ダイヤモンドをシリコンに固定した超精密微小機械応力センシングを開発

- 微小電気機械システムの高度化に新展開 -

2024/08/23

【工学研究科研究者情報】
〇大学院工学研究科機械機能創成専攻 准教授 戸田 雅也
研究室ウェブページ

発表のポイント

  • ダイヤモンド量子センサー(注1)を用いた微小機械応力センシングを開発しました。
  • ダイヤモンド結晶内の格子欠陥である窒素-空孔中心(Nitrogen-vacancy center、NVCまたはNVセンター)が発する蛍光の観察方法には一般的な光検出磁気共鳴(ODMR)法(注2)を用いました。そして機械振動をストロボスコープの原理(注3)を活用することで、特定の変位における圧縮や引張応力を観測しました。
  • 片持ち梁の上下振動だけでなく、ねじれ振動に対してもNVCに応力が加わり、ODMRスペクトルのピークシフトが得られることが確認されました。
  • この技術により、様々な形状に加工された単結晶ダイヤモンドを用いて、ダイヤモンド結晶内の量子状態と機械振動とを結合した新たな「量子×電気機械」デバイスの開発に応用することができます。

概要

ダイヤモンド結晶内で量子状態を保つことができるNVCは、高感度なダイヤモンド量子センサーとして応用されています。近年、単結晶ダイヤモンドの加工技術の進歩により、ダイヤモンドは微小電気機械システム(MEMS)(注4)の次世代センサーを担う有力な材料の1つとして再注目されています。

東北大学大学院工学研究科の戸田雅也准教授のグループは、ナノメートルサイズのダイヤモンド(ナノダイヤモンド)結晶をシリコン振動子上に固定し、ODMR法により振動子上の応力をモニタする技術を開発しました。ダイヤモンド結晶の結晶軸や静磁場の方向を調整することで、期待される表面応力に依存したODMRスペクトルのピークシフトが得られました。この成果により、将来、ダイヤモンド結晶内の量子状態と機械振動とを結合した「量子×電気機械」デバイスの開発につながると期待されます。

本研究成果は、2024年8月9日、学術誌Functional Diamondに掲載されました。

研究の背景

ダイヤモンドは、量子センサーとして応用されているとともに、量子状態を読み書きできる量子情報の担体として期待されている材料です。ダイヤモンドは蛍光特性を有し、磁場や温度、圧力などに敏感に反応し蛍光の強度が変化します。これはダイヤモンド結晶内のNVCによる現象で、この特性を生かした、高感度な磁場センサーや温度センサー、圧力センサーなどの素子への応用が期待されています。ダイヤモンドは硬くて安定な材料であるため、宇宙や地中など超過酷環境でも信頼性の高い性能を発揮できることが見込まれており、素子のみならず、検出器や高度計測システムなどの研究開発が盛んに進められています。

MEMSには、加工がしやすく安価で資源が豊富なシリコンがよく用いられています。一方、同じ結晶構造のダイヤモンドは硬さや温度係数などでシリコンに勝る機械特性があります。これまでは、両物質の熱膨張係数が異なるなどの理由で、シリコンとダイヤモンドの接合に課題があり、ダイヤモンドは微小機械の構造体としてはあまり注目されてきませんでした。また、ダイヤモンドには大面積化や加工が難しいという課題もありました。しかし近年、新しい技術の進展により課題が克服されつつあり、ダイヤモンドはMEMSの次世代センサーを担う有力な材料の1つとして再び注目されています。

今回の取り組み

東北大学大学院工学研究科の戸田雅也准教授のグループは、ナノダイヤモンド結晶をシリコン振動子上に固定し、シリコン製振動子の振動の振る舞いをダイヤモンドの光検出磁気共鳴(ODMR)で観測する技術を開発しました(図1左)。

この技術は、ダイヤモンド結晶内のNVCを用いた磁気共鳴センシングに基づくもので、磁気共鳴による量子状態の変化から微小機械による力(応力)として検出します。これまで、ダイヤモンド結晶をシリコンのような異種材料に貼り付けて応力を計測した事例はなく、今回、ナノダイヤモンドの微粒子をまばらにシリコン上に噴霧し、二酸化ケイ素(SiO2、シリカ)スパッタ層によってSi表面に固定された単一ナノダイヤモンドを有する片持ち梁型フォースプローブを開発しました(図1右)。


図1 (左)シリコン製カンチレバーの根元部にナノダイヤモンドを固定し蛍光強度計測する。(右)シリコン表面に分散して点在しているナノダイヤモンドの画像とデバイスの断面図。

また、微小機械の動的な振動に対して、ストロボスコープの原理を用いて振動変位を定めてダイヤモンドの蛍光強度を観測することで、NVCに加わる圧縮応力や引張応力が加わった状態を定常的に計測できるように工夫しました(図2)。そして、ナノダイヤモンドの結晶軸と静磁場を調整すること(図3)でODMRスペクトルのピークシフトとカンチレバーの振動による応力強度との相関を調べました。

その結果、ODMRスペクトルのピークシフトがシリコン製片持ち梁の振動による表面応力を効果的に検出できることがわかりました(図4)。また、シリコン製振動子のねじり振動でもピークシフトが観測され、多軸の軸方向の応力検出が可能であることが示されました。


図2 ストロボスコープの原理に基づいて、圧縮状態だけを計測する場合の励起レーザーとRF(Radio Frequency、ラジオ波)照射と光子検出器のゲートのタイミングを示したシーケンス。

図3 ダイヤモンド結晶軸とバイアス磁場の軸合わせをした場合のODMRスペクトル。縦軸PLが蛍光強度を示す。

図4 光検出磁気共鳴(ODMR)の2850Hz近傍のディップピークのシフトの様子。縦軸PLが蛍光強度を示す。

今後の展開

今後、加工されたダイヤモンド単結晶による機械振動を効率的に観測できるようになれば、ダイヤモンド結晶内の量子状態と機械振動とを結合し、繊細で敏感な量子状態の変化をより直接的にセンシングできるような新たな高効率スタンドアローン型「量子×電気機械」デバイスの開発につながると期待されます。

謝辞

本研究は、科学研究費補助金(JSPS KAKENHI Grant No.JP20H02212とNo.JP24K00828)による支援を受けて、東北大学大学院工学研究科附属マイクロ・ナノマシニング研究教育センター(注5)にて行われました。

用語説明

(注1)ダイヤモンド量子センサー

ダイヤモンド結晶内で磁場や電界、温度、圧力によるエネルギーレベルの変化によって蛍光を発するNVCを利用した超高感度センサーのこと。

(注2)光検出磁気共鳴(ODMR)法

結晶欠陥の電子スピン状態を光を用いて読み出すことができる方法。掃引周波数に対して、蛍光強度減少スペクトルが得られる。

(注3)ストロボスコープの原理

撮影周期を調整し、動いている物体の周期と一致したとき残像効果により、その物体が静止した状態に見えること。

(注4)微小電気機械システム(MEMS)

Micro Electro Mechanical Systemsの略。シリコン基板やガラス基板などに機械要素部品のセンサー、アクチュエーター、電子回路などを組み込んだミクロンレベルの構造を持つ電気で動く機械デバイス。

(注5)東北大学工学研究科附属マイクロ・ナノマシニング研究教育センター

1995年に発足したセンサー・マイクロマシン開発のための学内研究教育共用施設。
https://web.tohoku.ac.jp/mnc/

論文情報

タイトル: Multi-axis stress sensing of bending and torsion using nano-diamond NVC fixed on a Si cantilever
著者:Kanta Yamakawa, Yuta Ochiai, Takahito Ono, Masaya Toda*
*責任著者: 東北大学大学院工学研究科 准教授 戸田雅也
掲載誌: Functional Diamond
DOI: 10.1080/26941112.2024.2389801

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学大学院工学研究科 准教授 戸田 雅也
TEL:022-795-5810
E-mail:toda@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
ニュース

ニュース

ページの先頭へ