液体ヘリウム不要の新開発 高温超電導コイルを搭載~MRIミニモデルで世界初の磁界強度3テスラでの撮像に成功~

2016/05/25

三菱電機株式会社(以下 三菱電機)、国立大学法人京都大学(以下 京都大学)、国立大学法人東北大学(以下 東北大学)は、経済産業省が実施の国家プロジェクトにて、枯渇が懸念されている液体ヘリウムが不要な高温超電導※1 コイルをMRI※2 ミニモデルに搭載し、世界初※3 の磁界強度3テスラ※4 での撮像に成功しました。高い磁界強度のMRIはより高精細な画像での診断を実現し、病気の早期発見につながります。また、MRI以外の高い磁界強度を必要とする電気機器へ高温超電導コイルの適用も期待できます。

なお、本開発については、2016年5月30日から開催される「第93回低温工学・超電導学会研究発表会(於:タワーホール船堀)」にて発表を予定しています。

【語句説明】
  • ※1 高温超電導:マイナス180度以下で電気抵抗がゼロになるイットリウム系超電導線を使用
  • ※2 MRI:Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴画像撮像装置)
  • ※3 2016年5月24日現在(当社調べ)。高温超電導コイルを搭載した機器において
  • ※4 テスラ:磁界強度を表す単位。1テスラ=1万ガウス
【開発の背景】

超電導には低温超電導コイル方式と高温超電導コイル方式があり、現在は液体ヘリウムを用いてマイナス269度以下まで冷却する低温超電導コイル方式がMRIや一部の分析機器に適用されています。しかし、ヘリウムガスを事業の採算に見合うコストで採取できるガス田がもともと少なく、備蓄も底をつき始める一方で、新興国の発展により需要が増えていることから、将来は枯渇する恐れがあるといわれています。このため、液体ヘリウムにより冷却が不要な高温超電導コイル方式の電気機器への適用が期待されています。低温超電導線に比べて高温超電導線は同じ断面積で大きな電流を流せるため、より小さなコイルで同等の磁界を発生させることができ、適用する電気機器の小型化もできます。

三菱電機は、2013年度から国家プロジェクト、経済産業省「高温超電導コイル基盤技術開発プロジェクト」において、高温超電導線を用いたコイルの設計・製造に関する基本技術を確立し、液体ヘリウム不要の高温超電導コイルを開発するとともに、今回、技術レベルの実証として、MRIミニモデルで世界初の磁界強度3テスラでの撮像に成功しました。

【開発体制】
三菱電機
高温超電導コイルの設計、製造、およびMRIミニモデルによる撮像
京都大学
MRIミニモデル用撮像システムの構築(白井教授)
磁化による磁場乱れの対策の解析検討(中村准教授)
東北大学
磁化による磁場乱れの対策の実測評価(津田教授(電気エネルギーシステム専攻)、宮城准教授(電気エネルギーシステム専攻))

本件は、高温超電導コイルを応用した医療機器の実現を念頭に、経済産業省「高温超電導コイル基盤技術開発プロジェクト」および国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業 高安定磁場コイルシステム基盤技術の研究開発」の支援によって開発した成果です。

【今回の開発成果の特長 】

1.高温超電導コイルの巻き線精度の向上により、磁界強度の均一性を実現

現在の商用MRIで使用される低温超電導線の断面形状は丸形または角形(幅2~3mm)であるのに対し、高温超電導線は幅4~5mm、厚さ約0.2mmの薄いテープ状です。超電導コイルを作製するには、多い場所は数百周巻きつける必要があり、高温超電導線のわずかな厚さの変動が積算され、各々のパンケーキ形状の超電導コイル(パンケーキコイル)の巻き高さが設計値通りにならないと言う課題がありました。今回、巻き高さをレーザ変位計で測定し、巻き高さを補正シートにより調整する技術を開発し、パンケーキコイル外径約400mmに対し、0.1mm以下の巻き線精度を実現しました。

その結果、商用MRIに求められるゆがみのない撮像の目安とされる磁界強度の均一性(100万分の2以下)を実現しました。

2.MRIのミニモデルにて、世界初の磁界強度3テスラで撮像に成功

高温超電導コイルをMRIのミニモデルに搭載し、円筒空間(φ230mm×650mm)中心に商用MRIに求められるゆがみのない撮像の目安とされる磁界強度の均一性(100万分の2以下)を実現する直径25mm球の撮像空間を構築しました。

発生磁界強度を従来の1.5テスラから世界初の3テスラまで高磁界化し、撮像ユニットを用いて撮像空間に設置したマウス胎児の画像撮像に成功しました。

【今後の展開】

2020年度までに実用機の半分サイズのMRIを試作するとともに、高温超電導コイルの設計・製造基盤技術を構築し、高安定磁界システムの実用化に向けた研究開発を推進します。また、2021年度以降に実用機サイズのMRIコイル試作を行うなど、早期の事業化を目指します。

【お問い合わせ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
ニュース

ニュース

ページの先頭へ