超音速ジェット噴流の流れを従来の50倍の速さで可視化できる技術を開発
- 騒音公害や構造物破壊の抑制に期待 -
2022/07/04
発表のポイント
概要
超高速な物理現象を、高精細かつ連続的に撮影できる高速度カメラは、物理を解き明かすための強力なデバイスの1つです。しかし、最新鋭の高速度カメラをもってしても撮影速度が十分とは言い難く、さらなる高速化が望まれます。
この度、東北大学大学院工学研究科の野々村拓准教授らの研究グループは、画像計測と音響計測の2つの異なる同時計測データに対して、圧縮センシングと呼ばれる少ない観測データから元の情報を復元する信号処理を適用することで、撮影速度の向上と計測空間の大幅な拡張を実現できる時空間超解像計測技術を開発しました。
当技術は、時間解像度は高いが空間解像度が低いマイクロフォン(点センサ)と、空間解像度は高いが時間解像度が低い高速度カメラの撮影画像を、低次元モデルで融合し、時間と空間の解像度を両立した画像を再構成するものです(図1)。これを超音速ジェット噴流の速度場計測と音響計測に適用し、これまで計測が難しかった速度場の変動を連続的な画像として50倍の撮影速度で再構成することに成功しました(参考動画)。
この技術には汎用性があり、種々の可視化手法と点センサを組み合わせることで、流体力学に限らず様々な分野の超高速・複雑現象の理解を飛躍的に発展させることが期待できます。本研究成果は、2022年6月28日に科学誌「Journal of Visualization」のオンライン版で公開されました。
詳細な説明
航空機やロケットのエンジン排気流は、超音速ジェット噴流と呼ばれ、音速を超える流れから強い騒音が発生する超高速かつ複雑な流動現象です。強い騒音を伴うことから、振動による構造物破壊や騒音公害の原因となるため、その発生メカニズムの解明が望まれています。超高速な物理現象を、高精細かつ連続的に撮影できる高速度カメラは、物理を解き明かすための強力なデバイスの1つです。しかし、最新鋭の高速度カメラをもってしても、超音速ジェット噴流の流動現象を十分な撮影速度で撮影することは難しいのが現状です。
東北大学大学院工学研究科の野々村拓准教授と小澤雄太特任助教らの研究グループは,画像計測と音響計測の2つの異なる同時計測データに対して、圧縮センシングと呼ばれる少ない観測データから元の情報を復元する信号処理を適用することで、撮影速度の向上と計測空間の大幅な拡張を実現できる時空間超解像計測技術を開発しました。画像計測は空間的な分布を撮影できる一方で、その撮影速度は前述のように十分ではありません。対照的に、音響計測で使用するマイクロフォン(点センサ)は、空間上の1点のみの計測に限られますが、その計測速度は画像計測の数十倍以上です。双方の計測手法を組み合わせる当技術は、時間解像度は高いが空間解像度が低い点センサと、空間解像度は高いが時間解像度が低い高速度カメラの撮影画像を、低次元モデルで融合し、時間と空間の解像度を両立した画像を再構成するものです。
図2に本技術の処理概要を示します。粒子画像速度計測法による速度場の可視化画像を4kHz(250μs間隔)で撮影し、マイクロフォンによる音響データを200kHz(5μs間隔)で計測しました。この同時計測データに低次元化を施し、両者の関係を少数のデータで表現できる、スパースな(疎らな)線形回帰モデルを構築することで、オリジナルの50倍となる200 kHzの撮影速度で速度場を再構成することに成功しました。本結果は一例であり、高速度カメラと点センサの計測速度比に依存して、さらなる撮影速度向上も可能です。図3,4は実際に計測された速度場と再構成された速度場を比較しており、時空間超解像計測結果では渦構造が滑らかに下流へ移動することが確認できます(図4内点線。参考動画)。
この技術には汎用性があり、種々の可視化手法と点センサを組み合わせることで、流体力学に限らず様々な分野の超高速・複雑現象の理解を飛躍的に発展させることが期待できます。
本研究は、科学研究費補助金(課題番号:JP18H03809,JP19KK0361,JP20H00278)と、島津科学技術振興財団の研究助成金の支援を受けて実施しましたました。
用語説明
(注1)圧縮センシング
少ない観測データから欠損した情報を補い、元の信号を復元する技術。医療分野のMRI画像が最たる例であり、画像データが持つ”画像らしさ”を数理的に表現することで欠損した情報を補い、撮影の高速化と高解像度化を実現している。本研究では流体(空気や水)のもつ”流体らしさ”を利用して、速度場の欠損した情報を再構成している。
(注2)速度場
空間上の各点における流体(空気や水)の速度を表現したもの。ジェット噴流や渦などは局所的に異なる速度と方向を持ち、これを観測することで流れの運動を示すことができる。本来、速度場は3次元空間上の3方向成分として表現されるが、今回は観測上の都合から、2次元平面上の2成分のみの分布を速度場と呼ぶ。
論文情報
著者: Y. Ozawa, T. Nagata, and T. Nonomura (筆頭著者: 小澤雄太(東北大学大学院工学研究科特任助教))
掲載誌: Journal of Visualization (2022)
DOI: 10.1007/s12650-022-00855-6
URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s12650-022-00855-6