層状半導体GaSeの巨大なスピン軌道相互作用を発見 従来のグラフェンと異なる新しいスピントロニクス材料

2017/11/08

【発表のポイント】
  • これまでのグラフェンにない優れたスピン特性を有す原子層トランジスタ材料
  • 従来のGaAsに比べて10倍以上大きなスピン軌道相互作用※1
  • 磁性体を一切用いないGaSeだけで構成できる新たな電界効果スピントランジスタへの期待
【概要】

国立大学法人東北大学大学院工学研究科 高砂 祥一 博士前期課程学生(現 エプソン)、好田 誠 准教授、塩貝 純一 助教(現 同大金属材料研究所)、新田 淳作 教授らの研究グループは、同大大学院工学研究科 小山 裕 教授の研究グループから提供された層状半導体GaSeが、従来のGaAsに比べて10倍以上大きなスピン軌道相互作用を示すことを発見しました。

スピン軌道相互作用は、磁場を一切用いることなく電気的なスピン生成・操作・検出を可能にします。層状半導体GaSeは、強磁性体を一切用いない高速・低電力化が可能な新しい電界効果スピントランジスタの実現にむけて有望な材料である事を示しました。

本研究成果は、2017年10月30日に米国科学誌「Physical Review B, Rapid Communication」にオンラインで公開されました。なお、本研究は、独立行政法人 日本学術振興会 科学研究費助成事業の助成を受けて行われました。

【研究の背景】

近年グラフェンの発見以来、層状物質半導体の研究が盛んに行なわれています。グラフェンは、機械的強度、熱伝導、移動度が高く様々な応用が期待されていますが、エネルギーギャップがゼロであることから原子層トランジスタとしてON/OFF比を大きくすることが出来ない欠点があります。一方、GaSeなどのIII-VI族層状物質半導体は、直接遷移型のエネルギーギャップが有限で比較的移動度が高いことから原子層トランジスタを目指した研究が行われています。また、直接遷移型半導体である特性を活かした薄膜フォトディテクター、非線形光学効果を用いた室温テラヘルツ波発生源としての研究も行なわれています。最近は圧力印加によるトポロジカル絶縁体転移や、電界制御による強磁性転移が理論的に予言されています。スピン軌道相互作用はトポロジカル絶縁体や強磁性体の磁気異方性等に重要な役割を果たすとともに、電子スピンの電気的操作を可能にしますが、GaSeのスピン軌道相互作用の起源について実験的な知見はありませんでした。

【研究の成果】

図1は10nmのGaSe薄膜を用いたバックゲート付き素子構造です。図2は低温(T= 2K)における磁気量子伝導度測定結果を示しています。弱反局在※2理論とのフィッティングからスピン軌道相互作用の強さを評価したところ、III-VI族層状半導体GaSeは、同程度のエネルギーギャップ、価電子帯のスピン分離をもつIII-V族半導体GaAsに比べて10倍以上スピン軌道相互作用が強くなることを見いだしました。また、バックゲート電圧依存性から、ラッシュバ型のスピン軌道相互作用であることが確認されました。一方、原子層GaSeではゲート電圧によって磁性体に転移することが理論的に予言されており、電界による磁性体転移とラッシュバ効果を組み合わせると磁性体を用いることなくGaSeのみで全GaSeスピントランジスタを構成することが可能となることが期待されます。


図1 作製したGaSe薄膜トランジスタ構造。


図2 磁気量子伝導度のゲート電圧依存性。黒い実線は弱反局在理論との比較。


図3 全GaSeスピントランジスタの概念図。強磁性体電極を用いることなくGaSeのみで電界効果スピントランジスタを構成できる。ゲート電極1,3は電界効果によりGaSeを強磁性にする。電極2はラッシュバ効果によりスピンの回転を電界制御する役割をはたす。
【論文情報】
Weak antilocalization induced by Rashba spin-orbit interaction in layered III-VI compound semiconductor GaSe thin films
Shoichi Takasuna, Junichi Shiogai, Shunichiro Matsuzaka, Makoto Kohda, Yutaka Oyama, and Junsaku Nitta
URL: https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevB.96.161303
DOI: 10.1103/PhysRevB.96.161303
【用語の解説】

※1「スピン軌道相互作用」
電子が電界中を運動することにより磁界を感じる相対論的効果。このため電界を用いたスピン生成・操作・検出が可能となる。ラッシュバ型 スピン軌道相互作用は半導体ヘテロ構造の電界に起因するためゲート電圧により変調可能であることが東北大学のチームによって確立されていた。

※2「弱反局在効果」
量子力学によると電子は粒子でありかつ波の性質をもつ。このため伝導体中で散乱を受けながら自己干渉し伝導に寄与しなくなる定在波状態(局在状態)を形成する。スピン軌道相互作用の強い系ではスピン緩和によりこの局在状態が破れた反局在状態となっている。この電子の反局在状態は磁場の印加により電子の位相が変化すると電気伝導度が変化するが、この磁気量子伝導度を解析することによりスピン軌道相互作用の強さを評価する事が出来る。

【お問い合わせ】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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