東北大学工学研究科・工学部
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2011/07/11

バイオロボティクス専攻の石川拓司准教授らの研究グループは、バクテリアの効率的な群泳を発見しました。

【ミクロな世界のミステリー 〜バクテリアの効率的な群泳を発見〜】
概要

動物は群れをなして行動することで、効率的に移動できることが知られています。例えば鳥の編隊飛行、魚の群泳、自転車レースでの集団形成では、抵抗を劇的に減らすことができ、少ない労力で移動できます。しかし、ミクロの世界に棲む生物にとっても、集団遊泳が効率的かは謎のままでした。

東北大学大学院工学研究科の石川拓司准教授らの研究グループは、最新の実験方法を用いてバクテリアの集団遊泳を調べ、この謎を解くことに成功しました。バクテリアは泳ぐ際に群れをなして協調することで、驚くほど少ない労力で通常の3倍もの速さで泳ぐことができ、周りの液体を強くかき混ぜることがわかったのです。ミクロな生物の効率的な群泳は世界で初めての発見であり、この研究成果はアメリカ物理学会誌Physical Review Letters に掲載されました。

説明

動物は群れをなして行動することで、効率的に移動できることが知られています。例えば鳥の編隊飛行や魚の群泳では、抵抗を劇的に減らすことができ、移動時の無駄な労力を減らせます。我々も自転車のロードレースで集団を形成することで、空気抵抗を劇的に減らすことができ、ラストスパートのための体力を温存できます。一方、バクテリアなどのミクロな生物達は、鳥や魚とは全く異なる世界で生活しています。ミクロの世界では、液体の粘性の影響が非常に強いため、集団で遊泳することが効率的かは謎のままでした。

東北大学大学院工学研究科の石川拓司准教授らの研究グループは、最新の実験方法を用いてバクテリアの集団遊泳を調べ、この謎を解くことに成功しました。図1に遊泳大腸菌が作り出す流れのパターンを示します(図中のスケールバーは50µmです)。大腸菌のサイズ2µmに対して、図中の渦のサイズは50µm程度と大きく、数十匹から数百匹の大腸菌が集団で遊泳していることが分かります。一匹の大腸菌の遊泳速度はおよそ20µm/s程度ですが、この集団遊泳によりその約3倍(約60µm/s)にまで遊泳速度が上昇しました。また、この集団遊泳によって溶液内が強くかき混ぜられ、通常のブラウン運動による物質拡散の数百倍から数千倍にもなる強い攪拌が溶液内に生じていることが分かりました。

さらに解析を進めたところ、バクテリアは驚くほど少ないエネルギーでこの集団遊泳を維持していることが分かりました。大腸菌が消費する全エネルギーの内、およそ0.1%のエネルギーしか集団遊泳を維持するために使われていなかったのです。つまり、バクテリアは遊泳速度の増加や攪拌の増強などの恩恵を享受しているにもかかわらず、集団で遊泳することにほとんど労力を費やしていなかった訳です。こうした効率的な集団遊泳がミクロスケールの生物で発見されたのは、世界で初めてです。この発見は7月8日発行のアメリカ物理学会誌Physical Review Letter誌に掲載されEditors’ Suggestions に選ばれ、APS journal の’Physics’ (http://physics.aps.org/) にも取り上げられています。

こうしたバクテリアの集団遊泳のメカニズムの解明は、バクテリアが多く存在する様々な環境(腸内、土壌、海洋など)で、どのように効率的に酸素や栄養を取り込んでいるのかを知る手がかりになると考えています。

研究グループは、東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻 石川拓司准教授、当時東北大学の学生であった吉田尚人氏、東北大学国際高等研究教育機構 上野裕則助教、当時東北大学の学生であったMatthias Wiedeman氏、東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻 今井陽介助教、東北大学大学院医工学研究科医工学専攻 山口隆美教授からなります。本研究は、総合科学技術会議により制度設計された最先端・次世代研究開発支援プログラム、および科学研究費補助金により、日本学術振興会を通して助成されたものです。

参考資料
  1. バクテリアが集団遊泳で作り出す流動パターンの動画
    下記のURLよりご覧になれます。
    日本語版: http://www.pfsl.mech.tohoku.ac.jp/japanese/contents/news.html
    英語版: http://www.pfsl.mech.tohoku.ac.jp/contents/news.html
  2. 成果が報告された論文
    T. Ishikawa, N. Yoshida, H. Ueno, M. Wiedeman, Y. Imai and T. Yamaguchi
    Energy transport in a concentrated suspension of bacteria
    Physical Review Letters, 107, 028102 (2011)

図1:バクテリアが集団遊泳で作り出す流動パターン (図中のスケールバーは5µmです)
※画像クリックで拡大表示
図2:バクテリア懸濁液内の3次元渦構造
※画像クリックで拡大表示

お問い合せ先

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〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-11
Phone: 022-795-4009
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