が接着構造に与える影響を事前に予測できる可能性があります。これにより、接着剤開発や接着構造設計における試行錯誤を大幅に削減し、より効率的な材料開発や構造設計につながることが期待されます。

今後の展開

今後は、樹脂組成の違いが接着強度に及ぼす影響や、ゴム粒子サイズの効果を体系的に評価するとともに、分子動力学解析との接続を進めることで、より高度な接着構造設計技術の確立を目指します。


図1. 本研究で実施した接着強度試験。破壊後の接着面にはCSR粒子の痕がみられる。

図2. 接着部の微視的損傷を考慮したマルチスケール解析モデル。エポキシ/CSR粒子からなるナノスケール構造からCFRPの接着構造の強度を予測できる。

図3. (a)構築したマルチスケール解析によって予測した接着強度と実験値の比較 , (b)接着構造解析と微視的構造解析の連携。CSR粒子の添加によりせん断変形が発生し、損傷域が拡大している。

謝辞

本研究は、科学技術振興機構(JST)経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)「革新的軽量構造を実現する複合材接着技術に関する研究開発とその学理構築」(課題番号:JPMJKP24W1、研究代表者:東北大学大学院工学研究科、岡部朋永教授)の支援を受けて行われました。

用語説明

(注1)CFRP

Carbon Fiber Reinforced Plasticの略称です。炭素繊維を樹脂で固めた複合材料で、軽量で高強度なため、航空機、自動車、スポーツ用品などに用いられています。

(注2)接着構造

ボルトやリベットなどの機械的な固定具ではなく、接着剤によって部材同士を接合した構造です。穴あけ加工を減らせるため、軽量化や応力集中の低減が期待されます。

(注3)マルチスケール解析

材料内部の微小な構造で生じる現象と、構造全体の変形や破壊を結び付けて解析する手法です。本研究では、CSR粒子周辺の微視的な変形や損傷を評価し、その結果をCFRP接着構造全体の強度予測に反映しています。

(注4)改質剤

樹脂などの材料に添加し、じん性、柔軟性、耐衝撃性などの性質を改善するための物質です。本研究では主にゴム粒子を指します。

(注5)機械的締結

ボルト、リベット、ねじなどを用いて部材を固定する方法です。航空機構造で広く用いられています。

(注6)エポキシ樹脂

耐熱性、接着性、力学特性に優れた樹脂です。航空機用接着剤や複合材料の母材樹脂として広く用いられています。

(注7)じん性

材料の割れにくさ、または破壊の進みにくさを表す性質です。強度が高くてもじん性が低い材料は、き裂が発生すると急激に壊れる場合があります。

(注8)コアシェルゴム(CSR)粒子

中心部のゴム成分を外側の樹脂成分で覆った粒子です。エポキシ樹脂中に分散させることで、破壊時のエネルギー吸収を高める効果が期待されます。

(注9)被着体

接着剤によって接合される材料です。本研究では、CFRPが被着体に相当します。

(注10)Single lap shear(SLS)試験

2枚の板状材料を一部重ねて接着し、引張荷重を加えることで接着部の強度を評価する試験です。接着構造の基本的な強度評価に用いられます。

(注11)wt%

重量パーセントのことです。材料全体の重さに対して、ある成分がどの程度含まれているかを示す単位です。

論文情報

タイトル:Multiscale Modeling of Toughening in Thermosetting Resins Based on a Microscopic Damage Model: Application to Bonded CFRP Structures
著者:Yamato Hoshikawa*, Sera Koo, Yoshiaki Kawagoe, Shoko Mishima, Kazuki Ryuzono and Tomonaga Okabe
*責任著者:東北大学グリーン未来創造機構 グリーンクロステック研究センター 助教 干川 大和
掲載誌:International Journal of Solids and Structures
DOI:10.1016/j.ijsolstr.2026.114159

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学グリーン未来創造機構
グリーンクロステック研究センター
助教 干川 大和
TEL: 022-795-5643
Email:yamato.hoshikawa.d4@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学グリーン未来創造機構 グリーンクロステック研究センター事務室
TEL:022-795-5648
Email:green-x-tech@grp.tohoku.ac.jp
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
Email:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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