磁力線の発散と伸長を引き起こすプラズマ状態の遷移条件を明らかに ~無電極宇宙プラズマ推進機の実現へ一歩前進~

2017/06/05

【概要】

無電極ヘリコンプラズマスラスタは,宇宙空間における次世代の推進エンジンとして期待されています。

東北大学大学院工学研究科電気エネルギーシステム専攻 高橋和貴准教授、安藤晃教授らは,無電極ヘリコンプラズマスラスタを実現する上で最も大きな課題とされている磁力線からのプラズマ離脱・放出をもたらす磁力線の発散と伸長を引き起こすプラズマ状態の遷移条件を,室内実験により明らかにしました。

【研究の背景】

無電極ヘリコンプラズマスラスタに関する研究成果では,推力の直接計測[1]や,磁気ノズルによる推力発生[2]が近年報告されています。このことにより,宇宙空間での推力となるプラズマの生成・加速が電極の寿命に左右されずに実現できることが示され、次世代の無電極宇宙プラズマ推進機として各国で精力的に研究開発が進められています。

プラズマを構成する荷電粒子は磁力線に巻き付いて運動する特徴を有しています。無電極ヘリコンプラズマスラスタでは,高周波放電によって生成された高密度プラズマを,外部からの磁場によってスラスタ出口まで輸送し,「磁気ノズル」と呼ばれるノズル形状をした磁力線磁気ノズル(図1中青線)に沿ってプラズマが加速され,運動量変換を経て宇宙空間へと高速噴射することで推力が得られます。これまでの研究で,外部磁場とは逆向きの磁場を形成するようにプラズマ中に電流が流れる際に,推力が増加することが明らかになっていました[3](図1中左下図)。一方,ソレノイドコイルまたは永久磁石によって作られる磁力線は必ず閉ループを形成するため[図2(a)中黒線],磁気ノズルを形成する磁力線は最終的に推進機本体へと戻ってくることになります。したがって宇宙空間で推力を発生するためには,磁力線が推進機本体へと戻ってくる前に磁力線からプラズマを離脱して宇宙空間へと放出する必要があります[図2(a)中矢印]。したがって,図1に青線で示した磁力線からプラズマをいかにして離脱させるかが,磁気ノズルを用いた推進機を実現する上での最大の課題とされています。

【詳細】

今回,図2(b)に示す実験装置の真空容器内に,最大5kW級の高密度・高周波プラズマスラスタを設置し,磁気ノズル中に高密度プラズマを形成したところ,磁気ノズルの上流域では外部磁場とは逆向きの,下流域では外部磁場と同じ向きの磁場が,プラズマによって形成されていることが観測されました(図1左上:プラズマ誘起磁場計測結果)。これはそれぞれ,磁力線を発散させるプラズマの状態(推力増加の効果)と磁力線を伸長させるプラズマの状態(プラズマ離脱を促す効果が期待)に相当しており,今回の実験でこの二つの状態の遷移条件が明らかになりました。今後研究を進め磁力線の伸長が顕著になれば,図1中青線で示した磁力線の構造が図1中赤線のように変形し,その結果外部から印加した磁力線(青線)からプラズマが離脱して自由空間へと放出されると期待されます。今回の実験で,磁力線発散を引き起こすプラズマの状態と,磁力線伸長を引き起こすプラズマの状態の間の遷移現象を観測し,その条件を明らかにしたことは,磁気ノズルからのプラズマ離脱・放出機構の解明と制御に向けて一歩前進したといえます。

また磁力線がプラズマによって伸長される現象は,地球周辺磁場,太陽磁場,宇宙ジェット等,地球磁気圏から天文に渡る宇宙空間の広範な領域で頻繁に観測されています。一方で実験室の低温プラズマ実験装置では,磁力線を発散する状態がこれまで観測されていました。今回,この遷移過程を捉えたことで宇宙空間と実験室環境との関連づけがより明らかとなったことから,宇宙プラズマの室内模擬実験等への展開も可能になることが期待されます。

本研究成果は,2017年6月7日(米国時間)に,Physical Review Letters (American Physical Society)のオンライン版に掲載されました。

【参考図】

図1:今回観測された,磁力線発散と伸長の遷移イメージ図(図中左上がプラズマ誘起磁場計測結果,青線が外部から印加した磁力線,赤線がプラズマによる伸長が顕著になった場合の磁力線イメージ)。

図2:(a) 磁力線構造の概略図.(b) 今回使用したヘリコンプラズマスラスタ実験装置 (Mega-HPT) と推進機動作の写真(図中右上)。
【参考文献】
  • [1] K. Takahashi, T. Lafluer, C. Charles, P. Alexander, R.W. Boswell, M. Perren, R. Laine, S. Pottinger, V. Lappas, T. Harle, and D. Lamprou,
    “Direct thrust measurement of a permanent magnet helicon double layer thruster”,
    Applied Physics Letters, 98, 141503 (2011).
  • [2] K. Takahashi, T. Lafleur, C. Charles, P. Alexander, R.W. Boswell,
    “Electron Diamgnetic Effect on Axial Force in an Exapnding Plasma: Experiments and Theory”,
    Physical Review Letters, 107, 235001 (2011).
  • [3] K. Takahashi, C. Charles, R.W. Boswell,
    “Approaching the Theoreitcal Limit of Diamagnetic-Induced Momentum in a Rapidly Diverging Magnetic Nozzle”,
    Physical Review Letters, 110, 195003 (2013).
【論文情報】
Kazunori Takahashi and Akira Ando
“Laboratory Observation of a Plasma-Flow-State Transition from Diverging to Stretching a Magnetic Nozzle”
Physical Review Letters, 118, 225002 (2017).
URL: https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.118.225002
【お問い合わせ】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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