「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」の実証運転を開始

- 非常時でも継続稼働が可能な浄水場の実現へ -

2017/08/25

NEDO事業において、東北大学と(株)前川製作所は、水素貯蔵システムと電力貯蔵装置を組み合わせて、通常時の再生可能エネルギーの有効利用と非常用電源としての機能を併せ持つ「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」を新たに考案・開発し、仙台市茂庭浄水場にて実証運転を開始しました。

再生可能エネルギーから得た電力を用いて水素を製造、利用するPower to Gasの一形態である本システムの実用化により、災害時に停電が発生しても安定して継続運転が可能な次世代の浄水場の実現を目指します。

1.概要

東日本大震災時は、非常用電源として、多くの自家用発電機が使用されましたが、メンテナンス不足による動作不良や燃料不足など、さまざまなトラブルが発生しました。仙台市でも、1978年の宮城県沖地震の経験から、主要な浄水場には24時間の停電に対応可能な非常用自家用発電装置を設置していましたが、東日本大震災時は、停電時間が24時間をはるかに上回り、県内の石油備蓄基地の被害や物流の遮断により燃料確保が困難を極め、浄水場の機能維持に大変苦慮する結果となりました。また、福島第一原子力発電所の事故を受け、地球温暖化対策とエネルギー政策の両面から、再生可能エネルギーの利用拡大が進められていますが、2012年にスタートしたFIT法により、再生可能エネルギーの導入量、特に太陽光発電については予想以上のペースで増加しており、系統への接続が保留されたり、新規接続契約が停止されるなどの課題が顕在化しつつあります。

このような背景の下、NEDOは、2014年度から「水素社会構築技術開発事業」の1テーマとして、仙台市水道局協力のもと同市茂庭浄水場をモデルに水素を利用して安定的なエネルギーを供給するための技術開発を実施しています。本事業では、経済・技術成立性を見通す全体コンセプトを検討し、これに基づく技術の検証を行っています。国立大学法人東北大学と株式会社前川製作所は、大容量化や小型化に優れた水電解装置・燃料電池・水素貯蔵システムと、耐久性、即応性、高効率性に優れた電気二重層キャパシタ※1等の電力貯蔵装置を組み合わせた新しいシステムを考案・開発しました。新規開発した「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」は、平常時の太陽光発電の有効利用だけでなく、非常時のエネルギーの長時間安定供給も可能にするものです。そして、今般、仙台市茂庭浄水場の20kW太陽光パネルを用いた実証システム(図1)が完成し、実証運転を開始しました。

図1に示すように、本実証システムにおいては、直流母線電圧※2のコンセプトを水素の貯蔵管理にも広げ、電気系の直流母線(DC BUS)に対応し、ガス系において水素母線(H2 BUS)※3という呼び方を用いています。


図1 実証試験用「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」

再生可能エネルギーから得た電力で水素を製造、利用するシステム(Power to Gas)の一形態でもある本システムの実証運転を通して、東日本大震災の教訓の一つである「外部からの燃料調達に依存しない大容量非常用電源」技術の確立を行い、災害時に停電が発生しても安定した継続運転が可能な新たな浄水場の実現を目指します。

2.「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」の特長

茂庭浄水場においては、再生可能エネルギーとして太陽光発電を利用しています。浄水場において、通常時の再生可能エネルギーの有効利用や非常時のエネルギーの長時間安定供給を実現するには、即応性、大容量性、耐久性、コンパクト性、高効率性を兼ね備えたエネルギー貯蔵装置が不可欠ですが、これまでこの様な条件を満たす単体のエネルギー貯蔵装置はありませんでした。そこで「電力・水素エネルギー貯蔵システム」においては、大容量性やコンパクト性に優れている水素貯蔵システムと、即応性、耐久性、高効率性に優れている電力貯蔵装置を組み合わせて、これを実現しました(図2)。


図2 「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」における再生可能エネルギー出力変動の補償方法

不安定な再生可能エネルギーの出力変動に対し、本システムにおいては二つの手法を用いて高精度な補償を行います。

具体的には、本提案システムでは、図2に示す様に再生可能エネルギー出力と目標出力(負荷消費電力)の差の時間変化分を未来予測技術により長周期成分と短周期成分に分離します。そして、それを基にして長周期成分については、エネルギーが余剰の場合、水電解装置を用いて水素を製造発生させ、逆にエネルギーが不足の場合には、燃料電池を用いて発電することにより変動分の補償をしています。

他方、短周期成分については、即応性に優れた電気二重層キャパシタを電力貯蔵システムとして用いることにより、高精度な補償を実現しています。この様な補償方法とすることで、直流母線電圧を一定に保つことができ、安定した電力供給を可能にしています。その結果、浄水場の以下の様なニーズを満たすことが可能になります。

  • ◆水素エネルギーを用いることにより、非常時に必要となる3日分のエネルギーを省スペースで貯蔵
  • ◆非常時(停電時)でも太陽光発電から水素を生成することにより,外部からの燃料調達無しでも運転を継続
  • ◆通常時は、再生可能エネルギーの活用と水素貯蔵により、ろ過砂洗浄等の負荷平準化やピークカット/シフトを実現(ろ過砂洗浄作業:夜間から昼間へ)
  • ◆非常時(停電時)でも、所内負荷に電力を安定して供給
3.実証事業の内容

本事業で提案された「電力・水素エネルギー貯蔵システム」を用いて、通常時の再生可能エネルギーの有効利用や非常時の長時間エネルギー安定供給を実現するために、実証システム(規模は実適用時の約1/50)を用いて、主に以下の項目を検証します。

  • ◆燃料電池や水電解装置の応答性、制御性、耐久性
  • ◆高精度変動補償に適した太陽光発電出力の予測方法と最適な変動補償方法
  • ◆太陽光発電出力の変動補償に適した電力・水素貯蔵システムの入出力制御方法
  • ◆長時間連続運転に適した電力貯蔵システムと水素貯蔵システムの運転制御方法
  • ◆燃料電池と水電解装置の同時運転を可能とする水素貯蔵システムの運転制御方法
4.今後の予定

東北大学と(株)前川製作所は、「電力・水素エネルギー貯蔵システム」の実証運転を予定通り、確実に実施します。さらに、今回の実証運転を通して得られる本事業の種々の結果を踏まえて、新たな浄水場向けのエネルギーシステムの早期実現に向け、実規模システムのコスト低減に有効なシステム構成機器の容量選定指針やシステム運転制御方法の確立を進めます。

【用語解説】

※1 電気二重層キャパシタ
電気二重層という物理現象を利用した、優れた充放電サイクル特性(寿命)や急速充放電特性を有する蓄電デバイス(コンデンサ)

※2 直流母線電圧
電力・水素複合エネルギー貯蔵システムの基幹となる電線(直流)の電圧(DC BUS Voltage)

※3 水素母線(H2 BUS)
電気系の直流母線(DC BUS)に対応する水素の基幹フロー配管

【お問い合わせ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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