AIを用いた術後悪心・嘔吐の危険因子の解析
2024/08/28
発表のポイント
- 全身麻酔後の吐き気や嘔吐(PONV)は、最も頻度の高い術後合併症の1つです。全身麻酔を受けられる方の約3割に合併し、患者満足度の低下や医療費の増加につながります。
- 従来、PONVのリスク因子として、年齢、性別、非喫煙者、乗り物酔いの既往などが挙げられてきましたが、その予防は困難でした。
- 人工知能(AI)による解析で、既知のリスク因子に加えて、術中の出血量が多いほど、また輸液量が不十分な場合に、PONVのリスクが高まることを明らかにしました。
概要
術後悪心・嘔吐(PONV)は術後によく見られる合併症であり、その予防は困難です。
東北大学大学院歯学研究科歯科口腔麻酔学分野の星島宏准教授、水田健太郎教授、同大学院工学研究科通信工学専攻通信システム工学講座画像情報通信工学分野の宮崎智准教授、大町真一郎教授らの共同研究グループは、人工知能(AI)を用いてPONVのリスク因子を解析しました。
その結果、若年層や女性に多いとされる従来のリスク因子に加え、手術中の不十分な輸液や出血量の増加といった血行動態に影響する因子がPONVの発生により強く関連していることを明らかにしました。
本研究成果は、2024年8月15日に科学誌PLOS ONEに掲載されました。
研究の背景
術後悪心・嘔吐(PONV)は、最も頻度の高い術後合併症の一つであり、全身麻酔を受けた患者の約3割に影響を及ぼします。PONVは患者の満足度を低下させるだけでなく、その治療にかかるコストや、入院期間の延長による医療費の増大が問題となっています。PONVのリスク要因には、性別(女性)、年齢(若年層)、非喫煙者、乗り物酔いの既往などがあります。また、手術要因、麻酔要因などの複数のリスク要因が相互作用するため、PONVの予防は依然として困難です。
今回の取り組み
全身麻酔を受けた成人患者33,676名を対象に、性別、年齢、体重など患者固有の因子、手術時間、輸液量、出血量などの手術関連因子、麻酔時間、使用した麻酔薬などの麻酔関連因子を含む総計27種の因子を人工知能で解析しました。その結果、PONVには、出血量(2500mlまで)、性別(女性)、輸液量(1000ml以下)、年齢(20-50歳)の順で大きな影響があることが明らかになりました(図1)。
今後の展開
PONVの予防には、外科医や麻酔科医が術中の出血のコントロールや輸液量の適正化を行うことが有効です。またPONVのリスクが高いと予想される場合では、予防的な制吐薬の投与により、患者の快適性を向上させることが期待されます。
謝辞
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(JP22K10211およびJP21K19588)の助成を受けて行われました。
論文情報
著者:Hiroshi Hoshijima*, Tomo Miyazaki, Yuto Mitsui, Shinichiro Omachi, Masanori Yamauchi, Kentaro Mizuta
*責任著者: 東北大学大学院歯学研究科 歯科口腔麻酔学分野 准教授 星島 宏
掲載誌: PLOS ONE
DOI: 10.1371/journal.pone.0308755
お問合せ先
東北大学大学院歯学研究科 歯科口腔麻酔学分野 准教授 星島 宏
TEL:022-717-8420
E-mail:hiroshi.hoshijima.d1@tohoku.ac.jp