東北大学工学研究科・工学部
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2011/11/28

化学工学専攻の今野幹男教授・長尾大輔准教授らの研究グループは耐熱性にも優れる高屈折率透明ナノコンポジット薄膜の作製に成功しました。

概要

東北大学大学院工学研究科化学工学専攻の今野幹男教授・長尾大輔准教授らの研究グループは、既にプレスリリース(東北大学, 平成21年9月25日)した高屈折率透明ナノコンポジット膜(Polym. International 60, 1180-1184 (2011))の作製技術を応用し、400℃程度の高温下でもほとんど熱分解しない高屈折率ナノコンポジット透明膜を新たに作製することに成功しました。


薄型ディスプレイに代表される表示デバイスでは一般に、異種材料界面で生じる屈折率差をできるだけ抑え、発光素子からの光を高効率で外部に取り出すことが重要となります。デバイス内に高屈折率・低屈折率材料が混在する多層構造の場合は特に、層間の屈折率ギャップを小さくし、異種材料界面で生じる光損失を低減することが求められます。このような課題に対して、屈折率ギャップを補うための透明膜を異種界面に挟み込むことが検討されています。


ポリマー中にナノ粒子を均一分散したナノコンポジット膜は、ナノ粒子の分散量によって屈折率を調整することが可能であり、屈折率ギャップ調整層として注目されています。これまでにも様々なナノ粒子と透明ポリマーからなるナノコンポジット膜が作製されています。しかしながら、デバイス製造工程ではナノコンポジット膜が300℃を超える高温環境に晒される場合もあり、このような場合、透明高分子として広く知られるアクリル系ポリマーをマトリックスポリマーとして利用することは困難でありました。


このような背景から同研究グループは、耐熱性に優れるポリイミド中に高屈折率材料としても知られるチタン酸バリウム(BT)をナノ粒子の状態で均一に分散させることで、高耐熱・高屈折のナノコンポジット透明薄膜を作製しました。


結果詳細

今野教授・長尾准教授らの研究グループは、これまで積み上げてきたナノ粒子合成技術と粒子表面処理技術を駆使することで、耐熱性に優れる高屈折率ナノコンポジット透明薄膜を作製しました。具体的には、屈折率の高い結晶性チタン酸バリウム(BT)のナノ粒子を、耐熱性透明高分子であるポリイミド(PI)中に分散する手法を開発しました。高屈折粒子として広く知られるチタニアナノ粒子には光触媒作用がありますが、今回適用したBTナノ粒子にはその触媒作用がほとんどなく、ナノ粒子共存下での光照射によるポリマー劣化を懸念する必要がありません。BTナノ粒子をポリイミドに均一分散するため、分散前のBTナノ粒子表面を、ポリイミド骨格に類似の構造を有する有機分子で表面処理し、高濃度充填によるナノ粒子の凝集を抑制しました。


(屈折率評価)

図1(下図参照)は、粒径約20nmのBTナノ粒子をポリイミドに充填したときに得られるナノコンポジット薄膜の屈折率を示しています。図中の屈折率変化からわかるように、BTナノ粒子を高充填することで屈折率が1.85に達しており、層間での屈折率ギャップを補うに十分な高屈折率ナノコンポジット薄膜を得ることができました。


(透明性評価)

図2(下図参照)は、種々の濃度で充填したナノコンポジット薄膜の透過スペクトルを示しています。BT粒子を約60vol%充填してもナノコンポジット膜の透過率低下はほとんど見られませんでした。この評価結果から、充填したBTナノ粒子がポリマー膜中で均一に分散していることを示唆することができます。


(耐熱性評価)

図1および図2に示したナノコンポジット薄膜の耐熱性を示差熱重量分析装置で評価したところ、耐熱性の指標となる5%重量減少温度(Td5)はいずれのコンポジット薄膜においても窒素雰囲気下で460℃を超え、ポリイミドのみの薄膜のTd5(498℃)に匹敵する優れた耐熱性を示しました。


さらに今回、ポリイミドに高誘電性材料の一種であるチタン酸バリウムを充填しており、得られたナノコンポジット薄膜は誘電特性にも優れます。BT粒子充填率59vol%におけるコンポジット薄膜の誘電率は35超、誘電損失は0.05以下と透明キャパシタとしての応用も期待されます。なお、本研究は(株)サムスン横浜研究所との共同研究で実施されたものです。

図1:チタン酸バリウムナノ粒子を充填したポリイミド薄膜の屈折率変化
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図2:チタン酸バリウムナノ粒子を充填したナノコンポジット膜の透過スペクトル
※画像クリックで拡大表示

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プロセス要素工学講座 材料プロセス工学分野
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