東北大学工学研究科・工学部
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2007/05/24

知能デバイス材料学専攻の小池淳一教授は大画面液晶TVパネルの画像表示むら等を解決できる銅合金配線を開発しました。

知能デバイス材料学専攻の小池淳一教授は、大画面液晶パネル用途として、これまでで最も抵抗が低く、ガラス基板との密着性にも優れた銅合金配線を開発した。新しい合金は、銅−マンガン(Cu-Mn)合金であり、現状のアルミニウムや銅合金配線に比べて抵抗を半減できるため、大画面パネルの画像表示むらを解決できる。さらに、銅配線特有のガラス基板からの剥離や表面酸化の問題も同時に解決できるというもの。


37型以上の大型液晶TV では、最近、フル・ハイビジョン仕様(1920x1080 画素)に高精細化している。さらに、動画像応答を改善するために2 倍速スキャン(フレーム周波数120Hz)を採用している。これに用いる液晶パネルでは、各画素には薄膜トランジスタ(TFT)からなるスイッチが配置されて、走査線と信号線である縦横の配線に接続している。走査線にTFTをオンオフするゲート電圧パルスが印加され、これに応じて信号線から各画素に画像信号を書き込む。これをフレーム毎に繰り返して画像を作る仕組みになっている。しかし、大画面になると配線が長くなるため、例えば、左側の端部に印加されたパルス状のゲート電圧は、配線の右側の端部に近づくにつれて伝搬遅れが生じ、その結果として、画面の左側と右側で輝度が異なり、画像表示むらが生じる現象がある。この現象は、前記の大画面化、高精細化、2 倍速スキャンではより発現し易い。

現状の大画面液晶パネルでは、この問題を解決するために、例えば、画面の両側に駆動回路を配置することによって、ゲート電圧パルスが伝搬する配線長さを画面サイズの半分に抑えることで対応している。今回開発したCu-Mn 合金を用いて配線を形成すると、従来のアルミニウム合金の配線材料に比べて配線抵抗を半減できるので画像表示むらを大幅に抑制できる。その結果、大画面液晶パネルの駆動回路を画面の一端に配置するだけで、現状の両端配置と同等の効果が得られる。

過去にも銅合金を用いた同様の研究は多くあり、ガラス基板との密着性を確保するためにモリブデンやチタンなどの元素を添加したり、界面にこれらの金属膜を追加で形成している。その結果、配線抵抗がアルミニウム配線と同等のレベルまで上昇し、銅配線を用いることの優位性が無かった。

これに対して、今回のCu-Mn 合金は、150〜350℃で数分程度の熱処理を行うことによって、マンガン原子が基板のガラスと反応して、数ナノメートルの厚さの安定な反応層を形成する。その結果、ガラス基板からの剥離の問題は皆無となった。配線中に残っているマンガン原子は、微量酸素雰囲気で短時間の熱処理を行うことによって配線表面に拡散して耐酸化被膜を形成し、配線内部は純銅になる。その結果、配線抵抗は純銅配線の値(約2μΩcm)まで低減できた。

Cu-Mn 合金のこのような優れた特長は、次世代半導体配線の開発を目指した科学技術振興機構の「実用化のための育成研究」プロジェクトから派生した。半導体用途に向けてのCu-Mn 合金配線は、既に数社が実用化のための開発を行っているが、液晶パネルの配線での実用化はこれからだ。液晶パネルのコスト競争が熾烈になるなかで、低コストで高性能を実現できる基盤技術となりそうだ。

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