常温で異種デバイスを積層する新技術を開発

- 微小なLEDなどを3D-ICの上に一括接合が可能に -

2023/02/09

【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科機械機能創成専攻 准教授 福島 誉史
研究室ウェブページ

発表のポイント

  • 新世代半導体三次元積層型集積回路(3D-IC注1)のラピッドプロトタイピング注2に貢献する試作に成功
  • 異種デバイスとの三次元集積を可能にする新しい常温金属接合技術を開発
  • 新世代ディスプレイで注目されるマイクロLED注3の新しい集積化方法論を提案

概要

半導体チップ面積を広げたり、素子や配線幅を微細化しなくても集積度を高められる三次元積層型集積回路(3D-IC)の研究開発競争が世界中で激化しています。普及を進めるためには化学組成や熱膨張率の異なる薄膜層、異なるデバイスをいかに熱変形無しで積層するかが課題になっています。

東北大学大学院工学研究科の福島誉史准教授と田中徹教授らの研究グループは、3D-ICの作製技術ならびに異種デバイスとの三次元集積を容易にする新たな常温金属接合技術を開発しました。熱応力を負荷することなく、極めて薄い3D-ICチップ上に多数の微小なデバイスを集積できることを実証しました。種々のデバイスやセンサと高度に集積したモジュールの作製が可能となり、ウエアラブルデバイスやポスト5G注4社会に貢献することが期待できます。

本成果は、2023年1月19日に国際電気電子学会(IEEE)などが発行する電子デバイス専門誌IEEE Electron Device Lettersで公開され、表紙として採用されました。


図1 厚さ40µmほどの3D-IC上に積層されたマイクロLEDチップのアレイ

研究背景

3D-ICはTSV(Through-Silicon Via)と呼ばれるシリコン貫通配線を介して異種デバイスチップを高度に立体集積する技術として世界中から注目されており、最近では政府主導により研究開発が活性化しています。この技術は、米国電気電子学会(IEEE)が認めた東北大学発の革新的な技術であり、チップレットと呼ばれる新たなチップ設計技術と融合して、AIチップや高性能コンピューティングなどの応用に期待されています。現在世界一のスパコンである富岳でも採用されているチップ集積形態であり、半導体の高性能化には欠かせない技術です。今回この3D-IC上に新世代のディスプレイ素子として脚光を浴びているマイクロLEDチップを積層し、常温で接合して集積化する技術を開発しました。このマイクロLEDアレイ積層3D-ICは、血管可視化シート注5(Smart Skin Display、図2)を試作する過程で考案されました。マイクロLEDは、150℃以上の高温ではんだ系の電極を使って実装する方法が標準ですが、熱ひずみによる位置ずれや熱応力による機械的な損傷など多くの課題を抱えており、実用化の足枷になっています。

研究成果

今回、フォトダイオード注6やLEDドライバーなどの回路が設計された二次元の集積回路チップ(台湾TSMCのアカデミア向けのチップ試作サービスを利用)を研削と化学機械研磨(CMP)により厚さ40µmまで薄くし、直径8µm、深さ30µmのSi(シリコン)微細孔に銅を充填した円筒形の垂直配線Cu-TSVをチップ内に形成して3D-ICを試作しました。一般的に、集積回路は直径300mm、厚さ0.8mmほどの単結晶シリコンウエハの状態で製造されますが、それには膨大な時間と多大なコストがかかります。一方、本技術は、すでに完成された二次元の集積回路をチップレベルで3D-ICに変貌させることができ(図3)、短期間かつ低コストで3D-IC試作品の機能検証や評価・解析が行えるラピッドプロトタイピングとして有用です。さらに、新世代のディスプレイ素子として期待される一辺0.1mm以下の多数のマイクロLEDを上記薄化チップの上に常温処理にてダメージレスで積層できる技術を開発できたことは注目すべき点です。3D-IC上にパターニングした感光性樹脂の上にマイクロLEDを圧接して仮接着し、常温の電解めっきでCu(銅)を成長させてマイクロLED上のAu(金)電極との接合に成功しました(図4)。なお、この接合の歩留りを上げるための種々の技術開発を行い、歩留り100%を達成できる見込みも示しています。図1に示すように、3D-IC上に0.1mm角のマイクロLEDチップがピッチ0.3mmで高密度に積層されて発光している様子は圧巻であり、今後の異種デバイス集積に資する技術となります。


図2 血管可視化シート「Smart Skin Display」の構造
ミニLED注7から照射された光をヘモグロビンで吸収・反射し、3D-ICのPD(フォトダイオード)で検出して血量の多い部分では明るく表示するようにマイクロLEDを駆動する。マイクロLEDが3D-ICに積層された構造が特長。

図3 チップレベルのTSV形成と3D-IC作製工程

図4 マイクロLEDチップの三次元積層・めっき接合工程

付記

本研究は、科学研究費補助金基盤A(JP21H04545)、立石科学技術振興財団 研究助成(C) (JP2217006)、およびJST 次世代研究者挑戦的研究プログラム (JPMJSP2144)の支援のもとで行われました。

論文情報

タイトル: Room-Temperature Direct Cu Semi Additive Plating (SAP) Bonding for Chip on Wafer 3D Heterogenous Integration with µLED
著者: Yuki Susumago, Chang Liu, Tadaaki Hoshi, Jiayi Shen, Atsushi Shinoda, Hisashi Kino, Tetsu Tanaka, and Takafumi Fukushima
掲載誌: IEEE Electron Devices Letters (2023) 3月号掲載予定
(この論文は、数少ない "Editors' Picks "論文の一つに選出された)
表紙 に採用(File size:11Mbyte)
DOI: 10.1109/LED.2023.3237834

用語説明

(注1)3D-IC

従来の二次元的に平面に形成された集積回路では、チップ面積が大きくなり、配線長が増大する問題に対し、チップを三次元的に縦に積層して電気的に接続した集積回路。半導体の母材である単結晶Siを貫通するTSVと呼ばれる垂直配線がこのチップを実現する基幹構成要素として重要な役割を担っている。

(注2)ラピッドプロトタイピング

製品の開発サイクルを短縮するための効果的な試作品製作手法の一つである。ここでは、大口径のウエハを使用して大規模な半導体量産工場、いわゆるメガファブ(mega fab)でないと難しい3D-IC試作品の作製をチップ1個単位の小規模で行って、低コストかつ短期間で概念実証や機能検証を実現し、開発を促進すること。

(注3)マイクロLED

一辺0.1mm以下の極微小なLEDチップ。液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイに次ぐ第三のディスプレイの発光素子として期待されている。非常に小さいため、アセンブリや電気的な接続方法が課題となっている。

(注4)ポスト5G

現在各国で商用サービスが始まっている第5世代移動通信システム(5G)の次の世代を指し、さらに超低遅延や多数同時接続といった機能が強化された5Gのこと。今後、スマート工場や自動運転といった多様な産業用途への活用が見込まれており、我が国の競争力の核となり得る技術である。

(注5)血管可視化シート

主にミニLED、マイクロLED、3D-ICのチップレットから構成される高集積フレキシブルデバイスです。肌に装着するこのシートでは、ミニLEDを光源として用い、3D-ICにはフォトダイオードとLEDドライバーなどが集積されており、表示用のマイクロLEDは3D-IC上に積層されています。血管に向かって赤色光等を照射し、ヘモグロビンで吸収、反射された光を3D-IC上のフォトダイオードで光電変換し、血量の多い場所では3D-IC上に積層されたマイクロLEDが明るく発光するように駆動する血管可視化デバイスである。

(注6)フォトダイオード

光を照射すると微小な電流が一定方向に流れる受光素子のことである。半導体の接合箇所に光を照射すると光電効果が起こり、電子が励起されて電流が流れる性質を利用して、照射された光のレベルを検出することができる。

(注7)ミニLED

一辺0.1~1mm程度の微小なLEDチップ。昨年、Apple社のiPad Pro 12のバックライトにミニLEDを搭載した液晶ディスプレイが採用され、コントラストの向上に貢献している。

関連動画


[1] 未来の産業を担う三次元積層半導体(3D-IC)の現況と今後の展開
―東北大学3D-IC研究開発拠点「GINTI」の活動成果より―

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学 大学院工学研究科機械機能創成専攻 准教授 福島 誉史, 教授 田中 徹
TEL:022-795-6978, 022-795-6909
E-mail:takafumi.fukushima.b6@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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