金属膜の磁力を電気的にオンオフし、透過光を制御することに成功

- ファラデー効果のオンオフを利用した電気的光制御 -

2017/11/16

発表者:
  • 日比野有岐 (東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 博士課程2年)
  • 小山 知弘 (東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 助教)
  • 鷲見  聡 (豊田工業大学大学院 極限材料専攻 研究員)
  • 粟野 博之 (豊田工業大学大学院 極限材料専攻 教授)
  • 三輪 一元 (電力中央研究所 材料科学研究所 特別契約研究員)
  • 小野 新平 (電力中央研究所 材料科学研究所 上席研究員)
  • 好田  誠 (東北大学大学院工学研究科 知能デバイス材料学専攻 准教授)
  • 千葉 大地 (東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 准教授)
発表のポイント:
  • ◆自然界では磁石であるコバルト(金属)を薄膜にし、その磁力を電気的にオンオフする技術を用いて、コバルト薄膜を透過する光の強度をスイッチすることに室温で成功しました。
  • ◆磁石を使った光の制御は、これまで磁界を用いた磁化の方向制御を用いて行われてきましたが、今回の成果は磁界ではなく電界を用いることでこれを実現することができました。
  • ◆コイルを用いて磁界を発生させることなく、すでに広く利用されている金属の磁石の膜を使った素子にもともと組み込まれた電極を用いて電圧を加える、というシンプルな構造で透過光を制御できるため、新たな光の制御方法として重要な役割を担うことが期待されます。
発表概要:

二枚の偏光板を重ねて一方を回転させると、透過光が明るくなったり暗くなったりします。光には偏光(注1)という性質があり、偏光板は特定の偏光面を持つ光しか通しません。そのため、一枚目の偏光板で偏光面が揃った光が二枚目の偏光板を透過するかどうかは、両偏光板の相対角度に依存します。一方で、偏光面の回転は光が透過する物質の磁気的性質とも深く関わっており、ファラデー効果として古くから知られています。同効果は光アイソレータ(注2)などに利用され、大きな電力を使って発生する磁界が主な制御手段とされてきました。

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の日比野有岐大学院生、同 千葉大地 准教授、豊田工業大学の粟野博之教授、電力中央研究所の小野新平上席研究員、東北大学の好田誠准教授などからなる研究チームは、自然界では磁石として存在するコバルト(金属)を薄膜にし、その磁力を電気的にオンオフする技術を用いて、ファラデー効果自体をオンオフすることに成功しました。つまり偏光面の回転そのものが、磁界ではなく電気的に制御できるわけです。これにより、偏光板との組み合わせで、光の透過強度を少ない電力で電気的に制御できるようになりました。

すでに広く利用されている金属の磁石の膜を使った素子にもともと組み込まれた電極を用いて電圧を加える、というシンプルな構造で透過光を制御できるため、光通信を支える光素子の性能向上や小型化・集積化・省エネ化という面で、今後重要な役割を果たすことが期待されます。

本成果は、2017年11月17日に、「アプライド・フィジックス・エクスプレス(Applied Physics Express)」のオンライン版に掲載されます。なお、本研究は科研費基盤研究(S)の助成を受けて実施されました。

発表内容:
[研究の背景]

ファラデー効果は、光が物質を透過するときにその偏光面が回転する現象として知られています。例えば、磁性体の膜に光を透過させたとき、光の偏光面の回転は磁性体の磁化の方向に依存します。そのため、磁界を使って磁化の方向を変えることで、偏光面の回転を制御することができます。このような手法は、光を一方向にのみ透過する光アイソレータに用いられてきました。一方で、ファラデー効果を電気的に制御する手法はこれまでほとんど報告がなく、研究チームは磁性の電界効果に注目して研究を進めてきました。

[研究内容]

コンデンサでは、2枚の金属の膜状電極間に電圧を加えて、電荷を蓄積します。磁性の電界効果とは、コンデンサの片方の電極が磁性体となっているときに、その磁気的性質が電圧によって変化する現象です。磁性体表面に電界が加わり、それにより磁性が変化するため磁性の電界効果と呼ばれています。研究チームはこれまでに、自然界では磁石として存在するコバルトの薄膜を一方の電極としたコンデンサ構造を用いて、その磁力を電圧でオンオフすることに成功してきました。本研究では当該技術を用い、コバルトを透過する光の偏光面の回転(ファラデー回転角)を電圧で制御することに成功しました(図1)。電圧で磁力をオンオフできるということは、コバルトが磁石になったりならなかったりすることが制御できるということです。本研究により、ファラデー効果そのものを発現させたり、消失させたりすることが電気的にコントロールできるようになりました。

本研究では1ナノメートル以下の非常に薄いコバルト膜を用いているため、十分に光が透過します。また、膜を支える基板には透明なガラスを用いており、コバルトの下地金属や電極にも工夫を施しているために、素子を光が透過できるようになっています。

[社会的意義・今後の予定]

原理的には、用いた素子を二枚の偏光板に挟み電圧を加えると、光スイッチと呼ばれる光を透過させたり遮ったりすることができるようになります(図2)。また、コンデンサのような構造であるため、小型化が可能で素子の集積化にも向いているだけでなく、電荷の充放電に要する電力だけで光のスイッチが可能であるために省エネ化にも大きく貢献することが期待されます。

現段階では回転角の制御量が実用レベルよりかなり小さいという課題があります。これは、先ほど述べたように、コバルトを薄くしないと光が透過しないという根本的な問題があるからです(ファラデー回転角は一般的には磁性体の厚みに比例して大きくなります)。しかし、この問題を克服するいくつかの改善策も検討しており、今後それらの検証を行っていく予定です。

発表雑誌:
雑誌名:「Applied Physics Express」(オンライン版2017年11月17日掲載)
論文タイトル:Electric-field-induced on/off switching of the Faraday effect
著者:日比野有岐、小山知弘、鷲見聡、粟野博之、三輪一元、小野新平、好田誠、*千葉大地
DOI番号:doi:10.7567/APEX.10.123201
アブストラクトURL:http://iopscience.iop.org/article/10.7567/APEX.10.123201
用語解説:

注1 偏光
互いに直交した交流電界と交流磁界が伝搬しているものが光(電磁波)である。交流電界の振動面がそろっている場合を偏光と呼び、その面を偏光面と呼ぶ。振動面が不規則になっている場合を自然光と呼ぶ。

注2 光アイソレータ
光を一方向だけに伝える光学素子。レーザーからの反射戻り光を阻止するなどの重要な役割を担っている。

添付資料:

図1 ファラデーシグナルのオンオフデモ
(a)電圧ON/OFF下でのコバルト薄膜のファラデー信号に現れる磁化曲線。(b)電圧によるファラデー信号ON/OFF動作の実証。電圧がOFFの時では常磁性状態(非磁性状態)のため、ゼロ磁場付近ではファラデー信号は0であるが、電圧ON下では、強磁性状態(磁石状態)となり、ゼロ磁場にて有限のファラデー効果信号が誘起される。



図2 光スイッチングの概念図
電気的制御を用いた光スイッチの概念図。二つの直交する偏光板の間にコンデンサ構造の素子を挟んでいる。電圧OFFでは、ファラデー効果が発現せず透過光は偏光板によって遮断されるが(上)、電圧をONにするとファラデー効果が発現し、偏光面が回転することで、光が透過できる(下)。
【お問合せ】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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