人工知能で酵素を自動設計
- 様々な機能性タンパク質開発の加速に期待 -
2021/12/02
発表のポイント
- タンパク質の機能設計を人工知能によって効率化する手法を開発
- 少数の実験データを人工知能に学習させることで、タンパク質の改変に対する機能変化を視覚化
- 本手法により酵素タンパク質の機能が5倍向上
概要
バイオ産業の研究開発では、酵素や抗体などの機能性タンパク質を改変し、その機能を向上したいというニーズが広く存在します。しかし、多数の変異体タンパク質を調製し、その中から目的の機能を有するタンパク質を実験によって探し出すという作業には、大きな費用と時間を要します。
東北大学大学院工学研究科の梅津 光央教授、産業技術総合研究所人工知能研究センターの齋藤 裕主任研究員、亀田 倫史主任研究員、理化学研究所革新知能統合研究センターの津田 宏治チームリーダーらの研究グループは、同グループの先行研究で開発した人工知能と実験を組み合わせる手法を酵素タンパク質の機能改変に適用し、目的とする機能性タンパク質を従来の方法よりも少ない実験で効率よく得ることに成功しました。この実験で得られたペプチド転移酵素は、触媒機能が5倍向上しました。
本手法は、酵素や抗体などの医療・食品・環境で役立つ様々な機能性タンパク質の開発を加速することが期待されます。
この研究成果は、2021年11月19日付(アメリカ時間)で「ACS Catalysis(オンライン版)」に掲載されました。また、本研究の一部は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」(管理法人:生研支援センター)によって実施されました。
研究背景
バイオ産業の研究開発では、酵素や抗体などの機能性タンパク質を改変し、その機能を向上したいというニーズが広く存在します。従来は、対象のタンパク質にランダムな変異を導入して多数の変異体タンパク質(ライブラリー)を調製し、その中から目的の機能を有するタンパク質を実験によって探し出すという方法が行われてきました。しかし、この方法は多数の変異体について実験を行う必要があるため、大きな費用と時間を必要とします。また、あり得る変異体の数が膨大であるため、ライブラリーの中に目的の機能を有するタンパク質が含まれていない可能性も少なくないという課題がありました。
本研究の成果
本研究グループは過去に、人工知能を用いることでタンパク質の機能改変を効率化できる手法の開発の可能性を示してきました。そして今回、その手法を用いて、少ない実験で効率よく酵素の活性を飛躍的に向上させることに成功しました(図1)。この手法では、まず従来のランダムな変異導入によって少数の変異体を調製して実験を行い、人工知能のための教師データ(機械学習を正常に機能させるために必要なデータ)を取得します。次に、人工知能技術の一つであるベイズ最適化によって、どのような変異を導入すれば目的の機能を有するタンパク質が得られるか予測を行います。これにより、目的の機能を有するタンパク質を豊富に含み、なおかつ安価に実験を行える小規模な変異体群を提案することが可能になります。
本研究では、80種程度の変異体だけの実験結果から得られた教師データだけでペプチド連結酵素Sortaseの触媒活性を5倍向上させることに成功しました(図2)。さらに、その教師データの要素を少し変化させることで、変異によっておこる機能変化の全体像を視覚化した地図を描くことができることも分かりました(図3)。この結果は人工知能がタンパク質の機能改変に有効であることを示しており、今後、様々な機能性タンパク質の開発において本手法の応用が期待されます。
論文情報
著者: Yutaka Saito, Misaki Oikawa, Takumi Sato, Hikaru Nakazawa, Tomoyuki Ito, Tomoshi Kameda, Koji Tsuda, and Mitsuo Umetsu
掲載誌: ACS Synthetic Catalysis
DOI: 10.1021/acscatal.1c03753K
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscatal.1c03753