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過度なダイエットは寿命を縮めかねない - ヒト健康・寿命のモデル動物である線虫の摂食量と生存率の普遍法則を発見 -

2020/07/07

発表のポイント

  • ヒト健康・寿命のモデル動物である線虫(C. elegans)において、摂食量と生存率との関係について新たに普遍法則を発見した。
  • 運動の負荷にかかわらず、摂食量が減少することで生存率が低下(短命化)することが、力学的解析によって明らかとなった。
  • ヒトを含む生物におけるエネルギー摂取と健康・寿命の関係の理解に大きく貢献。

概要

線虫(C.elegans)は、健康・寿命のモデル動物として様々な研究に使われています。東北大学大学院工学研究科菊地謙次准教授、石川拓司教授らのグループは、線虫の摂食量と生存率との関係を力学的解析より世界で初めて明らかにしました。また、様々な粘性環境に生息(高運動負荷)している線虫であっても、摂食量と生存率には普遍性があることを発見しました。本研究は、生物のエネルギー摂取が過少(過度なカロリー制限)な条件における生存率の低下(短命化)の要因を、力学的観点から初めて明らかにした重要な報告です。本研究は、ヒトを含む生物におけるエネルギー摂取と健康・寿命の研究発展に貢献することが期待されます。

本研究成果は、2020年6月25日付で学術誌「Journal of Experimental Biology」にオンライン掲載されました。

研究の背景

健康・寿命のモデル動物注1である線虫(C. elegans注2を用いた、摂食量と寿命(摂食過多による寿命減少、摂食制限による寿命増加)との関係に関する分子生物学的・遺伝学的研究が進み、ヒトへの応用研究が近年盛んに進められています。しかしながら、摂食過少と寿命や生存率については、種の存続にとって重要であるにもかかわらずよくわかっていませんでした。線虫は、餌を摂食するのが困難となる高粘性環境(水中、果蜜、バイオフィルムなど)であっても、地球上に広く分布する動物です。特に、高粘性における生息環境では、運動負荷が高くなるのみならず、口部の吸い込みによる摂食行動も困難となり生命の危機に陥るほどの摂取カロリーの過少(飢餓)となることもあります。

線虫は、外部流体に分散するバクテリアなどの微粒子をろ過摂食する、いわゆるフィルターフィーダーです。緻密な口部構造と咽頭ポンプを用いて餌濃縮を行い、効率的に摂食を行うことがこれまでの研究により明らかになってきました(Suzuki, Kikuchi, Numayama-Tsuruta, Ishikawa, Theor. App. Mech Lett, 2019)。

研究内容

今回、東北大学大学院工学研究科ファインメカニクス専攻の鈴木雄貴博士後期課程学生、菊地謙次准教授、沼山恵子准教授(医工学研究科)、石川拓司教授のグループは、図1に示すような様々な粘性環境における大腸菌(餌)摂食量と生存率(粘性暴露3日後)を計測したところ、餌摂食量のみに依存的な、餌摂食量と生存率の普遍的関係(図2)を発見しました。本研究では、線虫を様々な粘性環境(水の粘性の1倍~105倍)に置き、高速微分干渉ライブイメージング法注3を用いた咽頭ポンプ運動計測、レーザー誘起蛍光法注4を用いた餌摂取量の定量計測を行い、線虫の摂食メカニズムと生存率との関係について力学的解析注5に基づいた調査を行いました。その結果、線虫の摂食量と生存率には普遍性があることを発見し、摂食量と生存率との関係を力学的解析により世界で初めて明らかにしました。

今後の展望

本研究によって健康・寿命のモデル動物である線虫(C. elegans)の摂食量と生存率の普遍法則が発見されたことで、今後、ヒトにおけるエネルギー摂取過少時における細胞生物学的エネルギー代謝の解明がさらに進むことが期待されます。今回の発見により、ヒトの過剰なカロリー制限によって健康や寿命への影響への理解が深まり、摂食と健康との医学・生理学・生物学的理解が一層進むことが期待されます。

付記

本研究は、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

用語解説

注1 モデル動物

生物の普遍的な基本原理や、人間を知るための非常に優れた実験系として利用されている生物のこと。

注2 線虫(C. elegans

生命科学研究において広く使われているモデル動物で、多細胞生物として初めて全ゲノム配列が解読された種。「究極のモデル生物」とも称されている。

注3 高速微分干渉ライブイメージング法

透明な生体試料を組織の偏光特性を利用してわずかな屈折率を強調し、高速度カメラと顕微鏡で可視化を行う観察技術。

注4 レーザー誘起蛍光法

レーザーによって励起された蛍光物質の蛍光輝度を検出することで、物質量の定量を行う計測手法。

注5 力学的解析

機械工学・材料力学・熱力学・流体力学(機械4力学)などの力学を基軸とし、運動や変形、流動や拡散などを物理的に理解し、解析を行うこと。


図1 ヒト健康・寿命のモデル動物である線虫(C. elegans)の摂食量の可視化計測
線虫体内の摂食物(黄緑色)の輝度を計測することで餌摂取量の計測を行いました。困難な状況(高粘性)では摂食量が減少することが明らかとなりました。

図2 線虫(C. elegans)における摂食量と生存率との関係
様々な粘性環境(運動負荷)においても、摂食量と生存率との関係には普遍的マスターカーブが存在することが、力学的解析により発見いたしました。摂食量が過少となることで生存のリスクが増大(低寿命化)することがわかる重要な研究結果です。

論文情報

タイトル: How do C. elegans worms survive in highly viscous habitats?
著者: Yuki Suzuki, Kenji Kikuchi, Keiko Numayama-Tsuruta, Takuji Ishikawa
掲載誌: Journal of Experimental Biology
DOI: 10.1242/jeb.224691

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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