東北大学工学研究科・工学部
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2012/08/27

「発電しながら測る」電源が要らない微小なバイオセンサを開発 独自の“酵素電極シール”を使って実現

東北大学大学院工学研究科の西澤松彦 教授は,独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)ナノチューブ応用研究センターの畠賢治 上席研究員と共同で,酵素とカーボンナノチューブ(CNT)が均一に混合した「酵素電極シール」を開発し,ブドウ糖の水溶液から世界最高レベルの発電(25mA/cm2)ができました。さらにこのシールを「貼るだけ」で,果物の甘さに応じて点滅する「電源不要」の糖度センサを実現しました。本研究はJST戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環であり,成果の一部が2012年8月27日にドイツ科学誌「Advanced Energy Materials」にオンライン掲載されます。

【研究開発のポイント】

  • 「巻ける」「貼れる」 世界初の柔らかい酵素電極シールを開発
  • ブドウ糖水溶液から世界最高の効率で発電
  • 自力で発電するバイオセンサ(糖度センサ)に応用


【背景と概要】
 酵素を利用するバイオセンサが健康管理や食品管理に用いられていますが,電気式のセンサに必要な電池はサイズが大きく,また,環境や生体に有害な金属や反応溶液を含みます。今回の共同研究で開発した有機物製の酵素電極シールは,果汁などのバイオエネルギーを直接利用する安全な発電システムとして,環境や生体と調和します。そして,発電量が果汁の糖分量に比例するため,センサとしての利用が可能です。今回のブドウの例では,甘さに応じて発光ダイオードの点滅のペースが速くなるため、電源不要の微小な糖度センサ(熟度センサ)になります。将来的には血糖値センサへの応用も期待できます。また,ケーキなどに刺せばデコレーションにもなるでしょう。本共同研究グループは酵素電極フィルムの技術を特許出願しており,実用化にご協力いただけるパートナー企業を募集中です。

本成果は以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)
研究領域:プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製
(研究総括:曽根純一(独)物質・材料研究機構 理事)
研究代表者:西澤松彦(東北大学大学院工学研究科 教授)
畠 賢治((独)産業技術総合研究所ナノチューブ応用研究センター 上席研究員)
研究期間:平成20年10月〜平成26年3月


【研究成果の詳細】
(1)貼れる酵素電極シール
酵素を固定した電極(酵素電極)は,電気式バイオセンサやバイオ電池の性能を決定するコア部品です。ブドウ糖(グルコースとも呼ぶ)を酸化する(電子を引き抜く)グルコースオキシダーゼ(GOD)という酵素を,電子伝達を仲介するメディエータ高分子と共に固定した電極は,市販の血糖値センサにも用いられる代表的な酵素電極です。これまでのGOD電極は,多孔質カーボン電極にメディエータ高分子とGODを,ランダムに(ぐちゃぐちゃに)固定したものなので性能のバラつき,また,脆くて変形できないのが弱点でした。
本研究では,カーボンナノチューブ(CNT)が整然と並んだフィルムを電極に用います。このCNTフィルムは,産総研ナノチューブ応用研究センターが開発したスーパーグロース法で作製される1mm x 1mmのフィルムであり,1 mm長さのCNTが16nmの間隔で整然と配列してできています。この内部空間にメディエータ高分子とGODを順々に導入して,図1に示す均一な構造を,再現性良く作る方法を確立しました。理想的な構造であるため,37℃のブドウ糖水溶液(200mM)から25mA/cm2の電流密度を得ることができ,これは,GOD電極として世界最高レベルの性能です。さらに,1枚の電極フィルムに含まれる約3兆個のGODの全てがフル稼働し,酵素の利用効率がほぼ100%に達することも分かりました。つまり究極のGOD電極と言えます。

(2)電源不要のバイオセンサ
上述の方法で作製した“貼れる”酵素電極シール用いて,図2に示すバイオセンサを試作しました。センサ本体は,赤色LED,チャージポンプIC(S-882Z20),および 1Fセラミックコンデンサで構成され,一定の電荷が溜まると放電が起こってLEDが点滅する仕掛けになっています。電源が不要なので,ご覧の様に微小サイズです。このセンサの先端に酵素電極シール貼り付け,ブドウの実に刺すと果汁に含まれるグルコースから得た電流でLEDが点灯しました。その時カソードでは,酸素O2が電子と結合して水H2Oに変わります。果実の糖度に応じてLEDの点滅間隔(電荷が溜まる速度)が変わるため,このシステムは果物の熟度を知らせるセンサとして機能しました。市販の糖度計は,光の屈折を利用した測定法を採用しており,相対値(屈折率変化)によって評価しています。一方,我々の糖度センサは,酵素の選択性を利用することで,グルコース濃度の絶対値評価が可能ですし,刺したままにすれば熟度の変化をモニタリングできます。ここで示した糖度センサ以外にも,「発電しながら測定する」自己発電式センサの応用は,食品衛生・健康医療・アミューズメント・装飾に渡って数多く考えられます。

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図1酵素電極シールの作製と,世界最高レベル(25 mA/cm2)のグルコース酸化電流
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図2 自己発電式のバイオセンサ
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<論文名・著者名>
“Molecularly Ordered Bioelectrocatalytic Composite inside a Film of Aligned Carbon Nanotubes” S. Yoshino, T. Miyake, T. Yamada, K. Hata, M. Nishizawa, Adv. Energy Mater. (2012), DOI: 10.1002/aenm.201200422.

<お問い合わせ先>
西澤 松彦(ニシザワ マツヒコ)(教授)
TEL/FAX: 022-795-7003 E-mail: nishizawa◎biomems.mech.tohoku.ac.jp (◎は@に置き換えてください。)
三宅 丈雄(ミヤケ タケオ)(助教)
TEL/FAX: 022-795-3586
東北大学大学院 工学研究科 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-01 

【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:eng-pr@eng.tohoku.ac.jp

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