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「大気圧プラズマ」を感知して医療効果を発揮する分子の同定 - プラズマ医療の発展が期待できる世界初の成果 -

2020/06/17

【発表のポイント】

  • 大気圧プラズマ注1を感知する分子の実体を世界で初めて明らかにした。
  • イオンチャネルタンパク質注2TRPA1とTRPV1は大気圧プラズマによって活性化され、細胞内カルシウム注3濃度上昇を誘導した。
  • プラズマを感知する分子の実体と、その制御の仕組みが明らかにされたことにより、プラズマ医療のさらなる発展が期待される。

【研究概要】

大気圧プラズマは創傷治癒・殺菌効果・止血効果・癌治療など様々な医療への応用が実施されつつありますが、その治療効果の仕組みについては未だ不明な点が多いままです。

東北大学大学院医工学研究科病態ナノシステム医工学分野の神﨑 展(かんざき まこと)准教授は、同・工学研究科プラズマ理工学分野との共同研究により、大気圧プラズマを感知する分子としてイオンチャネルタンパク質TRPA1とTRPV1を世界で初めて明らかにしました(図1)。これらの分子は、人工的に生成された大気圧プラズマによって活性化され、細胞内カルシウム濃度の上昇を引き起こしました。これらのチャネル分子を適切に制御することにより、これまで以上に効果的なプラズマ医療の実現に貢献することが期待されます。


図1 大気圧プラズマによって活性化されるイオンチャネルタンパク質TRPA1とTRPV1

研究成果は、2020年6月16日(火)午前10時(英国時間、日本時間16日(火)午後6時)にScientific Reports誌にオンライン版で公開されました。

【詳細な説明】

大気圧プラズマは、欧米諸国を中心に創傷治癒・殺菌効果・止血効果・癌治療などの医療への応用が実施されつつあり、大変注目を集めています。しかし、その治療効果がどのような仕組みによるものなのかについては未だ不明な点が多く、大気圧プラズマを感知する生体分子の実体はこれまで明らかにされていいませんでした。東北大学大学院医工学研究科病態ナノシステム医工学分野の神﨑展(かんざき まこと)准教授と、同・工学研究科プラズマ理工学分野の金子俊郎(かねこ としろう)教授と佐々木渉太(ささき しょうた)助教の研究グループは、大気圧プラズマ照射によって特定の細胞においてのみ細胞内のカルシウム濃度上昇が誘導されることを以前に発見していましたが、今回の研究において、この大気圧プラズマの標的となる生体分子の実体がTRPA1とTRPV1と呼ばれるイオンチャネルタンパク質であることを明らかにすることに成功しました(図1)。

TRPA1とTRPV1は、カルシウムイオンを透過させるイオンチャネルタンパク質で、温度刺激やさまざまな化学物質によってチャネル活性が複合的に調節されていることが知られていました。今回の発見から、これらのチャネル分子は大気圧プラズマという人工的な刺激を感知し、細胞内カルシウム濃度の上昇を引き起こすことを明らかにしました(図2)。このことは、TRPA1とTRPV1が細胞機能の制御、ひいてはプラズマ照射の医療効果にも直接的に関与している可能性を示しています。大気圧プラズマという人工的な刺激がどのような仕組みでこれらのチャネル分子を活性化しているのか明らかにするために、TRPA1とTRPV1のアミノ酸配列の特定の部分に変異を導入した改変型のTRPA1とTRPV1を作成し、それらの大気圧プラズマに対する応答性を解析したところ、チャネル分子の細胞内領域にある複数のシステイン残基が極めて重要な役割を果たしていることがわかりました(図3)。このことから、大気圧プラズマ照射によって生成される特殊な活性酸素種や活性窒素種が、複数のシステイン残基を複合的に化学修飾することによって、その活性化を引き起こすという新しい調節機構が関与していると考えられます。

結論:本研究によって、大気圧プラズマを感知する分子の実態が世界で初めて明らかになりました。大気圧プラズマ照射によって引き起こされる化学修飾は、これらのチャネルの生理的・薬理的な活性化因子の作用にも影響をおよぼして、チャネルの脱感作(一時的に不応性の状態になること)にも関与することが観察されています。大気圧プラズマを用いてチャネル分子の活性をうまく制御することが可能になれば、より効果的で戦略的なプラズマ医療への応用につながると期待されます。

支援:この研究は、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

【用語説明】

注1 大気圧プラズマ

プラズマは、固体、液体、気体に次ぐ第4の物質状態であり、原子・分子が電離して、正イオンと電子に分かれて運動している状態である。真空や高温といった特殊環境下においてプラズマを発生させる従来技術とは異なり、近年の技術革新によって、大気圧中でも低温のプラズマを発生させることが可能となった。

注2 イオンチャネルタンパク質

カルシウムなどのイオンを透過させる働きを持つ膜タンパク質で、その開閉によってイオンの透過性を制御している。チャネルの活性(開閉)は、さまざまな生体因子などによって厳密に制御されおり、イオンが関わるありとあらゆる生理現象に直結している。

注3 細胞内カルシウム

細胞機能を調節する極めて重要な役割を担っている。通常、細胞内カルシウムイオン濃度は非常に低く維持されているが、刺激によって一過性に上昇することにより、さまざまな細胞機能が活性化される。


図2 プラズマ反応性のある細胞(3T3L1)のTRPA1とTRPV1の発現量を減少させる(ノックダウン)と細胞内カルシウム上昇がほとんど消失する。

図3 大気圧プラズマによる調節メカニズムには複数のシステイン(Cys, C)残基が関与している。
アリルイソチオシアネート (AITC)およびカプサイシン(Capsaicin)は、それぞれTRPA1 およびTRPV1の活性化薬剤の一つ。

論文題目

Title: TRPA1 and TRPV1 channels participate in atmospheric-pressure plasma-induced [Ca2+]i response.
Authors: Masayoshi Kawase, Weijian Chen, Kota Kawaguchi, Mazvita R. Nyasha, Shota Sasaki, Hiroyasu Hatakeyama, Toshiro Kaneko, and Makoto Kanzaki

タイトル:TRPA1 and TRPV1チャネルは大気圧プラズマ誘導性の細胞内カルシウム反応に関わる。
著者: 川瀬将義、陳 偉見、川口航汰、Mazvita R. Nyasha,佐々木渉太、畠山裕康、金子俊郎、神﨑 展

雑誌名:Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-020-66510-y

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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