東北大学工学研究科・工学部
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2006/11/24

2006年11月15日に千島列島沖で発生した津波の調査について

2006年11月15日20時15分ごろに千島列島沖で発生した地震津波について,本学工学研究科附属災害制御研究センター津波工学研究室では,広域の津波伝播シミュレーションと津波被害に係る現地調査を実施しました.
その結果について広く世間の皆様に認知していただき,津波防災対策への更なる関心を集めるため,資料を公開いたします.

詳細についてはhttp://www.tsunami.civil.tohoku.ac.jp を参照ください.


【千島列島沖での津波の発生概要】
 千島列島沖で15日20時15分頃に発生した地震により津波が発生した.この津波はロシアや我が国だけでなく,米国ハワイやカリフォルニア州においても観測された.気象庁は同日20時29分に津波警報と注意報を北海道太平洋沿岸・オホーツク海沿岸,本州太平洋沿岸に発令した.震源域が北海道本島から700km以上離れていたこともあり,地震による揺れは小さかったが,津波は我が国の太平洋沿岸各地で観測された.
 津波の初動としては,根室で21時29分に津波第一波が観測され,その後各地で観測された.16日午前1時半に注意報は解除となったが,東北地方の沿岸部などで観測された津波の高さが,津波注意報の解除後に最大になった.宮城県内では気仙沼市,石巻市などの漁港で16日朝,計5隻の船が津波による転覆が報告された.


【我が国への津波の伝播経路について】
 今回の津波が我が国に到達する経路には以下の3つが考えられる,
(1)津波波源(震源域)から直接到達する「直接波」
(2)大陸棚上を屈折・反射を繰り返しながら到達する「境界波」※
(3)太平洋上の大規模地形(海嶺や海山列)によって励起される「散乱波」
 津波は上記の順に到達することになり,特に大陸棚上を伝播する境界波は第一波から数時間遅れて到達する.1994年色丹島沖で発生した北海道東方沖地震津波,2003年十勝沖地震津波においても同様の津波が観測されている.2003年十勝沖地震津波時には北海道太平洋岸の釧路港で津波発生から約10時間後に第一波に匹敵する波高をもつ津波が来襲している.さらに,太平洋上の大規模地形(海嶺・海山列)からの散乱波は,その伝播距離が長くなるため,第一波来襲から長時間経過後に来襲する場合がある.今回の津波被害は,特に21日明け方に発生したとの報告がなされており,波源からの直接波ではなく,境界波および散乱波の来襲に起因するものである可能性が高い.


  • 河田惠昭, 奥村与志弘, 越村俊一, 藤間功司, 永井紀彦, エッジ波の発生を考慮した津波予警報の改良に関する研究, 土木学会海岸工学論文集, 第51巻, pp.261-265, 2004

  • 越村俊一, 今村文彦, 高橋智幸, 首藤伸夫, 境界波としての津波の挙動特性とその数値解析, 土木学会海岸工学論文集, 第43巻, pp.276-280, 1996




【宮城県気仙沼市で発生した漁船被害について】
 今回発生した津波は宮城県の沿岸地域にも来襲し,気仙沼市の只越漁港で3隻,石巻市の相川漁港で1隻,南三陸歌津の港漁港で1隻の漁船が転覆,もしくは沈没するなどの被害が発生した(日経新聞ニュース http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20061116STXKE020116112006.html).漁船被害とその時の漁船利用者の対応行動について,只越漁港で関係者への聞き取り調査を行い,今回の漁船被害の状況把握を行った.
 図1に,只越漁港の形状と被害状況を示す.調査を行った2006年11月16日14時〜15時現在,一隻は沈没したままであった.海上保安庁の担当者の証言では,注意報が解除された1時半ごろ一旦帰宅し,連絡を受けて朝9時ごろに現場に到着された.その時点で大きな潮位変動が確認されている.第一発見者の証言によると,5時前に港に来たところ,海水が激しく渦巻いて川のように流れており,船が3隻転覆しているのを確認したとのことである.
普段は発生しない渦が発生したという証言,および検潮記録(大船渡)によれば潮位の異常な変動が明け方まで継続していることから推測される.津波によると思われる異常な流れが注意報解除後に発生し,その流れによって漁船は係留索を切られ,漂流し,被害を受けたと考えられる.他の船にも,岸壁にぶつかって壊れたような跡が見られることから,恐らく岸壁に当たって船が損壊し,沈没に至ったのではないかと推測される.


【津波の数値シミュレーションについて】
 津波の伝播・来襲特性の全容を把握するために,震源海域からハワイ諸島周辺海域までの広域的な数値解析を実施した.最大波高分布(図2)から,津波のエネルギーの大きな部分は,千島列島中央部の島々のほか,ハワイ諸島へ向いていることがわかる.このことは,ハワイで日本より大きな津波が観測されていることを裏付けている.

また,NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)がホームページ上に公開しているCG※を見ると,天皇海山列を透過した津波の一部が散乱波として我が国に到達し,約4時間後には東北地方の太平洋岸に到達している様子が確認できる.同様の現象を,当研究室の数値解析によっても確認することができた(図3).
http://nctr.pmel.noaa.gov/kuril20061115.html

図4は,北海道太平洋沿岸の津波伝播状況を,数値シミュレーションにより再現したものである.第一波来襲後においても,津波は根室半島から襟裳岬にかけて多重反射しながら伝播していることが分かる.このような,大陸棚に沿って伝播する波動を境界波またはエッジ波と呼び,最大波を伴う津波が第一波来襲後数時間かけて到達するという特徴を有する.エッジ波が大陸棚上に励起された場合には長時間の警戒が必要となる.

図1 只越漁港の漁船被害状況図
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上図(図2) 津波の最大波高の分布(計算値)
下図(図3) 数値シミュレーションによって再現された津波の伝播状況(地震発生から○○時間後)
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図4 北海道沿岸の津波の伝播状況(数値シミュレーション結果)
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【今後の課題】
 津波工学研究室では,津波予測精度の向上と被害軽減策の立案を目的として,以下に列挙する点について今後も検討を進めていく.


  • 境界波・エッジ波などの複雑な波動の伝播特性の解明

  • 漁船などの小型船舶の被害発生機構の解明(現地での証言から,小型船舶の被害は何度も到達した津波によって発生した港内の急激な流れによって発生した可能性がある)

  • 津波警報解除の基準

  • 沿岸部の津波監視と情報共有のための方策

  • 各自治体の津波避難に係る対応状況と問題点の把握(津波避難指示と勧告など対応がばらばらであり,かつ,避難指示・勧告による住民の避難率は非常に低い)




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