固体中でも液体中にいるかのようによく動く分子を発見

- 新規固体材料の開発に期待 -

2024/08/07

発表のポイント

  • 本研究で開発した分子は固体中でも溶液中にいるかのようによく動く。
  • 光照射により固体状態で溶液状態に似た光反応性を発現。
  • エネルギーを機械的な動きに変換する材料や薬剤を放出する材料への応用に期待。

概要

北海道大学大学院地球環境科学研究院の野呂真一郎教授、東北大学多元物質科学研究所の芥川智行教授らの研究グループは、固体状態でも溶液中にいるかのような動きをする分子を開発しました。

分子、イオンは固体中ではその動きが制限されますが、溶液中に溶けると自由に動き回ることができます。そのため、固体中と溶液中では分子の性質が大きく異なります。近年、固体中でも分子が動く現象が見つかりつつありますが、溶液中に比べるとその動きはわずかなものでした。

本研究では、分子を適切に設計することにより固体状態でもよく動く分子を発見し、固体状態において溶液状態のような光反応性を示すことを見出しました。またこの分子は、固体中でよく動く性質に関連した興味深い特徴(結晶が飛び跳ねる、二酸化炭素を取り込む細孔を形成する)を示すことが分かりました。本成果は、分子からなる固体の新たな材料開発に大きく貢献することが期待できます。

なお、本研究成果は、2024年8月2日(金)公開のAngewandte Chemie International Edition誌に掲載されました。


一般的な分子からなる固体では、光照射によりある特定の生成物(例えば右の黒枠で囲んだ分子)が形成される。本研究で開発した分子では、固体中で光照射するといろいろな形の生成物(青枠で囲んだ分子)が形成される。このような反応性は溶液中で光照射したときの反応性に類似している。

研究の背景

分子、イオンは溶液中では自由自在に動き回れますが、固体中ではその動きが制限されます。特に、分子が規則正しく配列した結晶性の固体では、分子が密に配列することにより、その動きの抑制が顕著です。一方で、近年いくつかの結晶性固体で、分子が動くことによって面白い性質が現れることが明らかとなってきました。しかしながら、報告された結晶性固体中での分子の動きは溶液中と比べれば非常にわずかなものでした。もし、結晶性固体中における分子が溶液中にいるかのような大きな動きを示せば、これまでにないような面白い性質をもった固体が得られるかもしれません。

今回の取り組み

研究グループは過去の研究により、フッ素をたくさんもつ錯体(注1)分子が結晶性固体中で外部刺激に応じて比較的大きく動くことを見出してきました。この知見をもとに本研究では、結晶性固体中でより大きな動きを示す錯体分子の開発に取り組みました。trans-4-スチリルピリジンは、光照射によって様々な生成物を与える光反応性分子です(図1)。この分子は、溶液中では分子が自由に動き回れるため様々な立体構造をもつダイマーや折れ曲がったcis体を与えますが、固体中では動きが制限されるためある単一のダイマーのみが選択的に生成します(図2)。検討の結果、図3に示した光反応性配位子を有する錯体分子が結晶性固体中で溶液中にいるかのような光反応性を示すこと、観測された光反応性は結晶性固体中で錯体分子が大きく動いたことに由来することを見出しました。また、光照射により固体中で錯体分子が大きく動くことが原因で、結晶性固体がポップコーンのように飛び跳ねるフォトサリエント効果(動画)や、二酸化炭素ガスを取り込むことができる細孔の形成といった興味深い光刺激応答性が見られました。

今後の展開

今後、光照射により固体中でよく動く錯体分子を利用することで、溶液中でしか起こらなかった反応を環境に優しい無溶媒固体状態で実現できるグリーン合成プロセスや、光エネルギーを機械的な動きに変換することによるアクチュエーターや薬剤放出などへの応用が期待できます。


図1 本研究で用いた光反応性分子。この分子は、光照射により分子が二つ連結した様々な立体構造をもつダイマーや折れ曲がったcis体を与える。

図2 この分子は、(a)溶液中では自由に動き回れるため光照射により様々なダイマーやcis体を与えるが、(b)結晶性固体中では分子の動きが制限されるため単一のダイマーを与える。

図3 本研究では、光反応性配位子と結晶を柔らかくする部品(緑色の部位)を連結させた錯体分子に着目。この錯体分子は、結晶性固体中においても溶液中にいるかのような光反応性(様々な立体構造をもつダイマーや折れ曲がったcis体の生成)を示した。

謝辞

本研究は公益財団法人池谷科学技術振興財団、国立研究開発法人エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ムーンショット型研究事業「“ビヨンド・ゼロ”社会実現に向けたCO₂循環システムの研究開発(JPNP18016)」、科研費学術変革領域A「高密度共役の科学(JP20H05865)」、科学技術振興機構 戦略的創造研究事業「熱制御(JPMJCR18I4)」の支援のもとで実施されました。

用語説明

(注1)錯体

金属イオンに配位子と呼ばれる分子やイオンが結合したもの。顔料や発光材料などで実用化されている。

論文情報

タイトル: Solution State-Like Reactivity of a Flexible Crystalline Werner-type Metal Complex(柔軟な結晶性ウェルナー型金属錯体の溶液状態に類似した反応性)
著者: Yunya Zhang1、Xin Zheng2、斎藤結大2、武田貴志1, 3、星野哲久4、高橋仁徳5、中村貴義5, 6、 芥川智行1, 3、野呂真一郎21東北大学大学院工学研究科、2北海道大学大学院地球環境科学研究院、3東北大学多元物質科学研究所、4新潟大学工学部、5北海道大学電子科学研究所、6広島大学大学院先進理工系科学研究科)
掲載誌: Angewandte Chemie International Edition
DOI: 10.1002/anie.202407924

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学 多元物質科学研究所 教授 芥川 智行
TEL:022-217-5653
E-mail:akutagawa@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
E-mail:press.tagen@grp.tohoku.ac.jp
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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