実用的な電子ホログラフィ立体表示の 液晶基盤技術を開発

- 5Gなどの通信・放送の高臨場感映像サービスに期待 -

2019/05/21

【発表のポイント】
  • 実用的な電子ホログラフィ立体表示には1ミクロンピッチの超高解像度化が必要
  • 画素を区切る微小な高分子隔壁を形成して独立駆動を可能にし、液晶領域を異方性化することで液晶分子の初期配列を均一化することに成功
  • 液晶の立体表示では成熟した製造技術が利用でき、幅広い用途が期待される
【概要】

東北大学大学院工学研究科電子工学専攻の藤掛英夫教授、博士課程後期3年の磯前慶友氏(日本学術振興会特別研究員)、石鍋隆宏准教授、柴田陽生助教の研究グループは、立体像のデスクトップ表示や拡張/仮想現実感技術に実用的な視域角30度のホログラフィ立体表示を実現するため、1ミクロンピッチの超高解像度画素において、液晶分子の並びを面内で均一化することに成功しました(画素の隔壁の作製協力:大日本印刷(株))。

液晶ディスプレイを用いて、視域角が広く実用的な電子ホログラフィ立体表示を実現するためには、1ミクロンピッチの微小画素の光変調素子が必要となりますが、隣接画素からの漏れ電界や液晶分子配列の連続性により画素の駆動が困難でした。そこで画素間に樹脂の隔壁を、型押し加工(光ナノインプリント法)により高精度に形成して独立駆動を可能にするとともに、微小な間仕切りを挿入して液晶領域を長方形にすることで、乱れやすい画素内の液晶配列を長軸方向に制御することに成功しました(図1)。液晶の均一な初期配列が実現されたことで、これまで困難とされてきた超高解像度の画素駆動が可能になります。

液晶を用いた電子ホログラフィは、自然で疲労が生じないデスクトップの裸眼立体表示や拡張/仮想現実感技術に有用で、5Gなどの通信・放送の高臨場感映像サービス、医療診断支援、工業製品設計、車載用ヘッドアップディスプレイ、アミューズメントなど幅広い応用展開が期待できます。

上記の成果は、2019年3月29日に米国情報ディスプレイ学会誌「The Journal of the Society for Information Display」のオンライン版Early Viewにおいて、BEST OF DISPLAY WEEK 2019の論文として掲載されました(DOI: 10.1002/jsid.773)。


図1 左図は1ミクロンピッチ微小画素を区切る高分子の隔壁(厚い壁)と、画素内を区切る間仕切り(薄い壁)の電子顕微鏡断面観察。隔壁と間仕切りで区切られた液晶領域は長方形となる。
右図は液晶が充填されて分子配列が均一化された光変調素子面の偏光顕微鏡写真。高分子の壁で挟まれた液晶の分子が一様な方向に配列しているため、異なる角度の直交偏光板間で明瞭な明暗のコントラストが得られている。
【詳細な説明】

液晶をはじめ現在のフラットパネルディスプレイでは、画質や画面サイズが一定のレベルに達しつつあります。高臨場感を目指した次世代映像メディアを創出する上で、2次元画像から立体表示への脱却は重要です。既存の両眼視差に基づく2眼式立体表示では、眼球の輻輳角と水晶体の焦点調節の不整合などにより違和感・疲労が生じることが多く、自然な立体表示が得られる空間像再生方式の電子ホログラフィが、究極の立体表示技術として待望されています。電子ホログラフィでは、光源からの光に位相変調を行うことで光波面を直接的に制御して、光を干渉・回折させることで3次元の光像を形成します。これにより、奥行きを含めて物体からの光が忠実に再現されて、眼球内に届けられます。

一方、高解像度化に有利な液晶ディスプレイは、透明電極付きガラス基板の間で液晶分子の配列を印加電圧で制御して、バックライト光を強度変調する方式です。現在、2次元ディスプレイとして高解像度化が著しく進展しており、プロジェクタ用途では3μmピッチ程度の画素まで開発されています。そこで、同研究グループは、実用的な電子ホログラフィを実現するため、液晶の超高解像度駆動の研究を先駆的に進めています。この場合、デスクトップ作業環境において両目で立体像を視認できるようにするとともに(例えば50cm離れて20cmの立体像表示)、物体を明瞭に知覚できる視覚の有効視野をカバーする視域角30度を確保する必要があります。30度の回折光(視域角)を得るためには、1μmピッチに画素を微小化するとともに、十分な光位相の変化幅(360度)を確保できる厚い液晶層を構成しなければなりません(現状のプロジェクタ用素子では180度の位相変調しか得られません)。また、厚い液晶層で狭ピッチ化した場合、画素間の電界漏れや液晶配列の弾性効果により、複数の隣接画素が一緒に駆動されてしまい、画素の独立駆動が困難になるという問題が生じます。なお、液晶を用いたホログラフィ表示には、光の振幅変調と位相変調の方式があり、前者は画素間の距離差で光の位相差を生み出すため光吸収による遮光が避けられず、また表示に貢献しない非回折光が発生します。それに対して、後者の位相変調方式では100%に近い回折光を生み出せるため、明るい表示が期待でき、理想的と言えます。

同研究グループは、超高解像度駆動の液晶素子構造を実現するため、漏れ電界や液晶弾性を遮断する低誘電率の隔壁を設けることを考案して、隔壁の素材と構造について研究を進めてきました。しかし画素を微細化すると、既存の液晶ディスプレイに使われて液晶配列を揃える樹脂膜(配向膜)を基板面に設けても、面積比率が大きく四方を取り囲む隔壁表面の影響で不安定化してランダムになり、素子面内で均一な位相変調ができなくなってしまいます。そこで今回、光硬化性樹脂の型押しに基づき高分子の微細加工を可能とする光ナノインプリント法を用いて、画素隔壁とともに画素内に微小な間仕切り構造を形成し(作製協力:大日本印刷(株))、液晶領域を正方形から長方形にすることで、液晶の分子配列を均一化することに成功しました。この場合、四方を囲む高分子壁の影響を逆手にとり、液晶封入形状を異方性化して、その長軸方向を配向膜の配列方向に揃えることで、画素内の初期配列を制御できることを明らかにしました。これにより、面内均一な液晶の初期配列と、印加電圧による配列制御が実現することになり、安定した超微細駆動が見込まれます。

液晶の超高解像度駆動により、自然で疲労が生じない理想的な空間像再生が可能になります。そのため本技術は、デスクトップでの立体画像表示(裸眼)はもとより拡張/仮想現実感技術にも役立ち、5Gを含め通信・放送による高臨場感映像サービス、医療診断の支援、建築物・工業製品の設計、車載用のヘッドアップディスプレイ、アミューズメントなど幅広い分野への応用が期待されます。また液晶を用いた場合、これまで蓄積されて成熟した製造技術を利用できるため、大画面化が容易で安価な立体表示システムを提供でき、新たな用途が次々と創出される可能性があります。

【お問合せ先】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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