東北大学工学研究科・工学部
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2012/09/10

超小型・超高速・超低消費電力の革新的ナノテクノロジー 〜次世代集積回路の実現に鍵〜 グラフェンナノリボンの画期的合成・集積法の開発


<概要>
東北大学 大学院工学研究科の畠山力三名誉教授、加藤俊顕助教は炭素原子1層の厚みからなる2次元グラフェンシート注1)が1次元リボン構造となった状態のグラフェンナノリボン注2)の画期的合成・集積方法を開発しました。
開発した手法を用いることにより、ナノ複合材料や超微細電子回路を形成する基板上の任意の方向、位置にグラフェンナノリボンを自在に制御して合成することに世界で初めて成功しました。さらに、本手法で合成したグラフェンナノリボンが高性能半導体デバイス (電流オンオフ比注3) : 10,000以上) として動作することを実証しました。
この成果は2012年9月9日(英国時間)付の 英国科学誌 Nature Nanotechnology (ネイチャー・ナノテクノロジー)オンライン版に掲載されます。

1.背景
グラフェンシートは優れた電気伝導特性 (キャリア移動度: 200,000 cm2V-1s-1), 柔軟な機械的構造, 高い光透過性を合わせ持つ次世代の炭素ナノ材料として大きな注目を集めている新規ナノ材料です。一般にグラフェンシートは2次元シート構造をとっており、バンドギャップを持たない金属的振る舞いをします。これに対してグラフェンシートがナノメートルオーダー幅の1次元リボン構造(グラフェンナノリボン)をとることで、グラフェンシートに有限のバンドギャップを発現させ得ることが近年明らかになりました。これにより、グラフェンナノリボンは主に半導体デバイス応用分野において、世界中から大きな注目を集めている材料となっています。しかしながら、このグラフェンナノリボンの構造(リボン幅、長さ等)を制御して合成する手法、及び基板上の狙った位置と方向に合成する技術は開発されておらず、グラフェンナノリボンを集積化する際の大きな課題となっていました。

2.研究成果概要及び本成果の意義
本研究では、独自に開発した急速加熱拡散プラズマ化学気相堆積法注4とニッケルナノバーを反応触媒として利用するという独創的なアイディアを駆使することにより、グラフェンナノリボン合成に成功しました。
中性原料ガスを電気的作用により分解し化学的反応性に富んだ活性種を多量に合成することが可能な“プラズマ化学気相堆積法”(特にプラズマ中の高エネルギーイオンによる損傷を極限まで低減することのできる“拡散プラズマ”を利用)と、試料を短時間で高温状態まで加熱する“急速加熱法”を組み合わせることにより、従来とは全く異なる反応場を作り出せることが明らかとなりました。また、ニッケル自体をナノスケール化して、その微細ニッケル構造(ニッケルナノバー)を反映させたグラフェンナノリボン合成を発案しました。グラフェン2次元シートの合成にニッケルが触媒金属として働くことは広くしられておりましたが、ニッケル自体をナノスケール化するというアイディアは本研究独自のものです。
あらかじめニッケルで作られたナノバー構造を触媒材料として使用し、急速加熱拡散プラズマ化学気相堆積法注4を行った結果、ニッケルナノバー中のニッケル原子が部分的に徐々に蒸発すると共に、蒸発部から優先的にグラフェンナノリボンが析出することを見出しました。 この手法を用いて、あらかじめニッケルナノバー構造を任意の形状に配列することで、グラフェンナノリボンを基板上に直接所望の配位で合成することが可能となりました。
さらに、本手法で合成したグラフェンナノリボンの電気伝導特性を精密に評価した結果、電流オンオフ比が10,000以上の高性能半導体デバイスとして動作することを実証しました。
これ等の成果は、グラフェンナノリボンを利用した半導体デバイスの集積化実現に大きな貢献が期待できるものです。

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3.今後の展望
これまで同様の炭素ナノ材料として大きな注目を集めてきた、一次元炭素ナノ物質であるカーボンナノチューブの場合は、1:2の割合で金属的ナノチューブと半導体ナノチューブが混在してしまう問題が存在しました。半導体デバイスに金属的物質が混入することはデバイス性能の劣化に直結する大きな問題です。これに対して、グラフェンナノリボンの場合は、全てが半導体的性質を持つため、金属混入の懸念が無いという大きな利点があります。また、リボン幅が数ナノメートルオーダーの超微細構造であること、2次元グラフェンシートと同様に高いキャリア移動度、光透過性、機械的柔軟性もあわせ持つ材料であること等から今後、次世代超高密度集積デバイス、超高性能フレキシブル有機デバイス、さらにはナノエレクトロメカニカルシステム(NEMS)等の新概念デバイス実現等の分野で非常に大きな期待が寄せられています。

【用語解説】
注1) グラフェンシート
炭素原子1層の厚みから構成される炭素六員環2次元シート構造物質。バンドギャップを持たないため主に金属的振る舞いを示す。

注2) グラフェンナノリボン
炭素六員環2次元シート構造であるグラフェンシートがリボン(短冊)状に疑似1次元化した物質。グラフェンシートはバンドギャップがゼロである金属材料であるのに対し、グラフェンナノリボンは有限のバンドギャップを持つ半導体として振る舞う。

注3) 電流オンオフ比
電子デバイスの基本構成要素であるトランジスタの性能を表わす指標の一つ。
オンオフ比が高いほどより高性能なデバイスとされる。

注4) 急速加熱拡散プラズマ化学気相堆積法
試料を短時間で1000 ℃近い高温状態まで加熱する急速加熱法と、原料ガスを静電エネルギーにより分解し高密度化学活性種を生成すると共に、それを成長中のグラフェンに損傷を与えずに供給する拡散プラズマ化学気相堆積法を組みわせた新しい合成方法。


【お問い合わせ先】
東北大学 大学院工学研究科
加藤 俊顕 助教
電話番号:022-795-7046
E-mail: kato12◎ecei.tohoku.ac.jp(◎を@に置き換えてください。)

東北大学 大学院工学研究科
畠山 力三 名誉教授
電話番号:022-795-7045
E-mail: hatake◎ecei.tohoku.ac.jp(◎を@に置き換えてください。)

【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:eng-pr@eng.tohoku.ac.jp

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