東北大学工学研究科・工学部
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2006/08/03

バイオ工学専攻の正田晋一郎教授等の研究グループは配糖体合成に用いる有機溶媒・試薬を大幅に削減できる技術開発に成功しました。

 東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻の正田晋一郎教授らのグループは、配糖体の中でも特に診断薬や合成中間体としての需要の多いパラニトロフェノール配糖体を、光延(Mitsunobu)反応を用いて、わずか1工程で合成することに成功した。従来法で合成しようとすると、少なくとも4工程は必要である。本技術によれば、合成および分離精製時に用いる有機溶媒などの試薬を削減することができることから、大幅なコストダウンが見込まれる。本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)、事業化可能性試験補助金の助成を受けて行われたものであり、8月23日から仙台で開催される日本糖質学会において発表される。


【背景】

 多糖・オリゴ糖などの糖鎖は、ライフサイエンスの歴史的において、核酸、タンパク質に続く「第3の鎖」として、多方面で注目されている(図1参照)。近年、糖鎖工学の分野において、パラニトロフェノール配糖体は、酵素活性測定基質、診断薬、有用合成中間体として広く利用されており、工業化可能で、且つ、安価でより簡便な製造方法が強く求められていた。従来、パラニトロフェノール配糖体は、1)ヒドロキシ基を保護し、2)アノマー位炭素を臭素原子などで活性化した後、3)ニトロフェニル部分を導入し、4)最後に脱保護を行うという、4工程の反応を経て製造されてきた(図2参照)。しかし、この方法は、ヒドロキシ基の保護及び脱保護が必要であり、アノマー炭素原子の活性化に強酸が必要である。また、パラニトロフェノールの導入には銀塩などの重金属試薬を必要とし、煩雑な精製技術が必要であった。


【本技術の開発により解決しようとする課題】 

 本発明は、このような従来の問題点を解決するために、より高効率で、保護基の導入や除去を伴なうことなく、一気に無保護糖から効率よくパラニトロフェニル配糖体を製造する方法を提供するものである(図2参照)。


【課題を解決するための手段】

 脱水縮合剤として光延(Mitsunobu)試薬を用いることにより、無保護糖から目的とするパラニトロフェニル配糖体を一段階の反応で合成できること、また、精製過程も容易であることを見出した。光延反応は、アルコールをアゾカルボン酸エステルとトリフェニルホスフィンで活性化する反応であり、1967年に光延旺洋らによって見出され、現在世界中で広く使われている極めて有用な有機合成反応である。


【発明の効果】

パラニトロフェニル配糖体は、糖関連酵素に関わる疾病に対する診断薬、酵素の生化学テストに用いる基質、そして糖鎖合成における活性化糖ドナー等として、有用な化合物であり、糖鎖工学分野で広く利用されている。しかし、その合成は、従来、ヒドロキシ基の保護、活性化、グリコシル化、脱保護の4工程が必要であることから、それらの構造の単純さに比較して、非常に時間がかかるものであった。さらに、オリゴ糖の場合活性化ならびにグリコシル化反応時に、糖の間のグリコシド結合の開裂を伴うことから、効率のよいパラニトロフェニル化は困難とされてきた。今回開発した光延反応を用いる合成法は、ヒドロキシ基の保護の必要がなく、選択的に糖の一位のヒドロキシ基がグリコシル化される反応である。したがって、試薬の量だけでなく、時間も短縮が期待でき、環境負荷低減の観点からも波及効果は大きい。
 生産コストに関しては、パラニトロフェニル化配糖体は、単糖であれば1gあたり10,000円から100,000円くらいで試薬メーカーから購入できるが、オリゴ糖においては、10 mgで10,000円以上の試薬が多く、決して入手し易い状況ではない(図4参照)。本手法によると、合成に必要な試薬代はp-ニトロフェニルグルコシドを1 g製造するに当たり、原材料費は300円以下であり、分離精製にかかる溶媒を含めても1000円以下である。分離にはシリカゲルカラムクロマトグラフィーで、安価な溶媒である、酢酸エチルおよびメタノールの混合溶媒で容易に分離可能である。
 今後の問題点としては、アノマー(α体と β体)の分離があげられる。単糖のアノマーを分離することは、カラムクロマトグラフィーで容易に達成することができるが、分子量が大きいオリゴ糖に関しては困難が予想される。しかし、これまでにアノマー選択的に加水分解する酵素が数多く知られており、そしてそれらは安価に入手できることから、酵素反応によるアノマー分離を行うことにより、問題を解決できるものと考えている。


【成果発表】

2006年8月23日から、仙台国際センターで開催される日本糖質学会で発表を予定している。なお、本研究に関連した特許を出願している。特許出願2004-294570

ライフサイエンス領域における糖鎖工学の発展
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従来の合成法とMitsunobu反応を用いる合成法
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市販のパラニトロフェニル配糖体 ( )は従来法で合成した場合の1gあたりの価格
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問合せ先
東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻 生体分子化学講座 機能高分子化学分野
教授 正田晋一郎
〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-11-514
Tel: 022-795-7230, Fax: 022-795-7293

【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:eng-pr@eng.tohoku.ac.jp

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