東北大学工学研究科・工学部
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2010/02/16

エネルギー安全科学国際研究センターの小川和洋准教授らの研究グループが耐熱・耐圧部材を傷めない補修・コーティング技術を開発しました

NEDOの産業技術研究助成事業(http://www.nedo.go.jp/itd/teian/index.html)の一環として、東北大学大学院 工学研究科 附属エネルギー安全科学国際研究センターの小川和洋准教授らは、コールドスプレー法(注1)による粒子付着技術を利用して、表面温度が900℃以上の環境下でも耐えうる革新的な補修・コーティング技術を開発しました。計算科学(注2)を援用することで、金属粒子のスプレー条件を最適化し、耐熱材料であるニッケル(Ni)基超合金基材上に極めて緻密な皮膜(注3)を形成することに成功しました。この技術は、金属以外の材料にも適用可能なため、種々の環境で使用される機器・構造物への応用も期待できます。

図1 コールドスプレー法を利用した補修・コーティング技術の概念図
※画像クリックで拡大表示

(図1 左)ヘリウムや窒素等の作動ガスを高温・高圧にし、その際の体積膨張を利用して金属粒子を超音速程度の速度まで加速させて十分な塑性変形を生じさせることで、ターゲット基材上に厚さ数mmのコーティングを形成します。その際、金属粒子の温度は100-200℃程度であるため固相状態のままで皮膜が形成し、相変態・高温酸化が抑制できます。また、高速で粒子を基材へ衝突させるため、緻密な膜が形成できます。(図1 右)古典分子動力学による計算例で、粒子と基材が付着する際の結合エネルギーを求めています。図の上部が粒子、下部が基材を想定しており、この図は、粒子がNi3Alのγ’相で、基材がNiのγ相の例です。この図の左側が基材と粒子が衝突する直前で、右側が衝突後に界面で付着が生じた場合を表しています。この結果を詳細に評価することで、界面が付着するためには粒子と基材の結晶面が等しいあるいは非常に近い結晶面同士であるか、もしくは基材と粒子が接している原子層同士の反応が必要不可欠であることを明らかにしております。

注1)コールドスプレー法とは、材料を溶融またはガス化させること無く、金属粒子を超音速ガス流と共に固相状態のまま基材に衝突させて皮膜を形成する技術のことです。
(注2)対象としているNi基超合金は、母相であるγ相(Niが主の相)と析出強化相であるγ’相(Ni3Alの金属間化合物)の二相から成っています。基材と粒子が高速で衝突する際、基材と粒子の衝突面がγとγ’相である場合を想定し、どのようなスプレー条件の際に最も結合エネルギーが高くなるかを分子動力学等の計算科学を用いることで評価を行っています。この結果、基材と粒子が付着するためには、界面で粒子と基材の結晶面が等しいか、もしくは基材と粒子が接している原子層同士の反応が必要不可欠であることを明らかにしました。この結果をもとにスプレー条件の最適化およびスプレー前・後処理の有効性を求めることができました。
(注3)基材を高温に加熱する溶接法等、従来の補修技術では、高温酸化や、大きな温度変化により組織構造が変化してしまう課題がありました。


1. 背景及び研究概要

現在、火力発電所や原子力プラントの構造物や自動車、鉄道、航空機などの輸送機器の部材、部品の多くに耐高温・高圧の材料が使われていますが、長期間の使用による経年的な劣化が否めません。劣化を受けた部材は、その劣化が軽微であれば、補修によって再利用されています。しかし、従来技術の溶接法では、補修施工時間が長時間に渡ること、熱影響部の発生が避けられないこと、特殊技能を必要とすることなど、多くの問題がありました。
そこで、東北大学大学院工学研究科附属エネルギー安全科学国際研究センターでは、コールドスプレー法の粒子付着技術を利用して、熱影響、高温酸化、および相変態の極めて少ない補修・コーティング技術を開発しました。ここで高温酸化とは、高温環境下のようなドライな状態で金属と酸化が反応し起こる現象であり、相変態とは温度の上昇・下降により元の組織が変化する現象のことです。計算科学の援用により、模擬的にスプレー条件を変化させ、その際の基材/粒子の結合エネルギーを求めることでスプレー条件の最適化を検討しました。その結果、表面温度が900℃を超える高温部材等に、大気中での成膜であっても付着層内に酸化物や気孔をほとんど作ることない(気孔率1%以下)極めて緻密なコーティングを形成することに成功しました。コールドスプレー法を用いることの最大の理由は高速補修と熱影響部の回避で、このことにより大面積に対し数十mm/minの成膜速度で熱影響のない緻密な成膜ができるようになりました。これまでに、耐熱材料であるNi基超合金基材上への同材料皮膜の付着に成功しており、900℃における高温クリープ試験で、基材同等あるいはそれ以上の特性を有する付着層の形成を実証しています。サンプリングおよび計算科学の援用により付着メカニズムを明らかにできるため、種々の環境で使用される種々の機器・構造物への応用が可能です。高温材料以外の材料・構造物へも展開が可能な補修・コーティング技術です。


2. 競合技術への強み

この技術には、次のような強みがあります。
(1)熱影響、高温酸化、相変態が極めて少ない
施工時の粒子温度は100-200℃程度であるため、熱影響はほとんど発生せず、その結果高温酸化がほとんど無く、相変態も生じない付着層・コーティングを形成できます。
(2)緻密な付着層を形成する
気孔率1%以下の極めて緻密な付着層を形成できます。
(3)様々な材料への応用・展開が可能
計算科学の利用により付着メカニズムを明らかにできるので、高温材料以外の金属材料・構造物への応用・展開が可能です。また、セラミックスやポリマー材料への応用の可能性も十分にあります。

表1 本技術と従来手法の比較表

















































































表1 本技術と従来手法との比較表
 コールドスプレー法を用いた
補修・コーティング【今回の技術】
溶接法溶射法
熱影響度◎ 極めて低い× 広範囲に熱影響部発生△ 若干有り
高温酸化◎ ほとんどなし△  表面は酸化× 皮膜内部も酸化
相変態◎ ほとんどなし× 大きく変化△ 粒子は相変態大
補修部温度◎ 粒子温度100-200℃× 融点以上× 融点以上
気孔率○ 1%以下◎ ほぼ0△ 数%〜十数%程度
被対象物○ 主として金属(条件によってセラミックスも可)△ 金属のみ◎ セラミックス、金属
膜厚○ 材料にも寄るが数十mm◎ 制限無し○ 材料にも寄るが数十mm
応用・展開◎ 種々の金属材料に留まらず、セラミックスやポリマーへの応用の可能性大△ 必要かつ重要な技術であるが、成熟技術であり、現状維持○ 新しいプロセスの開発も進んでおり、一部では新展開も期待される
施工速度◎ 大面積に数十mm/min× 狭い範囲に数mm/min○ 数十mm/min
補修コスト△ 高強度材料の場合、大電源、Heガスを使用。付着メカニズムの解明により低コスト化を実施(本研究課題)△ 施工速度が遅いため、補修が数時間に渡り、人件費の増加につながる○ 大電源、Heガスを使用。ただし、Heガスの使用料はコールドスプレーに比べ少
付着層の強度信頼性△ 計算科学の援用で付着強度向上のためのパラメータ管理実施(本研究課題)○ 熱影響を抑えられれば信頼性良△ 溶射条件の最適化が必要
総合評価○ 研究課題の克服によって高品位、高性能な補修部の形成が可能△ 施工時間、熱影響の発生等が問題△ 真空チャンバーがない場合には補修部で高温酸化の発生が問題



3. 今後の展望

今後、東北大学では、このコールドスプレー法を用いた補修・コーティング技術の実用化に向け、対象となる機器・構造物特有の使用環境条件の把握やその対応策・対応技術の開発を行っていきます。様々な環境で使用される機器、構造物、プラントの設計やその補修技術を保有する企業・組織、あるいは構造・機能性厚膜商品の開発に実績を有する企業・組織、さらには半導体や生体材料等の新分野への応用をお考えの企業・組織などと、意見交換や技術相談、共同研究を提案します。


4. お問い合わせ先

[本プレス発表の内容に関するお問い合わせ]
東北大学大学院 工学研究科 附属エネルギー安全科学国際研究センター 准教授 小川和洋
TEL: 022-795-7542   FAX: 022-795-7543
E-mail:kogawa◎rift.mech.tohoku.ac.jp(◎を@に変換してください)
研究室HP: http://www.rift.mech.tohoku.ac.jp/index.html


[NEDO制度内容についての一般的なお問い合わせ]
NEDO 研究開発推進部 若手研究グラントグループ 鍵屋、松?、千田
TEL 044-520-5174  FAX 044-520-5178
個別事業HP 産業技術研究助成事業(若手研究グラント)
http://www.nedo.go.jp/itd/teian/index.html

【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:eng-pr@eng.tohoku.ac.jp

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