高機能反射板による電波伝搬環境の改善効果を容易に予測できる技術を開発

- 次世代無線通信技術Beyond 5Gの実現加速に期待 -

2024/07/10

【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科通信工学専攻 准教授 今野 佳祐
研究室ウェブページ

発表のポイント

  • 次世代の無線通信では、電波の伝搬方向を自在に制御できる高機能の反射板であるRIS(注1)を用いた電波伝搬環境の制御技術が重要です。
  • モーメント法(注2)の行列方程式をブロックに分解して逐次的に解くことで、高機能反射板を用いた電波伝搬環境下における無線通信システムの性能を行列積の形で解析的に表現することに成功しました。
  • 本成果により、アンテナや反射板の構造および周波数等が分かれば、複雑な実験や数値シミュレーションに頼ることなく、高機能反射板による電波伝搬環境の改善効果が予測できるようになりました。

概要

近年、電波の伝搬方向を自在に制御する高機能反射板の研究が盛んに行われています。このような高機能反射板は、いわゆるBeyond 5G(注3)と呼ばれるような次世代無線通信技術の実現において重要な技術と位置付けられていますが、その効果を明らかにするには、時間のかかる数値シミュレーションか、高コストの実験を行う他ありませんでした。

今回、東北大学大学院工学研究科通信工学専攻の今野佳祐准教授らは、英国サリー大学のガブリエル グラドニ教授、およびノッティンガム大学と共同研究を行い、高機能反射板を用いた電波伝搬環境下における無線通信システムの性能を、モーメント法のインピーダンス行列(注4)の積の形で解析的に表現する手法を開発することに成功しました。

この手法により、高機能反射板による電波伝搬環境の改善効果が複雑な実験や数値シミュレーションに頼ることなく予測できるようになり、次世代無線通信技術の実現を加速させることが期待されます。

本研究は、総務省の電波資源拡大のための研究開発(JPJ000254)の一環として実施され、2024年6月27日に論文誌IEEE Transactions on Antennas and Propagationに掲載されました。

研究の背景

近年、電波の伝搬方向を自在に制御するRIS(Reconfigurable Intelligent Surface)と呼ばれる高機能反射板の研究が盛んに行われています(図1)。RISを用いると、障害物の背面などにも電波を向けることが可能で、電波の届かないエリアをなくすことができます。特に、高周波帯の電磁波は障害物の背面に回り込みづらいことが知られており、いわゆるBeyond 5Gのような高周波帯の電磁波を用いた無線通信システムにおいて、電波の届かないエリアをなくすためのRISの研究が進んでいます。RISは到来する電磁波を反射するというシンプルな仕組みであるため、基地局(注5)を設置するよりも安価に実現できる方法です。

様々なメリットがあるRISですが、RISによる電波の伝搬環境改善の効果を明らかにするには、複雑で時間のかかる数値シミュレーションや高コストの実験を行う必要があり、それが課題となっていました。

今回の取り組み

今回、東北大学大学院工学研究科通信工学専攻の今野佳祐准教授らは、英国サリー大学のガブリエル グラドニ教授、およびノッティンガム大学と共同研究を行い、高機能反射板を用いた電波伝搬環境下における無線通信システムの性能を解析的に表現する手法を開発することに成功しました。

今野准教授らは、任意の形状の送受信アンテナおよびRISからなる無線通信システムにおいて、それらの間の相互結合(注6)がモーメント法のインピーダンス行列の形で表現できることに着目しました。今野准教授らは、インピーダンス行列を送信アンテナ、受信アンテナ、RISに対応したブロック行列(注7)の形に分解し、それらに成り立つ行列方程式を逐次的に解くことで、無線通信システムの性能指標の1つであるチャネル容量(注8)の厳密な表現を解析的に導出しました。また、送受信アンテナとRISが十分に離れている環境下において成り立つ近似をその表現に適用し、チャネル容量の簡易な表現も導出しました。これらの表現を用いると、RISを用いた電波伝搬環境下における無線通信システムの性能を容易に求めることができます。本研究では、このような手法を用いてRISを用いた電波伝搬環境下における無線通信システムの性能を求め、その結果が従来の数値シミュレーションで得られた結果とほとんど完全に一致することを明らかにしました(図2)。

本手法により、複雑で時間のかかる数値シミュレーションや高コストの実験を行うことなく、RISによる電波伝搬環境の改善効果を明らかにすることができるようになりました。

今後の展開

本研究の成果により、いわゆるBeyond 5Gのような高周波帯の電磁波を用いた無線通信技術の実現のためのRISの評価が容易になり、その研究開発が加速すると考えられます。今後は人体や壁面などの様々な障害物がある実環境下におけるRISの評価技術を確立し、いつでもどこでも無線でつながる世界を実現すべく、サリー大学のガブリエル グラドニ教授らと引き続き共同研究を進める予定です。


図1 RISの一例(ダイオードのON/OFFのスイッチングでビーム方向が変化)

図2 チャネル容量のパラメータスタディ(Full-wave: 従来の数値シミュレーションで得られた結果で、本研究で得られた厳密な表現から求めた結果と完全に一致する。Proposed: 本研究で得られた近似表現から求めた結果。受信アンテナの位置rrを変えても、本研究で得られた表現から求めた結果と数値シミュレーション結果がほとんど完全に一致している。)

謝辞

本研究は、総務省の電波資源拡大のための研究開発(JPJ000254)の一環として実施されました。

用語説明

(注1)RIS

電磁波を反射させる素子(散乱体)を無数に配置した反射板。送信アンテナから到来した電磁波の位相を動的に変えて反射させ、狙った向きに電磁波を届けられる。RISはReconfigurable Intelligent Surfaceの略。

(注2)モーメント法

数値解析法の1つで、本研究ではRISの素子(散乱体)からの電磁波の電磁界解析に用いた。

(注3)Beyond 5G

現在の無線通信の主流である第5世代移動通信システム(5G)の機能がさらに高度化される6G以降の次世代移動通信システムの総称。2020年6月に総務省が「Beyond 5G推進戦略」を策定したことで、このキーワードは近い将来の移動通信システムとして広く認識されるようになった。5Gに対してBeyond 5Gでは超低消費電力、自律性、拡張性、超安全・信頼性といった機能が付加される。2030年頃から普及し始め、社会に変革をもたらすと期待されている。

(注4)インピーダンス行列

インピーダンスとはある端子における電圧と電流の比である。本研究では、電磁波によるアンテナとRISの素子(散乱体)間の相互結合を表現するためにインピーダンス行列を用いた。

(注5)基地局

携帯電話等の無線通信システムにおける、端末と無線通信をするための装置やアンテナ、設備等の総称。

(注6)相互結合

本研究では、送信アンテナから到来する電磁波がRISによって反射され、RISから受信アンテナへその結果どのような反射波が向かうか、といった送受信アンテナとRIS間の電磁波を介したつながりを指す。

(注7)ブロック行列

ある行列の一部を行列として抜き出したもの。

(注8)チャネル容量

ある通信路(=チャネル)において送ることのできる情報量。

論文情報

タイトル: Generalised Impedance Model of Wireless Links Assisted by Reconfigurable Intelligent Surfaces
著者: Keisuke Konno, Sergio Terranova, Qiang Chen, and Gabriele Gradoni
筆頭著者:東北大学大学院工学研究科通信工学専攻 准教授 今野 佳祐
掲載誌: IEEE Transactions on Antennas and Propagation
DOI: 10.1109/TAP.2024.3417629
URL: https://ieeexplore.ieee.org/document/10576064

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学 大学院工学研究科 通信工学専攻 准教授 今野 佳祐
TEL:022-795-7096
E-mail:keisuke.konno.b5@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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