レンズ形状を変えずに焦点距離を変えるテラヘルツレンズ
- 三次元バルクメタマテリアルで実現、6Gなどへの応用に期待 -
2026/03/19
発表のポイント
概要
テラヘルツ波は次世代移動通信システム(6G)の候補周波数帯として注目されており、非破壊検査や医療診断などへの利用が期待されています。しかし、この周波数帯では利用できる光学材料が限られており、レンズなどの光学素子を設計する際の自由度が低いことが課題となっています。
東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻の金森義明教授らの研究グループは、シリコン微粒子を樹脂中に分散させた三次元バルクメタマテリアルを用いて、テラヘルツレンズを開発しました。
通常、レンズの焦点距離は形状によって決まりますが、本研究では材料設計によって屈折率を制御することで、レンズ形状を変えずに焦点距離を調整できることを実証しました。具体的には、シリコン粒子濃度を0〜25%の範囲で変えることで、焦点距離を約33mmから約24mmまで変えられることを確認しました。
本研究は、研究グループが進めてきた三次元バルクメタマテリアル研究(参考)を発展させ、光学素子としての応用可能性を実証した成果です。本研究成果は2026年3月13日に、科学誌Optics & Laser Technologyに掲載されました。
研究の背景
テラヘルツ波は電波と光の中間に位置する周波数帯(0.1〜10THz)の電磁波であり、多くの物質を透過する性質を持つことから、非破壊検査、医療診断、分光分析など幅広い分野での応用が期待されています。また、近年では0.1〜0.4THz帯が次世代通信(6G)の候補周波数帯として注目されています。
しかし、テラヘルツ領域では利用可能な光学材料の種類が少なく、屈折率の選択肢も限られているため、レンズやプリズムなどの光学素子を設計する際の自由度が低いという課題があります。
研究グループはこれまで、テラヘルツ波の屈折率を制御できる人工光学材料として、三次元バルクメタマテリアルの研究を進めてきました。本研究では、その技術を発展させ、実際の光学素子としてテラヘルツレンズを作製し、その性能を検証しました。
今回の取り組み
本研究では、レンズ形状を変えることなく焦点距離を制御できるテラヘルツレンズの実現を目指し、シリコン微粒子を透明樹脂(COP)中に分散させた材料を用いてレンズを作製しました。シリコンはテラヘルツ領域で高い透過率と大きな屈折率を持つ材料であり、これを微粒子として樹脂中に分散させることで、複合材料全体の屈折率を調整することができます。
図1に、本研究で用いた三次元バルクメタマテリアルによるテラヘルツレンズの概念図を示します。透明樹脂中に分散したシリコン微粒子によって材料の実効屈折率neffが決まり、テラヘルツ波を集光することができます。さらに、シリコン粒子の濃度を変えることで材料の屈折率を調整できるため、レンズ形状を変えることなく焦点距離を制御することが可能になります。
このレンズは、シリコン微粒子と透明樹脂粉末を所定の割合で混合し、その混合材料を金型に充填してCOPのみを加熱・溶融することでレンズを形成しました。材料を段階的に投入しながら加熱することで内部に気泡が生じることを防ぎ、シリコン微粒子が均一に分散した複合材料構造を実現しています。この方法により、シリコン粒子濃度に応じて屈折率が変化する三次元バルクメタマテリアルレンズを作製しました。
本研究では、同一形状のレンズを用いながら、シリコン粒子の体積濃度を変えることで材料の屈折率を制御しました。具体的には、粒子濃度を0%、5%、25%とした3種類のレンズを作製しました。図2に、実際に作製したテラヘルツレンズの外観を示します。シリコン粒子濃度の違いによって外観は異なりますが、いずれも同一形状のレンズとして成形されています。
作製したレンズについて、テラヘルツ周波数(0.10 THzおよび0.15 THz)で焦点距離を測定しました。その結果、シリコン粒子濃度が高くなるほど焦点距離が短くなることが確認されました。例えば0.10 THzでは、粒子濃度0%のレンズで約33 mm、5%で約31 mm、25%で約24 mmの焦点距離となりました。これらの結果から、レンズ形状を変えることなく材料設計によって焦点距離を制御できることが実験的に示されました。
本研究の結果は、材料の組成設計によってテラヘルツ光学素子の特性を調整できることを示しており、テラヘルツ領域における新しい光学材料および光学素子設計の可能性を示すものです。
今後の展開
今回開発した材料は、テラヘルツ領域において約1.5〜2.0程度の広い屈折率範囲を実現できる材料です。また、粒子濃度を調整するだけで屈折率を制御できるため、同じ製造プロセスを用いながら異なる光学特性を持つ材料を作製することが可能になります。
今後は、本研究で実証したテラヘルツレンズに加えて、テラヘルツ分光用プリズムや光学フィルムなど、さまざまなテラヘルツ光学素子への応用が期待されます。
さらに、テラヘルツ波は空港などでの危険物検査、医療診断、半導体検査などの分野での利用が期待されており、本研究成果はこれらのテラヘルツ応用技術の発展にも貢献すると考えられます。
研究グループは、本学大学院工学研究科に設置された国内初のメタマテリアルを専門とする研究センター「メタマテリアル研究革新拠点」(注4)において、本研究をさらに発展させ、メタマテリアル研究の推進とテラヘルツ技術の高度化を進めていきます。

図1. 三次元バルクメタマテリアルによるテラヘルツレンズの概念図
(a) シリコン微粒子を透明樹脂中に分散させた三次元バルクメタマテリアルによるテラヘルツレンズの概念図。(b) シリコン微粒子分散材料の有効媒質モデル。

図2. 作製したテラヘルツレンズ
(a) シリコン粒子濃度0%(透明樹脂のみで構成)で作製したテラヘルツレンズ。(b) シリコン粒子濃度5%で作製したテラヘルツレンズ。(c) シリコン粒子濃度25%で作製したテラヘルツレンズ。
謝辞
本研究の一部は、大学発新産業創出基金事業スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSF2312)の支援を受けたものです。
用語説明
(注1)メタマテリアル
制御対象とする電磁波の波長より小さな単位構造によって電磁波応答を設計した人工光学材料である。構造の形状や配置、材料の組み合わせを設計することで、自然界の物質では得られない電磁波特性(屈折率など)を実現できる。メタマテリアルには、金属微細構造の共振を利用するタイプのほか、本研究のように微粒子を三次元的に分散させた複合材料として構成される三次元バルクメタマテリアルがある。三次元バルクメタマテリアルでは材料の組成設計によって実効的な屈折率を制御できるため、設計に基づいた光学材料を人工的に実現することが可能である。
(注2)テラヘルツ波
光波(赤外線)と電波(ミリ波)の中間にあたる帯域の電磁波で波長は約30μm(周波数10THz)から約3mm(周波数0.1THz)。赤外線のように検査・分析に用いる他、波長約10mm(30GHz)から約10cm(周波数3GHz)のマイクロ波を用いる現在の通信(5G)に続く次世代通信(6G)用の電磁波として期待されている。
(注3)第6世代移動通信システム(6G)
現行の携帯電話で使われている 4G、5Gに続く無線通信システム。2030年代の商用化が見込まれている。通信速度は5G の10 倍以上の毎秒 100ギガビット級(ギガは10億)が想定されている。高解像度の3D映像を触覚情報などと合わせてリアルタイムで送受信できるようになる。医療分野では遠隔での治療や診察、教育分野では臨場感のあるリモート授業が実現する。
(注4)研究センター「メタマテリアル研究革新拠点」
2022年6月1日設置。拠点長は東北大学大学院工学研究科 教授 金森義明。
https://web.tohoku.ac.jp/kanamori/0meta-ric/index.html
参考
- 1. 2022年3月10日 東北大学プレスリリース
6G通信向け電波制御材料 安価に大量生産
- 世界初 部材として供給可能な三次元バルクメタマテリアルを開発 -
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/03/press20220310-01-6g.html - 2. 2024年7月22日 東北大学プレスリリース
屈折率特性が向上した6G通信向けメタマテリアルの開発
- 微細な二層リング共振器を等方的に分散 -
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/07/press20240722-01-6g.html
論文情報
著者:Shun Wakiuchi and Yoshiaki Kanamori*
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 教授 金森義明
掲載誌:Optics & Laser Technology
DOI: 10.1016/j.optlastec.2026.115096