東北大学工学研究科・工学部
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2006/04/07

金属フロンティア工学専攻の石田教授等の研究グループは新型Co基超耐熱合金を開発しました

JST(理事長:沖村憲樹)と国立大学法人東北大学は、現在ジェットエンジンやガスタービンに使用されているNi(ニッケル)基超耐熱合金よりも高温強度に優れる、新しいタイプのCo(コバルト)基超耐熱合金を開発しました。
JSTと東北大学の研究チームでは、合金の地図とも言える状態図(相図)(注1)を計算機シミュレーションで予測する研究を実施しております。その過程で本研究チームは、Co、Al(アルミニウム)、W(タングステン)からなる合金において、特別な原子配列の規則構造(注2)をとる新規金属間化合物を発見しました。この相はCo3(Al,W)で表されますが、この3つの元素の組み合わせで始めて出現する化合物です。
Ni基耐熱合金では、高温での強化相としてNi3Alで表される化合物が知られていますが、この相は、温度の上昇とともに強度も上昇するという特異な体質を有する化合物で一般にγ‘(ガンマプライム)相と呼ばれています。しかし従来のCo基合金においては、Ni3Alと同様に高温での強化に適した相は報告されておりませんでした。
本研究で発見したCo3(Al,W)は、Ni3Alと同じ規則構造をとり、この相を均一に分散させることによって(添付写真参照)、合金の硬さ・強度が著しく向上することが明らかになりました。また、高温になっても強度の低下が少なく、従来のNi基合金よりも高い高温強度が得られることが確認されました。このことから、この合金は航空機用ジェットエンジンや、産業用ガスタービン等の高温用途への応用が可能であり、熱機関のエネルギー高効率化や、CO2削減などの環境負荷の低減が期待されます。

本成果は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」研究領域(研究総括:土居範久(中央大学理工学部 教授))の研究テーマ「材料の組織・特性設計統合化システムの開発」の研究代表者・石田清仁(東北大学大学院工学研究科 教授)、及川勝成(同 助教授)、貝沼亮介(東北大学多元物質研究所 教授)らによって得られたもので、米国科学雑誌「Science」オンライン版に2006年4月7日(米国時間)に公開されます。


研究の背景:

現在、航空機エンジンや産業用ガスタービン等、高温にさらされる部材には耐熱性が要求されるため、主にNi基スーパーアロイと呼ばれる耐熱合金が使用されています。このNi基合金では、Ni3Alで表示されるようにNiとAlの原子比率が3対1の特別な原子配列の規則構造をとる化合物相が強化相として利用されています。この相は温度の上昇とともに強度も上昇するという特異な性質を有しており、一般にγ’(ガンマプライム)相と呼ばれています。タービンプレード等耐熱合金の主流となっているNi基合金は、このγ’相を分散させて、高温でも優れた強度特性が得られます。しかしCO2削減・省資源といった環境に対する配慮から、エネルギーを高効率に利用するために熱機関をより高温で運転することが望まれており、そのための新たな高温耐熱材料の研究開発が世界中で精力的に行われています。


今回の論文の概要:

本研究チームは、Co系合金で各種元素の組み合わせによってどのような相が出現するかをシミュレーションするための研究を行う過程で、Co-Al-W(コバルト、アルミニウム、タングステン)3元系においてNi3Alと同じ構造を有する新しい金属間化合物(γ‘)相を発見しました。このγ’相はCo3(Al,W)で表されますが、原子比率でCoが3の割合に対しAlとWの和が1の化合物です。過去に報告されたγ’相で強化されたCo基合金はせいぜい750℃以下でしか利用できませんでしたが、本合金を基本系としてTa(タンタル)やTi(チタン)などの合金元素を添加することにより、1000℃以上のより高温までγ’相が安定に存在することがわかりました。このγ’相を析出させた合金では、析出相の粒径が1μm以下の非常に微細な分散組織を形成しており(添付写真参照)、硬さおよび強度が著しく向上し、高温での強度の低下が少ないことが確認されました。これらの特性は、現用のNi基合金よりも高い高温強度を有する他に、融点が50〜100℃高いため、従来にない全く新しいCo基スーパーアロイの誕生といえます。また、周期表においてCoと同じ系列の元素であるIr(イリジウム)を主成分とするIr-Al-W3元系でも、Ni3Alと同じ規則構造を有するIr3(Al,W)のγ’相の存在を発見しました。このγ’相を分散させた合金は、Ni基スーパーアロイよりも、例えば1000℃で2倍以上の高温強度を有することや、Irの融点が約2447℃と非常に高いことから、1500℃以上の超高温で使用できる次世代の耐熱合金として期待できます。


今後期待できる成果:

本合金は、高温強度と組織安定性に優れるため、航空機用ジェットエンジン、ガスタービン部材、自動車用エンジン、化学プラントなどの高温用途への応用が期待できます。特に、現状のNi基スーパーアロイより高温で使用できれば、エネルギーの効率化やCO2の削減に直接寄与するので、本研究を契機に世界中で新しいCo基スーパーアロイの開発研究が一気に加速されることが予想されます。


【用語解説】


(注1)

状態図:温度、組成、圧力等の条件を与えたときに、どのような状態(気体、液体、固体、化合物)が安定なのかを示す図です。合金開発の地図とも言われ、新材料開発のための基礎資料として重要です。

(注2)

規則構造:合金の場合、原子配列がランダムになっているものを不規則構造、原子が交互に並ぶような規則的な配列をとるものを規則構造といいます。規則構造を有する相の中には、Ni基合金のγ’相のように、温度の上昇とともに強度も上昇するといった特異な性質を持つものが多くあります。




【論文名】

「Cobalt-Base High-Temperature Alloys」(コバルト基高温材料)


【研究領域】

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下のとおりです。
○「材料の組織・特性設計統合化システムの開発」
(研究代表者:石田 清仁 東北大学大学院工学研究科 教授)
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CRESTタイプ)
研究領域:「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」
(研究総括:研究総括:土居 範久(中央大学理工学部 教授))
研究期間:平成15年度〜平成20年度

Co-Al-W合金における微細組織。1μm以下の微細な析出物(γ’相)が均一に分散している。
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【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:eng-pr@eng.tohoku.ac.jp

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