東北大学工学研究科・工学部
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2010/03/25

医工学研究科の佐藤 正明 教授、工学研究科の坂元 尚哉 助教らの研究グループは、流れに曝された内皮細胞内部の変形の様子を世界で初めて可視化に成功しました。


東北大学大学院医工学研究科の佐藤 正明 教授,工学研究科 坂元 尚哉 助教,工学研究科大学院生で日本学術振興会 植木 洋輔 特別研究員らの研究グループは,血流を模擬した流れの中に曝された内皮細胞の断面像をリアルタイムに可視化し,変形挙動を観察することに世界で初めて成功しました。この成果により,細胞の“力”に対する応答メカニズムを明らかにし,血管病理の解明や再生医学の発展に貢献することが期待されます。この成果は米国速報誌Biochemical and Biophysical Research Communications誌オンライン版で公開されました.

【研究内容】
 私達の血管の最も内側の面(内腔面)は,内皮細胞と呼ばれる細胞の層によって覆われています.この細胞は,血液と組織中の物質透過性の制御や管径の調節といった生命活動を行っていく上で,非常に重要な機能を多数持っている細胞であり,動脈硬化症や動脈瘤といった血管疾病の発生にも大きく関わっていることも知られています.内皮細胞は血液に直接接触するために,血液の流れによって生じる「せん断応力」という力学的な刺激に絶えず曝されています.これまでの研究で,せん断応力が内皮細胞の様々な機能や遺伝子の発現に影響を与え,血管疾病の発生にも密接に関わっていることが明らかになりつつあります.これらのことから,内皮細胞はせん断応力という力学刺激を感知していると言えますが,そのメカニズムの解明を目指した研究が数多く行われています.細胞が力を感知する上で,「メカノトランスダクション」と呼ばれる力学的な刺激から生化学的な反応への変換過程が近年注目を集め,いくつかのタンパク質分子などがメカノトランスダクションを担うセンサーとして機能していることが報告されています.しかし,せん断応力を負荷された内皮細胞においては,細胞のどの位置に存在するどの種類のセンサーにどのぐらいの大きさの力が負荷されているのかという情報が不足していたことが,メカニズムの解明を妨げていました.

本研究では,機械工学的見地から“せん断応力を負荷された内皮細胞はどのように変形しているのか”という細胞内の力の伝達を調べる上で最も基本的なポイントに着目しました.生きた培養内皮細胞にせん断応力を負荷しながら共焦点レーザ走査型顕微鏡を用いた断層観察を行うことにより,細胞の変形挙動をリアルタイムに観察しました.その結果,細胞全体としてだけでなく細胞核もせん断変形挙動を示しているという驚くべき現象が明らかとなりました.一般的に細胞核は細胞質よりも硬いと信じられておりましたが,実際には周囲の細胞質と同程度の軟らかさであり,細胞表面または細胞底面と細胞核の間には,機械的な接続が存在することが示唆されました.また,近年,細胞核の変形や細胞核への伝わる力が,遺伝子発現に影響を及ぼすことが考えられていることから,細胞核自身が流れ刺激に対するセンサーとして機能している可能性も示唆されました.さらに,この断層像から画像相関法や有限要素法を用いて,細胞内の変形量を定量的に解析した結果,従来の試験方法で得られた細胞の硬さから推定するよりも,実際には細胞がより大きく(最大で10倍ほど)変形することが明らかになりました.この結果は,これまでには見られない力学的かつ定量的情報であり,今後の内皮細胞のせん断応力に対する応答メカニズム解明を大きく前進させることが期待されます.

 本研究は,文部科学省科学研究費補助金特別推進研究「細胞の力覚機構の解明」(研究代表者:佐藤正明 東北大学大学院医工学研究科教授),日本学術振興会科学研究費補助金特別研究員奨励費「ライブイメージング複合局所刺激による細胞力学応答に関する研究」(研究代表者:植木洋輔 東北大学大学院工学研究科博士課程後期,日本学術振興会特別研究員DC2)による支援を受けています.

図1 血管内皮細胞に作用する力学刺激
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図2 内皮細胞の変形挙動解析 (上)流れに曝された内皮細胞の垂直断面像,(中)細胞内変位分布,(下)細胞内せん断歪み分布
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【問い合わせ先】
東北大学大学院医工学研究科 教授 佐藤 正明 TEL 022-795-6942
東北大学大学院工学研究科 助教 坂元 尚哉 TEL 022-795-6945

【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:eng-pr@eng.tohoku.ac.jp

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