光をつかった水素製造に酸化鉄を利用
―チタンドープによる光触媒活性のメカニズムを解明―
2026/08/24
発表のポイント
- 光エネルギーで水を分解する光触媒反応に、酸化鉄を利用することに成功しました。
- 純粋な酸化鉄は不活性ですが、1%程度のチタンを添加することで光触媒としての活性が発現することを明らかにしました。
- 今後の更なる高機能化により、太陽光を利用した水素製造技術向上への貢献が期待されます。
概要
太陽光エネルギーを利用して有用物質を獲得する人工光合成(注1)は持続可能社会実現に向けて重要な技術です。資源量の豊富な酸化鉄の人工光合成応用が期待されていますが、水分解光触媒(注2)応用の研究はまれでした。
東北大学多元物質科学研究所の加藤英樹教授、吉野隼矢助教、大学院工学研究科の宮下智臣大学院生(研究当時)、名古屋大学未来材料・システム研究所の小林亮准教授らの研究グループは、1%程度のチタンをドーピングした酸化鉄を水素生成光触媒であるロジウムドープチタン酸ストロンチウムと組み合わせることで水分解が光触媒的に進行することを見出しました。電気化学測定を通じて、チタンドーピングにより電気抵抗が低下するとともにn型半導体特性が向上するために光生成した電子と正孔の分離が促進されることが水分解活性発現の要因であることが明らかとなりました。
本成果は、酸化鉄を光触媒的水分解反応に利用するための材料設計指針を示すものであり、酸化鉄の人工光合成応用への貢献が期待されます。
本研究成果は、2026年8月7日付けで、米国化学会の学術誌ACS Applied Energy Materialsに掲載されました。
研究の背景
持続可能社会実現に向けて、再生可能エネルギー・資源の獲得は極めて重要です。特に、資源量の豊富な太陽光エネルギーを利用して水から水素を製造する人工光合成は重要な技術です。水分解光触媒は光エネルギーを利用して水を分解して水素と酸素を作り出す光機能材料で、人工光合成の1つの技術として注目されています。資源量が豊富な酸化鉄は、酸素生成能を有するために光電極や光触媒として人工光合成への利用が期待されています。光電極応用の研究が精力的に行われている一方、光触媒応用の研究報告はまれでした。
酸化鉄は水素生成能を持たないため、水分解を実現するためには水素生成光触媒と組み合わせるZスキーム系(注3)構築が不可欠です。これまでに酸化鉄光触媒を利用した水分解が数例報告されていますが、いずれも組み合わせる水素生成光触媒は窒化炭素に限られていました。酸化鉄の人工光合成利用を発展させるためには、他の水素生成光触媒、とくにより長波長の光に応答する光触媒との組み合わせによる水分解の実現が求められてきました。
今回の取り組み
本研究では、窒化炭素よりも長波長光に応答するロジウムドープチタン酸ストロンチウムを水素生成光触媒に用いて酸化鉄光触媒のZスキーム型水分解応用を検討しました。その結果、未ドープの酸化鉄は不活性であるのに対して、1%程度のチタンをドーピングした酸化鉄が活性を示し、水から水素と酸素を生成することを見出しました(図1)。
吸光分光および電気化学測定を通じて、既報の通りチタンドーピングによりドナー電子が導入されて電気抵抗が低下するとともにn型半導体特性が増大することを確認しました。このことから、n型半導体特性の増大により酸化鉄表面近傍でのバンド曲がりが形成された結果、光生成した電子―正孔の分離が促進されたことが活性発現の要因であることを明らかにしました。
Zスキーム型水分解では酸素生成光触媒から水素生成光触媒への電子移動が不可欠で、電子移動を助けるためにコバルト錯体や鉄イオンなどのレドックス剤(注4)がしばしば添加されます。今回のZスキーム型水分解ではレドックス剤であるコバルト錯体や鉄イオンの添加よりも、反応溶液のpHを4程度に調整することが効果的であることが見出されました(図2)。レドックス剤の添加はレドックス剤が関与する逆反応を誘発するため、粒子間電子移動を利用するZスキーム型水分解には利点があります。光触媒を分散させた溶液を光学顕微鏡で観察すると、反応溶液のpHを4に調整した場合に酸化鉄とロジウムドープチタン酸ストロンチウムが凝集する様子が確認されました。この凝集体形成により酸化鉄からの粒子間電子移動が促進されるために活性が向上することを突き止めました。
今後の展開
本研究により、酸化鉄光触媒の水分解応用を指向した材料設計指針が示されるとともに、水分解応用への有用性が改めて確認されました。今後、合成法の検討や電子移動システムの改善による反応効率の向上、さらに、より長波長に応答する水素生成光触媒と組み合わせることによる太陽光スペクトルの利用効率向上を目指します。これにより、酸化鉄の人工光合成応用への貢献が期待されます。
謝辞
本研究は、JSPS科研費(JP24K01594)の支援を受けて実施しました。また、名古屋大学未来材料・システム研究所の「環境調和型で持続発展可能な省エネルギー・創エネルギーのための材料とシステム研究拠点」の支援を受けました。
用語説明
(注1)人工光合成
光エネルギーを利用して高エネルギー化合物を作り出す反応。反応を通じて光エネルギーが化学エネルギーへと変換される。水から水素の生成、二酸化炭素からの一酸化炭素、炭化水素製造などが挙げられる。
(注2)水分解光触媒
光励起により生じる電子・正孔を利用して水を還元・酸化して水素と酸素を生成する光機能材料。
(注3)Zスキーム系
2種類の光触媒を組み合わせて、対象とする還元反応と酸化反応をそれぞれに分担させる光触媒反応システム。2種類の光触媒の光励起が必要で、2段階励起型とも呼ばれる。
(注4)レドックス剤
可逆的に酸化還元可能な化学種。Zスキーム型水分解では酸素生成光触媒から水素生成光触媒への電子移動を担うこともできる。
論文情報
著者:Tomoomi Miyashita, Shunya Yoshino, Makoto Kobayashi, Hideki Kato*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 教授 加藤英樹
掲載誌:ACS Applied Energy Materials
DOI:10.1021/acsaem.6c01486

