宇宙空間を大出力で推進する無電極プラズマ推進機の推進性能更新に成功

2021/02/04

【本学研究者情報】
〇本学代表者所属・職・氏名:大学院工学研究科電気エネルギーシステム専攻・准教授・高橋 和貴
東北大学研究者紹介

発表のポイント

  • 磁気ノズルを用いた無電極プラズマ推進機の性能向上に成功し,推進効率が20%まで上昇した.
  • 電気推進機の大電力動作と長寿命化が期待される.

概要

磁気ノズルを用いた無電極プラズマ推進機は,宇宙空間における大電力推進機として期待される方式です.東北大学 大学院工学研究科 高橋和貴准教授は,無電極プラズマ推進機の推進効率を,約20%程度まで向上させることに成功しました.この方式では,無電極でプラズマを発生可能な高周波プラズマ源と磁気ノズルと呼ばれる発散磁場中で生じる自発的プラズマ加速を組み合わせてプラズマ流を噴射することで,推力を発生します.プラズマの生成から加速に至るまでプラズマに接触する電極がないため,電気推進機における最大の課題である電極の損傷を解決できる可能性を有しており,電気推進機の大電力動作と長寿命化が期待されます.今後,無電極プラズマ発生方式の大電力化や高効率化,磁気ノズル中のプラズマ現象の理解を進め,更なる推進性能向上を進める予定です.

本研究成果は、2021年2月2日にネイチャーパブリッシンググループの英国科学雑誌Scientific Reports(電子版)に掲載されました.


(左)無電極プラズマ推進機実験装置 (右)無電極プラズマ推進機の作動の様子

研究の背景

磁気ノズルを用いた無電極プラズマ推進機は,宇宙空間における大電力推進機として期待される方式の一つであり,高周波プラズマ源で電離した燃料ガスの磁気ノズル中での自発的加速を経て,高速で宇宙空間へと噴射することで推力を得る方式です (図1).この方式はヘリコン波放電による高密度プラズマ生成を利用するため,ヘリコンスラスタとも呼ばれており,近年その研究開発が多くの研究機関で実施されております.従来の推進機ではプラズマ生成・加速に用いる電極の損傷が問題となりますが,当該方式ではプラズマと接触する金属電極がなく,大電力作動においても推進機の長寿命化が期待されています.この方式の初の推力計測は,今回の開発者である高橋准教授 (当時岩手大学・オーストラリア国立大学所属)と,オーストラリア国立大学Charles教授,Boswell教授らのグループ によって実施され[1],磁気ノズルによる推力発生の実証[2],外部磁場の効果[3],推力損失機構[4],磁力線伸長現象[5]などに関して詳細を調べ,多くの物理現象を明らかにしてきました[6].研究開始当初の推進効率は1%以下でしたが,物理研究に基づいた性能改善により最高推進効率を10%程度まで向上させてきました[7].推進機の実用化に向けて更なる効率改善が大きな課題となっています.


図1 5kW級無電極プラズマ推進機の作動の様子

成果

高橋准教授らによるこれまでの実験とモデリングを組み合わせた基礎物理研究において,プラズマ発生部の大口径化や,原料ガスであるアルゴンの導入位置によって推進性能が変化することが示されてきました.今回,高橋准教授は,直径10cm級のプラズマ発生部を開発し,更にアルゴンガスを推進機の出口近傍から供給することで,当該方式の推進効率としては,自身の有する世界最高推進効率であった約10%を上回る20%を達成することに成功しました(図2).高橋准教授らによる初の推力計測においては推進効率が0.5%程度であったことから,着実に推進性能が向上しています.


図2 今回の推進性能評価結果.(a)推力計測結果,(b)推進効率評価結果.

今後,主要な電気推進方式であるイオンエンジンやホールスラスタと同等の推進効率を無電極で達成できるように,更に研究開発を進める予定です.

本研究成果は,2021年2月2日に,Scientific Report誌 (Nature Publishing Group)のオンライン版に掲載されました.

論文情報

タイトル: Magnetic nozzle radiofrequency plasma thruster approaching twenty percent thruster efficiency
著者: Kazunori Takahashi
掲載誌: Scientific Reports, 11, 2768 (2021)
DOI: 10.1038/s41598-021-82471-2
URL: http://www.nature.com/articles/s41598-021-82471-2

参考文献

[1] K Takahashi, T Lafleur, C Charles, P Alexander, RW Boswell, M Perren, R Laine, S Pottinger, V Lappas, T Harle, D Lamprou, ‘Direct thrust measurement of a permanent magnet helicon double layer thruster’, Applied Physics Letters, 98, 141503 (2011).

[2] K Takahashi, T Lafleur, C Charles, P Alexander, RW Boswell, ‘Electron diamagnetic effect on axial force in an expanding plasma: experiments and theory’, Physical Review Letters, 107, 235001 (2011).

[3] K Takahashi, C Charles, RW Boswell, ‘Approaching the theoretical limit of diamagnetic-induced momentum in a rapidly diverging magnetic nozzle’, Physical Review Letters, 110, 195003 (2013).

[4] K Takahashi, T Sugawara, A Ando, ‘Spatially-and vector-resolved momentum flux lost to a wall in a magnetic nozzle rf plasma thruster’, Scientific Reports, 10, 1061 (2020).

[5] K Takahashi and A Ando, ‘Laboratory observation of a plasma-flow-state transition from diverging to stretching a magnetic nozzle’, Physical Review Letters, 118, 225002 (2017).

[6] K Takahashi, ‘Helicon-type radiofrequency plasma thrusters and magnetic plasma nozzles’, Reviews of Modern Plasma Physics, 3, 3-1 – 3-61 (2019).

[7] K Takahashi,, A. Komuro, and A. Ando ‘Effect of source diameter on helicon plasma thruster performance and its high power operation’, Plasma Sources Science and Technology, 24, 055004 (2015).

お問合せ先

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