津波リスク評価技術を生かしたパラメトリック型保険

―東北電力からデータ提供を受け、設計手法を高度化―

2026/09/15

発表のポイント

  • 東北大学はスイス損害保険会社との共同研究により、確率論的津波リスク評価(PTRA)(注1)を用いて、津波による損害に対し、浸水深など事前に定められた指標に基づいて保険金が支払われる「津波パラメトリック型保険」の研究開発を進めています。
  • このたび、東北電力株式会社から火力発電所の防潮堤等に関するデータ提供等の協力を得て、沿岸部の発電インフラを想定した津波リスクと指標設定の関係を調査・検討しました。
  • 得られた知見は、ベーシスリスク(保険金支払額と実際の損害の不一致)の低減に資する保険設計手法の高度化と、津波リスクを対象としたリスクファイナンスの社会実装に向けた検討に役立つものです。

概要

東北大学災害科学国際研究所のサッパシー アナワット准教授と同大学大学院工学研究科の三木優志大学院生らのチームは、スイス損害保険会社との産学連携により、津波リスクに対する新たな備えとして、確率論的津波リスク評価に基づくパラメトリック型保険の設計手法を開発しています。このたび本研究グループは研究成果の社会実装に向けた検討の一環として、東北電力株式会社(本店:宮城県仙台市)から火力発電所の防潮堤等に関するデータ提供等の協力を得て、沿岸部の発電インフラを想定した津波リスクと指標設定の関係を検証しました。パラメトリック型保険は、災害後に査定が行われる従来型の保険とは異なり、あらかじめ決めた指標に基づいて迅速に保険金を支払う仕組みですが、ベーシスリスクが生じることが課題となっています。なお、本取り組みは研究開発および保険設計手法の高度化を目的としており、個別企業における保険導入の決定を前提とするものではありません。

研究の背景

地震・津波による災害は、発生頻度は必ずしも高くない一方で、一度発生すると社会・経済に極めて大きな影響を及ぼします。特に発電所をはじめとするエネルギーインフラは、被災時の早期復旧が地域社会全体のレジリエンス確保に直結します。

近年、事前に定めた自然災害指標(震度や風速など)に基づいて保険金が支払われる「パラメトリック型保険」が注目されています。事後に被害を調査して保険金を支払う従来の保険に比べ、迅速な支払いができることが特徴です。しかし、津波は地形や防波堤・防潮堤の影響を強く受けるため、沖合にある観測地点での津波高と被害との関係が一様ではなく、パラメトリック型保険では保険金支払額と実損害との不一致(ベーシスリスク)が生じやすいという課題がありました。

今回の取り組み

本学ではこれまで、過去および将来想定される多数の地震・津波シナリオを用いて、高解像度・確率論的な津波解析を実施し、「検潮所で観測される津波の高さ(潮位偏差)」「対象敷地内における津波浸水深」「防波堤・防潮堤など既存防災インフラの効果」の関係を定量的に評価してきました。2025年8月には、これらの解析結果を基に、津波パラメトリック型保険においてベーシスリスクを定量化し、それを最小化するための保険設計手法を開発した研究成果を公表しています。仙台港を対象とした試算では、検潮所での津波の高さを指標とした結果、支払い不足を低減しつつ、過剰な支払い額を平均60.9 %削減できる、つまり保険料を60.9 %削減できる可能性を示しました。

今回の取り組みでは、これらの研究成果を踏まえ、東北電力株式会社から提供を受けた火力発電所周辺の防波堤・防潮堤などの詳細な情報を加味し、各発電所近傍の検潮所で観測される津波の高さと敷地内浸水リスクとの関係を分析しました。これにより、発電インフラの立地や既存防災インフラの特性を反映した指標設定のあり方を具体的に検討し、津波パラメトリック型保険におけるベーシスリスク低減に資する設計手法の検証をいっそう進めることができました。今後は、個別企業における例にとどまらず、多くの発電インフラのレジリエンス強化に資する、汎用的な手法へ発展させることを目指します。

今後の展開

今回は、東北電力株式会社から提供を受けた実データを踏まえた検討をすることができました。本研究で得られた知見を保険・金融分野の実務と結び付けながら、学術研究成果の社会実装をさらに推進していきます。今後は、企業からのデータ提供等の協力を得た検討を継続し、発電インフラを含む沿岸重要施設のレジリエンス強化に資する津波リスクファイナンス手法の高度化・普及を目指します。関係機関と連携しながら、津波災害への備えを「事前の投資」として社会に根付かせる取り組みを進めていきます。

謝辞

本研究はスイス・リー・インターナショナル・エスイー日本支店との共同研究を通じて実施しました。また、東北電力株式会社より防潮堤等に関するデータ提供等の協力を受けました。

用語説明

(注1)確率論的津波リスク評価(PTRA)

将来の津波被害が「どのくらいの規模で、どのくらいの確率で起こるか」を評価する確率論的手法。過去の地震記録やプレートの動きなどの情報をもとに、将来起こりうる複数の津波シナリオを設定し、それぞれの被害規模と発生確率を計算します。

関連文献

タイトル:A proposed approach towards minimizing basis risk in tsunami parametric insurance scheme. (2025)
著者:Yushi Miki, Constance Ting Chua, Anawat Suppasri, An-Chi Cheng, Tomoya Iwasaki, Yugo Shinozuka, Takafumi Ogawa & Fumihiko Imamura
掲載誌:npj Natural Hazards
DOI:10.1038/s44304-025-00127-x

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学 災害科学国際研究所 津波工学研究分野
准教授 サッパシー アナワット
TEL:022-752-2090
Email:suppasri.anawat.d5@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学災害科学国際研究所 広報室
TEL:022-752-2049
Email:irides-pr@grp.tohoku.ac.jp

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
Email:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
ニュース

ニュース

ページの先頭へ